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01 ただ普通の幸せが欲しかった。




そっ、となろうに投稿し直しました。


恋愛要素は遅れてやってくる、はずです。



20200203




 普通の幸せが欲しかった。

 普通の家庭に生まれ、血の繋がった両親から愛情をもらって、何不自由なく育つ。

 そんな普通が、欲しい。

 来世はどうかお願いします、と祈ったほど。

 ただそう願った前世のことを思い出したのは、実の両親に捨てられたあとだった。

 森に連れて来られ、そのまま「アンタは要らない」とその一言とともに残して、去ってしまったのだ。

 愛されていなかったことや、捨てられたことに、絶望が大きすぎて、涙すら溢れてこなかった。

 思い返せば、物心ついた頃から、冷たくされていた。

 私と歳の離れていない妹が生まれ、彼女の世話が忙しかっただけだと思いたかったのだろう。愛情は私ではなく、妹にただ注がれていただなんて。幼い自分には、あまりにも残酷すぎて、思いもしなかったのだ。

 私は髪すら切ってもらえなくなり、うっすら紫色に艶めく白銀の長い髪を、自分で大人しくブラシでとかす日々だった。

 妹の方は、曇りっ気のない純白の髪。それを毎日ブラシでとかしてもらい、三つ編みをしてもらうのが妹の朝の日課だった。羨ましいと思ったこともあり、母親に頼んだが、忙しいという理由で断られてしまい、それ以来頼まなくなったのだ。

 父親は仕事から帰ると真っ先に妹を抱き上げては、抱き締める。私もと腕を広げても、見えていないように扱われた。

 妹はとても社交的な性格で、周りから愛されるような女の子。

 でも私は内気で物静かで、ぽつりと一人にされてしまう女の子だった。

 そんな違いのある姉を、疎ましく思っていたのだろうか。

 最後に見た妹の顔は、どこか優越感に浸った笑みを浮かべていた。

 捨てた両親には、確かに私へ対しての情なんてものはなかったのだ。

 普通の幸せが欲しかった。

 ただ愛し合った両親がいて、そして愛情を注いで育ててくれる。

 そんな普通で当たり前だと思う幸せが欲しかったのに。

 愛情を注いでもらえるどころか、捨てられてしまうなんて。

 悲しかった。それでも、やはり涙は込み上がらない。

 前世の記憶はあやふやで、ただきっと両親が揃っていなかったことだけは、願いの内容で推測出来た。来世で思い出すほどだもの。

 よかった。前世を思い出して。

 だってただの子どもでは、生き残れない。

 前世の地球と違って、この世界は魔物が彷徨くような危険。

 きっと両親は、それを期待して捨てたのだろう。周りには、森に消えたっきり帰らなくなった、とでも言うのだろうか。

 あれ。

 でも。

 生き残るべきなのだろうか?

 来世で思い出すほど、強く願った“普通の幸せ”を手に入れられなかった私は、今世を生きたいのか。愛情をもらえず、ただゴミのように捨てられた“今の私”に執着する理由なんて、ない。

 何もないじゃないか。

 前世には、あったのだろうか。でも思い出せない。けれど、生きていけたのだ。あったに違いない。自分であることを誇りに思う、何かが。

 生きたい理由すらないと自覚してしまうと、すごく厄介なもので、動けなくなってしまった。

 ずっと捨てられた場所から動かずに座り込んでいた私は、地面に倒れ込む。腰よりも長く伸びた髪は、ふんわりと背に落ちる。

 飢え死にが先か、魔物に噛み殺されるが先か。

 どちらも嫌だ。けれども、指の一本すら動かす気力がない。

 もう森は、暗くなってきた。ずっと見ていたから、暗闇には慣れた。

 魔物が出てくるかもしれない森の中だ。怖いと思うはずなのに、感情は麻痺してしまったかのように、何も感じない。

 このまま目を閉じたら、生まれ変わらないだろうか。

 なんて、思って、瞼を閉じた。

 今度こそ、愛情を注いでくれる両親の元に。

 そう願っても、叶わなかったじゃないか。

 私は来世を期待することも出来ず、ただズキッと胸に痛みを感じた。


「……?」


 光が見えた気がして、私は瞼を開く。

 そんなわけがない。もう夜だ。明かりなんて、どこにもない。

 そう思ったけれど、目の前にふわりっと白く光るものが落ちてきた。

 ほんのりとペリドットのオリーブグリーン色に艶めく白い羽根。

 私は起き上がり、それを手にした。

 顔を上げても、星空があるだけ。

 ああ、綺麗な星空だ。隙間なく埋め尽くそうとした星が控え目に瞬く。

 それから、羽根の主を探して、視線を動かせば、同じ光を見付ける。

 バサッと白い輝きを放つ翼を羽ばたかせて、飛び去る巨大な生き物。

 すぐに森の木々で見えなくなってしまったけれど、私は羽根を手にしたまま、立ち上がって追いかけた。

 ーーーーーーあ、私、動いてる。

 すぐによろけて、今まで動けなかったことを思い出した。まるで魔法が解けたような軽さを覚えながら、ただ追いかける。さっきの巨大な生き物を追って、どうしたかったのか。それはわからない。

 けれども、やっと動き始めた私は、ただ、その目標を握り締めた。

 一つ、また一つと、同じ羽根が舞い落ちてきたから拾って、そのまま暗い森を進んだ。

 ここがどこなのかは、全くわかっていない。行く宛もないから、どうでもよかった。

 ただ、この光を追い続けたのだ。

 しばらくして、急に丘が現れて、息を切らしながら登る。

 朝から何も食べていない女の子の身体では、きつかったけれど、私はようやく目標に追いついた。

 丘のてっぺんに翼を休ませていたのはーーーーーードラゴンだったのだ。

 それは闇夜に美しく光る月の光のような優しい輝きを放つ生き物。

 翼は天使のようで、左右に大きなものと下に小さめなものがある。

 頭に長い羽根が髪のようにあって、これもオリーブグリーンに艶めいていた。蜥蜴のような長い尻尾が伸びていて、目で辿っていくと、くるりと先が曲がる。

 ポロリ。

 何かが落ちたことに気付いて、視線を落とせば、自分が泣いていることに気付いた。

 絶望が押し寄せて、悲しみが溢れ出す。

 美しいドラゴンを見ていたいのに、私は嗚咽をもらして、泣いた。


「ふえっ……うわぁああっ!」


 今までの辛さを吐き出すかのように、泣き崩れる。

 そんな私をただ静かに、ペリドットの瞳を持つドラゴンは見つめていた。



 

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