何者ですか? を考える妥当性はないが、考える
自分の部屋に入ってすぐ腕の上で寝ている少女をベッドにそっと置く。
「んー」
変わらずスヤスヤ寝ている少女の頭を撫でる。
いいこ、いいこ、と。
流れるように伸びる白い髪からは見た目どおりサラサラとした感触が手に伝わってくる。
やっぱり触れられる。
何が原因だ? やっぱり名前を付けた事が原因と考えるのが妥当だろうか?
不思議な存在に妥当性を考える事がもう妥当ではない気はするが。
「お前は一体なんなんだ?」
聞いても眠った相手から返事がくるわけもない。
仕方がないので自分で考えるか。考える事に妥当性がないと言ったばかりだが。
「楽にも見えてたよな?」
俺にだけ見えるタイプの幽霊ではないみたいだが。楽にもしっかり見えていた。
というか本当に幽霊なのか怪しい存在なのだけど。
幽霊と言えば、もっとおどろおどろしい不吉なイメージがあるが、この子は不思議ではあるが不気味ではない。
それに、まず一番に気になる事がある。
神社で聞いた話。町の伝説。夏休みの宿題に役に立つくらいの価値しかなかった話。
琴音が話した女神の物語と少女の特徴が似ている。
誰かを待っている――唯一この少女に残っていた記憶。
琴音の話では女神は男神を待っていると言っていたはずだ。
少女のもう一つの特徴である首に掛けられたネックレスに付いた一枚の桜貝。
どちらも社会科のレポートに重要ポイントとして、しっかり書いた。
今日聞いたばかりの話と出くわした怪奇少女の特徴が一致していると思ってしまうのは俺の考えが安直だからだろうか?
安直かもしれなくても、ヒントがそれくらいしかない。
そんな所から答えを手繰る事しか出来ない。
「んー」
夏の暑さでまたあの長い階段を登りたくはないが、ヒントを手繰るならまた琴音と鈴音達の実家、八夜神社に行くしかないだろう。
少女を神様とするなら神社に行けば、まず間違いない。
これこそ、安直な考えかもしれないが。
まあ、ただ安直という訳でもない。
もし、本当に女神なら神社に何かヒントがあるかもしれないし、幽霊ならもういっそ、そこでお祓いして成仏して天に召して貰おうという考えだ。
「…………」
いや、それじゃあ駄目か。会いたい人がこの子にはいるのだ。
それが叶わずに昇天しては、浮かんでも浮かびきれないだろう。
待ち人が天国にいるとならば別だが。
まぁお祓いは最終手段に取っておこう。
もし幽霊だったとしても、こんな存在感溢れて、誰にでも見える幽霊にお祓いが効くのかも随分怪しいものだ。
問題としてこの子を連れて行けるのだろうか。
このままずっと眠って起きないなんて、朝起きたらパッと消えていなくなっている何て事もあるかもしれない。
俺が取殺されて永遠に起きられないかもしれないけど。
こんな雰囲気で実は悪霊って事はないと信じたいが。
「……ふぅ」
一旦深呼吸して落ち着く。
何度も言っている。常識の通じない事に対して考え過ぎてもしょうがない。
明日の方針が決まったのなら、今俺がすべきは夏の浜辺を散歩したことによる汗と潮風でベタベタになったこの体と髪を洗う事だろう。
汚い姿で寝たくはない。全く同じ状況、いや。もっとずっと長い間砂浜にいたかもしれない少女の髪がこれだけサラサラなのは、何か不思議な力だろうか。
一応、まだ触れられるか頭を撫でる。
「ん、やっぱりサラサラだ」
ホントに触れられれば普通の女の子だな。
「さて」
用意が終わったお風呂セットを手にする。
一向に起きる気配を見せない少女を少し振り返って電気を消しドアを閉めた。