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6-黒いナイロン袋

「ぶっぶー! はずれー」


 私も沙羅に対抗して、それっぽい雰囲気を纏って小さい声で言った自信のある回答が無邪気にも否定される。

 怖さが恥ずかしさで上書きされた。


「猿の手なんか流石に二ヶ月やそこらで見つかんないよ」


 こいつ、二ヶ月間猿の手を探していやがる。

 しかもまだ諦めていない様子だ。


「あんた、ここ最近危険なことしすぎよ。猿の手なんか本物だったらどうすんのよ」


「あれー? 千花信じてるの? 心霊なんてないんじゃなかったの?」


 悪い顔で笑う沙羅の頭をグーで小突いた。


「信じてないけど知らない人と関わったり危ないからやめなさい。SNSなんて特にそうよ。最近は性犯罪に使われたりとかしてるんだから、猿の手をSNSで探すのは諦めなさい!」


「むー。まあそこまでいうなら今後はツイッターはやめとく」


「インスタもダメ! SNSで探すの禁止!」


「はーい」


 多分、明日には探しているだろう。


 沙羅は自分の可愛さを自分で全く理解していない。


 というよりも、ホラーのことになると自分がどんなに怪しい目で見られようが気づかない。


 こいつはいつ襲われてもおかしくない。


「でさ」


「なに!」


 自分の身の危険を考えないことに対しての怒りが言葉に乗ってしまって沙羅が驚いたような顔をした。

 毎度毎度、驚かされているのは私の方だと言うのに。


 本当に腹立たしい。


 しかし、沙羅が危険に首を突っ込んでいくのはいつものことなのだ。


 とりあえず、説教は後にして沙羅の話を聞くことにする。


「この写真に写ってるの。なんだと思う?」


「猿の手じゃないんでしょ?」


 猿の手じゃなければ、一体なんの手なのだろう。


 毛だと思われるモノの色は黒と茶色――どちらかといえば黒が多い。

 画像だから実際のサイズはわからないが、多分人間の腕くらいの太さで、長さはおそらく私の腕の肘から手首。いや、沙羅の腕の肘から手首程度の大きさだろう。


 肘から手首までの長さはその人の足の大きさとほぼ同じだというのを聞いたことがある……。


 ――ということは二十二センチ位だろうか。


 確か沙羅の足のサイズはそれくらいだった。

 背の高い私からすると、小さくて可愛い沙羅が羨ましくてならない。


 もし仮に、この画像に写っている物体の大きさが沙羅の足のサイズと同じくらいの手だとすると、かなり細長い手の平ということになる。


――まてよ、そもそも手のひらが細長いのも、毛が生えているのもおかしい。


 猿の〝手〟と言うから、私はてっきり手首までのものだと勝手に思っていた。


 しかし、沙羅の怪談の冒頭で説明していた猿の手、は肘まであるようなものだった。


 もしも、この画像に写っているものが、何かの手なのだとしたら。


 もしも、沙羅の肘から手首までの長さよりも短く、かつ〝手のひら〟を含めた大きさのものなのだとしたら。


 私に出せる結論は一つしかない。


 毛の存在は説明できないが、得体の知れないもの、おそらく心霊的なモノには毛が生える性質があるのだろう。全身に毛が生えるという怪談をいつか聞いたことがある。


 だから答えは――人間のこどもの腕。


「正解はー……」


 私が結論を出したのを知ってか知らずか、今まで黙っていた沙羅が話を再開した。

 こういう空気を読み取るところも沙羅が怖いと思う所以だ。


 しかも、沙羅は私に結論を出させないどころか、自分の机の横にひっさげていた黒くて中身の見えないナイロン袋に手をかけた。


 なぜか。


 どうしか。


 おそらくこいつは画像のブツを今ここに持ってきている。


「まって! ちょっとまって」


 しかし彼女は私の制止を気にもとめない。

 今すぐ誰か沙羅を止めて欲しい。


 私には、本気で沙羅を止めることは出来ない。


 私は心霊やホラーが嫌いだが、目の前の謎が解明されないままになってしまうのも嫌いなのだ。


 やはり私は沙羅に呪われている。


 私は沙羅の話を聞くしかなく、沙羅の持ってきたモノを見るしかないのだ。


「これでした!」


 そう言いながら沙羅は、黒いナイロン袋を勢いよく私の机の上に置いた。


 袋の中身が机に当たって鈍い音がする。

 タンスや壁に肘がぶつかった時のような嫌な音だった。

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