少年と少女
「お兄ちゃんご飯できたよ!」
「おう!もう行くよ!ちょっと待ってて...」
夜の町外れの家の中で大きな声が響く。ここは首都からはかなり外れた場所にある田舎だ。
家には兄と妹の2人だけで暮らしている。母親は妹を産んでから亡くなり、父親も行方不明である。
貧しい家庭であるにもかかわらず、リビングの新品のテレビからニュースが流れてきた。
「ルーフェン銀行の窃盗事件からまもなく1年が経とうとしています。ですが未だ犯人の詳細は不明です。警察はベージュのフードをかぶった少年、そして眼鏡を変えた少年、そして...」
テレビ画面には眼鏡をかけた少年の顔を写した絵、フードをかぶって顔がほとんどわからない少年の姿を写した絵
真、女性警官の顔写真が映っていた。
「...この3名の行方を警察は追っています。」
アナウンサーが話し終わった後、太った専門家らしき男が話し出した。
「女性警官については連絡が取れないそうですねぇ。きっとこの事件に関わっていることでしょうよ。」
そんなニュースが流れる中、兄と妹は少ないシチューを食べていた。
妹がスプーンを口に含む前に話を始めた。
「お兄ちゃん!今日ね!学校でね!」
妹の名はスフィ。12歳でもうすぐ13歳になろうとしている。近くの中学校に通っており、成績は可もなく不可もなくといった感じだ。見た目は普通の女の子よりもかわいい方だろう。学校では人気者だそうだ。
「そうか。そんなことがあったんだなぁ」
兄のはゼノス。年齢は14歳。本来ならば学校に通わなければならない年齢だが、妹をなんとか学校に通わせたいがために一生懸命働いている。
「お兄ちゃんは何かいいことあった?」
「そうだなぁ。今日はペットを探してくれって依頼しかなくて、裏路地だったり下水道だったりを探させられて大変だったよ。」
ゼノスは依頼を受けそれを解決するといった仕事をしている。いわゆる便利屋とか何でも屋とかいうものだ。
依頼に応じて報酬をもらってそのお金を生活や学費に充てている。
自分が14歳という年齢のため、まだ子供だからかあまり大きな依頼はこない。そのため、報酬もそんなに高いわけではない。それでもスフィの笑顔を見ると次の日も頑張れる、そんな気がしていた。
スフィとたくさん話をしていると日付が変わろうとしていた。
「もう夜遅いから今日は寝な。明日も学校だろ?」
「そうだね。じゃあお兄ちゃんおやすみ!」
そういうと妹は寝床についた。
小さな頃から両親がいなかったため親戚に預けられていた。兄は何とか好かれようとしたが急に出費の増える要素が増えてしまったため親戚にはあまり好かれていなかった。そのため兄が小学校を卒業したと共に家を出て行かされ、古い空き家に住むこととなった。
ゼノスはタンスの前に立ち、引き出しを引いた。引き出しの中にはベージュのパーカーととても大きなバッグがあった。銀行で窃盗の窃盗犯の正体は彼だった。1回の犯行で一般的な社会人が生涯に稼げるほどの金額を稼ぐことができたのだ。彼はその衣類を淡々と見つめた。
ここまで頑張ってきたんだ。俺は絶対に成功してスフィを幸せにしてやるんだと。そう思うとゼノスは引き出しをしまい寝床についた。
あの事件から1年の月日が経った。警察は家に来たことはないし、街に繰り出した際にも一切話しかけられたことはなく完全犯罪をやって退けたと思っていた。しかしあいつは行方不明になったと報道され、一切連絡も寄越さないため非常に疑問に思っていた。
あいつのハッキングは完璧だったし、犯行も驚くほどうまくいった。後はこの金を山分けするはずだったのになぜ行方不明になったのか。全額渡して後は俺に任せな、なんてそんな格好をつけるようなやつでもない。本当は警察がすでに捕まえていて、誰かが何かしら手を引いているとかそんなところなのか.......
そんなことを色々考えているとゼノスは眠りについていた。
ーーー
「もう遅刻しちゃうから行ってくるね!お兄ちゃんも頑張ってきてね!」
「おう!頑張る頑張る」
いつもと変わらない朝が来た。スフィは制服に着替え先に家を出て行った。
「さあて、おれも仕事に行くか」
ゼノスも支度を行い、街へ出かけた。
国の名前はトリフェノス。この世界では最大規模の国であり、情報通信の技術はダントツで発達している。そして首都でもあるこの町の名前はルーヴァント。高層ビルやホログラムを使った映像などが町の中で流れていおり、老若男女にかかわらずたくさんの人が集まる町である。
だが彼の仕事の場所は都心から少し離れた場所にあった。少し遠くにあるの川の土手に穴を掘って洞窟のようなところに彼の仕事場である事務所があった。例の銀行で盗んだ金を半分利用することでこの事務所は作られた。
本来ならば銀行の金で充分暮らしていけるはずだが、彼には思惑があった。いわゆる闇の仕事というのを行うことで大儲けし、金持ちになると言うことだった。銀行で大金を盗むくらいであったため、彼は本当に何でも行うつもりだった。人探しのような依頼から暗殺、破壊など普通では行えないようなことも金額によっては受諾する、そんな依頼屋をやっていた。
ゼノスはバスや電車を乗り継いで街へと向かった。都心の方まである程度近づいてくると、彼は途中で電車を降り、町の外れの方へと歩いて行った。川へと歩いていくと看板が立つ土手に到着した。土手にある不自然な扉の前に立ち、早速洞窟への扉の鍵を開け、中へ入って行った。中は薄暗く、地下へと階段が続いている。まるでファンタジーの世界に出てくるような洞窟である。奥へ進むと階段よりは少し明るい空間があり、そこにはカウンターと椅子があった。カウンターの内側には大きな棚が置かれてあり、書類やナイフなどといった武器などが置いてあった。ゼノスはカウンターの中へ入り、椅子へと座り込んだ。
そうすると5分もしないうちに洞窟の階段を下る音がしてきた。少し早歩きくらいの速さで聞こえてくる。
本日最初の依頼人だ。年齢は70歳くらいと言ったところか、男の年寄りである。
年寄りがカウンターノイスへ腰をかけるとへゼノスは口を開けた。
「ようこそ。今日はなんの依頼で?」
すると年寄りは慌てた様子で
「か、金はある!!!金はあるから、孫を!」
「ちょ、ちょっと落ち着けって。ちゃんと依頼を言ってくれって」
「今日朝起きたら孫がおらんかったんじゃ!どこにおるんか探してくれぇ!」
「その子の特徴は?」
「緑の服を着ている男の子じゃ!名前はマルコ!年は10歳じゃ!」
「ちゃんと言えるじゃん...他に何か特徴は?」
「髪はおかっぱといったところかのう...」
年寄りは涙が出そうだった。
「もしかして...」
ゼノスが口を開けた。
「そいつって眼鏡をかけてるんじゃないのか?そいつならさっき川の近くの公園で見たけど...」
「おお!!そいつじゃでかしたぞ!ありがとな!ほれこれ依頼金じゃ。」
年寄りはその見た目とも思えない速度で慌てて階段を駆け上がって行った。
「おい!待ってって。まだ確認したわけじゃないし、今回はすぐ見つかったから半額でって...」
そう言おうとしたときにはもう年寄りは外へ出てしまっていた。
「はあ...まあいっか。違うかったらまた来るだろうし。」
そういいながらため息をついて金をカウンターの引き出しへとしまった。
数時間後、ゼノスはのちにきた依頼も済ませ、帰る準備をしていた。
今日の依頼は年寄りのおじいさんを含めて3人だった。内容は人探しと悩み相談だった。
ゼノスは街へで歩いた際にそこら中にチラシをばら撒いている。そのせいもあってか人に目にはよくつくようだ。しかしそれが原因でチラシには暗殺や破壊など、犯罪行為を書くことはできない。だから彼の元に来るのは人探しや、悩み相談、掃除の手伝いなど誰でもやってのけるような以来ばかりだった。
「さあて。もう10分もすれば閉店時間だし、人はこなさそうだから店じまいとするかな」
そう言って事務所を出ようとした際に、地上の方から階段を下る足音してきた。
「まだやってるか〜〜」
男の声がした。少しすると男の姿が見えた。
髪を後ろで束ねており、男は黒いトレンチコートを着ていた。40歳前後といったところだろうか。無性髭のせいで少し老けて見える。もう少し若いのかもしれない。そんなことを思いながらゼノスは返した。
「ああ、もう今日は店は終わりなんだ。明日また店を開けるからその時に来てくれよ。」
「まあまあそう言わずに。依頼だけちょっと聞いてくれよなぁ。」
長髪の男はそう返すと写真を懐から取り出した。
「だから今日はもう終わりだって言って」
そう返そうとした時、男は聞く耳も持たずに写真をカウンターに軽く叩きつけた。
「こいつを探してる」
写真にはベージュのパーカーを着て、大きなバッグを持ち建物の屋上を走る少年、ゼノスの後ろ姿が写っていた。