死にたがりの言葉
泣き虫はいつも、何処かで甘く見られていた。
背が低い人、線の細い人、眼鏡の人、顔が綺麗じゃない人、いつも、いつも、笑顔を作ってきた人。
鏡の向こう側にいる自分は真顔で、鏡の向こう側を覗く自分も、また、真顔で。
ものを書く時だけは空想の中に浸れた、何てこともなかった。時間に追われながら、何かに急かされるように書いた。それを、多分皆に知ってほしかった。
通り過ぎていく時間だけが過ぎた。誰かが待つものなんて、何一つ、作れなかった。
物書きを続ける事が楽しかったわけじゃない。ただ、誰かがそこにいるという感覚が欲しかった。言葉と向き合っている時だけは、皆が僕を望んでいなくても、僕が皆を望んでいる事を忘れられた。
いつも、いつも。努力しない方に逃げた。既知の世界にしか興味がなかった。数字のことはいつもからきしで、難しい言葉も知らないで、それでも書いて、書いて、書いて。誰にも見せなかったゴミ箱の中の完結作品もある。いつの間にか損なわれていった思いもある。どうせ誰も期待していないのに、どこにも自分なんている筈もないのに。
望まないようにした。相手の言葉にだけ忠実であろうとした。笑顔を作れるようになった。唇が痙攣して、口角がぴくぴくと持ち上がった。誰も望んでいない言葉が漏れる事が増えた。
起きるのが辛くなった。言葉が濁流になった。何かに憑りつかれるように、怒りっぽくなった。それもすべて、だれも望まない言葉として、漏れるようになった。
その全てが、口から零れ落ちる全てが、物語であったらなんて思った。誰も望んでいない事を知っていたから、その言葉も、笑顔で塗り潰した。怒りも笑顔で塗り潰せるようになった。
そのうち、笑顔だけが、貼りついて行って。誰かに嫌われたくないから、悪い方に行きたくないから、努力しないで済むように、笑顔で、出来る限りその人の望むように、だけどなぜか、何もかもがゆっくりになった。
そのうち、誰も僕を気にしなくなって。誰からも望まれなくなって。何も学ばなくなって。言葉が損なわれて、言葉が、一つになって、言葉を愛想笑いが消した。
何も努力しないでさ。天才を天災と嘆いてさ。誰にでも仲良くなれるように、誰かの悪口も、誰かの話も全部聞いて、聞いて、頼み事も聞いて。
そうやって誰からも嫌われない様な立場に行きつこうとして、努力は何もしなくて。誰の事も笑えなくなって、誰の事も馬鹿にできなくなって。
誰かの事を思う事もなくなって。誰かに思われることもなくなって。
誰もが忘れて行って。記憶の中にある顔と出くわしても、声も、言葉も出せなくなって。
そうやって楽して生きてきた。苦労もなく、誰にでも助けてもらえて、きちんと話してもらえて。
何の努力もせずに、そう言う地位に立つことが出来る人生は、とても楽だった。
わけないだろ。