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“普通の幸せ”を欲したけれど、捨てられたので“特別な幸せ”を手に入れることに決めました!  作者: 三月べに@『執筆配信』Vtuberべに猫
一章

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13 果実と種。




 水飛沫で虹を作る美しい滝のそばをよじ登る。

 ちゃんと足をかける場所がしっかりしていることを確認し、腕の力で上がった。青っぽい幼いドラゴンが、先回りして待っていた楽園の頂上に、辿り着く。

 近くで見ても圧巻な巨大なドラゴンが、青い瞳で私を見つめる。

 怒らないよね……。

 おそるおそる、と私は近付いた。


「あの、その……」


 地面に伏せるようにしている巨大なドラゴンは、じっとしている。

 その向こうには、白い一本の木があった。木の枝についた葉まで真っ白い。けれども、桃のような果実は、赤色と桃色のグラデーションだ。不思議。


「……あの果実を三つほど、もらってもいいですか?」


 指を差して、お願いをする。


「お願いします。子ども達の命を救うために、必要なんです。どうか、とらせていただけませんか?」


 人の言葉を話すわけではないけれど、ちゃんと私が言いたいことは伝わる。誠意を込めて頼めば、きっと分けてくれるはずだ。そう信じて、貫禄さえ感じる巨大なドラゴンに頼んだ。


「……」


 滝の音がしていても、静かな時間が過ぎる。


「……」


 スゥッと息を吸い込む巨大なドラゴン。そして、フゥーッと息を吐いた。

 コクン、と確かに巨大なドラゴンは頷く。

 あっさりと許可が出たみたい。


「ありがとう!」

「……」


 私はぱぁっと笑顔になり、巨大なドラゴンの元まで近付いて、そっと鱗のある鼻先を撫でた。怒られなかった私はルンルン気分で、白い木に近付く。

 ちょっとした湖の真ん中に、ペスフィオーの果実がなる木が伸びていた。

 この湖を渡らなくてはいけないようだ。

 そんな湖を覗き込んで見た。

 透き通った水の中で目にしたものは、とんでもないものだ。

 ブクブクと水が沸いているような水の底は、なんと黒い種で埋もれていたのだ。それはペスフィオーの種だろう。黒光りする黒曜石のような楕円形の種。

 一体何個あるのだろう。

 多分……千個、いやまたは一万個だろうか。

 透明な水の中で呼吸をしているようなその底は、まるで黒い鱗のドラゴンが眠っているようだ。

 ほわーっと、思わず声を洩らしてしまった。

 ちょっと待てよ。これを金貨に換えたら、きっと……国一つ、買えてしまうのではないか!?

 いや、国一ついくらかは知らないけど。

 なんだっけ、究極の魔力増幅薬。その源の種だからだろうか。

 魔力を得て、また果実をつける。


「キュウ!?」


 おい何するんだ、と言わんばかりに鼻息を荒くする青っぽい幼いドラゴン。私の後ろにいながら、左右に身体を揺らした。


「そうだ! ちょっと手伝ってよ」


 私は名案を思い付いて、にっこりと青っぽい幼いドラゴンに笑いかける。

 一度説明をした。それから青っぽい幼いドラゴンの後ろ足をしっかり持つ。バサバサと羽ばたくから、助走をつけて湖の縁でジャンプした。

 まだまだ幼いドラゴンは、私を持って飛ぶことは出来ない。

 でも軽く浮くことだけは可能だった。

 絶対に出来るとは確信はなかったけれど、ちゃんと湖に触れることなく着地。


「ありがとう」


 青っぽい幼いドラゴンの頭を撫でて、お礼を伝える。

 ぷいっと、そっぽを向いた。何よ。ありがとうって言ったのに。


「よし、じゃあペスフィオーの果実をもらおう」


 こうして目の前でも、白い木を見上げてみると、やっぱり神秘的だ。

 葉っぱの先まで、白い。赤色と桃色のグラデーションの果実は、ハート型で実っていた。

 手を伸ばしても、私の身長では届かない。よじ登るには幹が長すぎる。


「んー」


 爪先で立っても、届かない。

 見かねたのか、青っぽい幼いドラゴンが、一つまた一つと落とした。

 私はちゃんとキャッチをして、受け止める。いつも桃型だと思って、逆さに持っていたけれど、ハート型だったのか。四つ目まで落としたから、私はもう十分だと伝えた。


「アイテムボックスにしまって、と」


 ペスフィオーの種をしまったから、次は戻るだけだ。

 青っぽい幼いドラゴンに助けを借り、助走をつけて、もう一度、飛ぶ。

 ちゃんと着地したあと、私はまた巨大なドラゴンのところに戻って、お礼を伝えた。


「四つもらいました。ありがとうございます」


 巨大なドラゴンは、ただゆっくりと瞬きだけをする。

 心が広いなぁ。


「お母さん! ちょっと出かけてくるね! うん、さっきのエルフの人と行くの」


 上空を旋回していたお母さんに声をかける。

 まるで会話をするように「キュウ」と鳴くお母さんへ、教えておく。

 ちょっと不安げだから、大丈夫と込めて笑いかける。

 けれど、横から青っぽい幼いドラゴンが、服に噛み付いた。

 気を引きたいみたいだ。


「君も心配してるの? 大丈夫、いい妖精さんみたいだもん」

「キュー!」

「もうやめてよ! 破けちゃう!」


 噛みちぎられないように口が開いた隙に、服を引っ張って解放してもらった。


「じゃあ、いってきます! お母さん。帰る時は、前みたいに呼ぶね」


 布を巻き付けた左手首に、手を当てて見せる。

 念じれば、お母さんは迎えに来てくれるだろう。

 頷いたお母さんに、にっと笑ってから手を振った。


「“ーー加速ーー”!」


 壁を滑り落ちるように、崖を降りていく。

 ちゃんと着地したあと、記憶を頼りにエルフの戦士であるラクシアスさんの元に戻った。不気味なほど鬱蒼とした森の中に身を潜めていたラクシアスさんは、逆に目立って見える。うん、やっぱり美麗な妖精さんだ。

 白金の長い髪を細い三つ編みにした細身の男性。横に尖がった長い耳。

 藍色の外套を着た下には、胸元を晒す襟付きのシャツ。腰のベルトには、剣をさしている。ズボンとブーツは、黒い。


「あったか? 持ってきてくれたか?」

「ありました」


 手ぶらの私を見て、心配そうに顔を僅かに歪めたラクシアスさんに、笑みで答える。


「一応、四つ取ってきました。アイテムボックスの中から取り出します」

「いや、長居をしすぎた。すぐさま街に戻りたい。行こう」

「へっ?」


 アイテムボックスを開こうとしたけれど、ラクシアスさんに脇で抱えられた。加速の魔法を唱えると、ダァーッと駆け出す。風のように、森を進んでいくと、目の前に岩が立ちはだかった。いや、違う。巨大な熊のような魔物だ。

 真っ黒い瞳がギラつき、私達を睨み付けた。

 私を一飲み出来そうな鋭利な牙が並ぶ口に、ゾッとしてしまう。ビリビリと恐怖を肌に感じた。

 けれども。


「切り捨てる」


 そう言い放って、ズバッと切った。

 電光石火の如く両断。

 カチン、と鞘に剣がしまわれる音で気付く。剣を抜いたのか。

 そのまま、ラクシアスさんは風で飛ぶように駆け続けた。

 何度も加速の魔法を唱えて、しばらく進んでいたら、森を抜ける。

 それでもラクシアスさんは、走り続けた。

 やがて、草原の先に、街が見えてきたのだ。

 もうここはエルフの国、ラッテアなのだろう。


「この街の病院で子ども達が苦しんでいる。移るとは限らないが……来てくれるか?」

「あ、はい。万が一その奇病にかかっても、私は大丈夫なので」


 私にとって死に至る奇病ではない。だからラクシアスさんと一緒に、病院だという白い建物の中に入った。エルフの国の街と言っても、人間の国と大差ないと感じる。当たり前だけれど、エルフでいっぱいだ。

 白衣を着たエルフの男性が、慌てた様子で出迎える。眉間にシワがあって、ちょっと疲れていると感じる顔色。


「ラクシアス様! 果実はありましたか?」

「ああ、見付けた。ナイフと皿を用意してくれないか? すぐ子ども達に分け与える」

「あ、はい! ただ今!」


 どうやら、ラクシアスさんの計画を聞いていたみたい。

 私に少し疲れた笑みを向けたあと、用意しに向かった。

 私はラクシアスさんについていき、病室に入る。大部屋の病室は十六のベッドが並んでいた。そのうちの十二のベッドに、エルフの子ども達が横たわっていたが、三人が飛び起きる。


「ラクシアス様!」

「また来てくれたの?」

「ラクシアス様ぁ、つらいよぉ」

「皆、横になってていい。今日は果物を持ってきた、一人一切れずつ食べてくれ」


 つらいと言葉を洩らす女の子の頭を撫でて、ラクシアス様はそう声をかけた。

 ペスフィオーの果実で助かるという確信はないから、話していないのだろう。

 私も黙っているべきか。


「その子はだぁれ?」


 一人の男の子が、私について問う。


「私は……アメジスト」


 同年代の子と、どう接したらいいのかわからず、ちょっとラクシアスさんの陰に隠れてしまう。


「病気移ったら大変だよ? 死んじゃうんだって……僕達、皆死んじゃうんだ」


 ラクシアスさんを見て笑顔になった子ども達は、泣きそうな顔になった。


「お母さん達にも、会えない……」


 今にも、涙を溢しそうな女の子。気の毒だけれど、かける言葉が思い付かない。


「ラクシアス様」

「ああ、ありがとう」


 医者がナイフと人数分のお皿とフォークを持ってきた。

 受け取ったラクシアスさんを見て、私はアイテムボックスを開く。

 そこから、ペスフィオーの果実を四つ、取り出す。

 さっさっと切り分けるラクシアスさん。一切れずつお皿に乗せると、看護婦も手伝って、子ども達に配り始めた。


「何これ? 見たことない果物」

「あまーい、美味しいー」


 子ども達は喜んで食べる。柔らかい果肉だし、熱を出していても食べやすいだろう。


「効果があるといいですね……」

「信じよう」


 医者が悲観的にポツリと溢すと、ラクシアスさんは効果はあると信じるときっぱりと言った。

 最後の一切れは、私が運ぶことにする。手伝いたくて。

 一番奥のベッドで眠っている男の子の元へ。

 ちょうど窓際で陽射しが入っていて、金髪の髪がキラキラしている。

 声をかけようとして、私は彼の横で止まった。

 彼は微動だにしない。

 他の子は、熱に魘され、色白の肌に赤みがさしていた。でも目の前の男の子は、頬も白いままだ。

 片手を伸ばして、お腹の上に置かれた手に触れた。

 冷たい。

 人形のように温もりのない手だった。

 その男の子は、眠っているように、息絶えている。

 私の瞳から、ポロリと涙が落ちた。



 

20200329

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