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腐敗した社会とギャラクシ−デイズ

作者: sur

いつも通り、何事もなく平凡な一日が終わる。いつまでも変わることなくこのまま続いていくのかな。そんなことを考えつつ僕はリモコンに手を伸ばし、去年の夏に新しく買った小さめのプラズマテレビの画面をつける。


午後7時ということだけあって、各チャンネルでは予算が少ないながらも、視聴率を稼ごうと力を入れて作られたゴールデンタイムの番組が映し出される。月曜のこの時間帯で一番人気のある番組といえば「あなたの罪を買いまSHOW!!」であろう。ちなみに、この番組のコンセプトは、世界一過激なエンターテイメントだ。簡単に番組内容を説明すると、何かしら犯罪を起こして死刑が確定し、拘置所に入れられた死刑囚や世の中が辛すぎて死を選んでしまった自殺志願者たちがオークションにかけられ、それを入札希望者たちが競り合い、最高額を出した人が彼らの死に方を自由に決めることができるというものだ。そして、入札者が希望した方法で売り手に死がもたらされる姿を番組で放映する。(自殺志願者の場合のみ、法律を破る罪を犯していないので死を拒否できるが番組側に損害賠償を払わなくてはいけない)

ちなみに、入札希望者になるには番組制作会社が作った会の会員料金を払っている。一定以上の所得を得ている成人。逮捕歴が一度もない、という三つの基本条件を満たした人でなければいけない。その中からさらに抽選によって100人が選ばれる。そうして選ばれた入札希望者は法律によって個人のプライバシーが尊重されるため、ネット回線を使って匿名でオークションに参加する。


相変わらず胸くそ悪い番組内容をよくもまぁ、こんな時間から流せるものだ。僕はそう思いながらもテレビの電源を切ったり、チャンネルを変えたりはしなかった。この異常な世界に参加すれば、平凡な生活から抜け出すことができるのかなぁ。そう考えながら麻薬を密輸していた男が何も知らない子どもたちに石を投げられて傷つきながら死んでいく姿をじっと見つめていた。


それから、また相も変わらず平凡な生活を繰り返し僕は一週間を過ごす。しかし、白いキャンバスに黒い点が一つ打たれるように、僕は一つだけ平和な世界に黒い点を打ってみた。番組宛てに「参加したいという」意思を持ったメールを送ったのだ。これで世界は、イルミネーションのように僕の姿だけを留めていきなり変わってしまうのか。それとも、飛んで行ってしまった風船のように。それは空に留まってから何事もなく割れて、終わりを迎えてしまうのか。あぁ、楽しみだ。


月曜日を迎える。結論から言うと、僕はオークションの参加権を得ることができた。キャンバスに打った黒い点は確実に広がりつつある。そして、僕の世界を塗りつぶしてしまうかもしれない。けれど、そんなことはどうだっていい。白が幸せで、黒は不幸だなんて先入観に僕はもう呆れかえっているんだ。先入観を利用して、純粋に見せようと白いワンピースを着てる奴らに。そういうことにばかり必死になってる奴らに。モノクロの写真を撮って見せつけてやりたい。話をして蔑んでやりたい。だが、結局は僕も、平凡な世界に生きる真面目な青年なので、みんなが孤独にならないように作る輪の中に必死に入って歩調を合わせて生きていかねばならない。

刻々と番組の開始時間が迫りつつある。僕はパソコンを立ち上げ、オークション参加の準備に入る。番組のサイトへとアクセスをし、IDとパスワードを入力してログインする。そうして、僕は真っ黒になりつつある灰色の世界へ飛び込む。そして、番組が始まる。さぁ、楽しませてくれ。


画面の中では、よく見る宝塚などの演劇が行われるような広さのステージに、ベルトコンベアみたいな道が左裾から右裾へと伸びている。番組用に華やかな飾り付けがしてあり、ステージはライトアップされ、いかにも"SHOW"といった感じの演出だ。そして番組が始まり、MCの軽快なジョークと趣旨説明が終ると競売にかけられる人物が左裾から流れてくる。

一人目は、いかつい顔をした中年の男性。自分の親を殺したらしい。殺意を持って人を殺した彼。それを僕らは娯楽のために殺す。僕は何故だか車が行き交う道路の真ん中にうずくまり、耳を塞ぎながら叫びだしたくなる衝動に駆られる。しかし、そんなことはしないし、できない。結局、この一人目の競売には参加しなかった。ちなみに入札者が選んだ彼の死刑方法は、「この世の誰にも認知してもらえない」いわゆる社会的な死だ。話しかけても反応してもらえないし、もちろんこちら側も触れられない。僕だったら、と思う。僕だったら、肉体的な死で楽に逝かせてほしい。

ややあって、二人目が右から流れてくる。そして、僕は目を奪われる。

現われた彼女は、猫のような目をした幼い顔つき。一度も染めたことないであろう黒いショートカットの髪。透き通るような白い肌。彼女は物憂げな表情でこちら側を見つめていた。はっ、とする。気がつくと僕は、金額を釣り上げていた。驚くほどに。誰かが食らいついてくる。僕はそれを引き離す。それでも食らいついてくる。逃げきる。そして、パソコンの画面に中央に映った文字。「おめでとうございます!あなたは入札に成功いたしました」僕は頭の中が真っ白になった。そう、真っ白に。


彼女を殺す。何らかの方法で。そして、それは僕によって決定される。それは分かった。では、どうしようか。僕は、幼い少年のように何も考えず、発言した。「僕と結婚して幸せになって死んでくれ」

なんだこれは。頭にお花畑でも広がってしまったのだろうか。そもそもこんな死に方はないだろう。死に方ですらない。こんな死に方がまかり通るわけがないじゃないか。しかし、予想に反して番組側はオーケーを出した。この娘をお前に渡すから、死ぬまで面倒を見ろ。と抑圧的な態度で言ってきた。あぁ、世界は確実に、おかしな方向へ転がっている。


彼女が段ボールのように見える特殊な箱によって我が家へと届けられた。特殊な箱と言ったのは、普通の密封されたダンボールの中に長時間も入っていたら、確実に窒息死をするからだ。それをさせないために特殊な配慮か仕掛け、そんなようなものが施されているんじゃないかと思ったから。特殊な箱と言ってみた。真相は分からないが。


ダンボールを開け、彼女は目を覚ます。僕に語りかける。「私は幸せです。」と。それは彼女が本当にそう思って言っているのかもしれないし、実際は僕を都合のいい奴ぐらいにしか思ってないのかもしれない。ただ、どっちにしろ僕にとって彼女の存在はとても大きなものとなっていった。


僕は平凡な日常の中の、とても多くの時間を彼女と共有した。たくさんの時間を楽しみ、たくさんのことを話し、たくさん感情のすれ違いをさせて、たくさん触れ合った。


そして、ある日僕へと書類が届く。それはびっしり的確に封をされ、まさに本人以外の手で触れることを全く望んでいない封筒であることがわかった。

そして、封を開け、中に入った一枚の書類を取り出し読む。

「あなたは、この世に生まれ育ち自由に生きる権利を持った一人の女性の人生を自分のものにした罪。及び、異常を見逃して放っておき、それをこの世界に蔓延させた罪で、あなたを死刑とする。売り手としてオークションへと参加しなさい。」


ぼくは驚愕しつつも、やはり…と思う。

結局、悪いことと知りつつもそれを見逃していれば罪になるんだな。

恐らくオーディションに参加した入札者らは次の死刑囚となり、殺されていくのだろう。結局は堂々巡りなのか。誰かが断ち切ることはできないのだろうか。


そして僕は悲しくありつつも同時に、面白いとも思う。やっときた平凡からの脱出。僕はどのような方法で殺されるのだろうか。あいつらは、どのように僕を捻じ曲げてテレビ画面で放映するのだろう。僕は可笑しくて笑いだしてしまった。すでに世界は真っ黒く塗りつぶされ、何も見えなくなってる。



自己の絶対的安全性が確保された場所では、他人の災害ですら娯楽になり得る。果たしてその行為を僕らはどのように感じて生きていかなければいけないのか。また、このような行為について。良心の呵責を感じず、既成の社会道徳に疑問を抱かず、悪を排斥する行為は悪いことではないのか。そのようなことを思い書いてみました。拙い文章ですが楽しんで頂けましたでしょうか。もし、感想、意見などがありましたらどんどん送ってください。

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