中編
彼を向かいの席に座らせて紅茶をすすめる。
色々とためらっていたが、最後には私のお願いを叶えてくれる彼。
彼はカップを手に取り、香りを軽く楽しむ。
少し目を見開いた後、ゆっくり口をつける。
しばらく彼は固まっていた。
私はすぐに耐えられなくなって口を開く。
「ね、ねえ?どうかしら・・・?その、うまく淹れられたかしら・・・?口に合わなかった・・・・?」
彼はハッとしたように私と目を合わせ、ゆるゆると頭を振り否定する。
「・・・いえ、とんでもない。とても美味しくていらっしゃいます。ただ、お嬢様にもこんな事ができたのかと、感心していただけにございます。」
「そ、そう!?何回も練習したんだから当たり前よ!
あっ、このクッキーも私が焼いたの!
どうか食べてみて?!」
彼に褒められて私はとても嬉しくなった。
だから、ね。
その暗い顔をやめて欲しいの。
最初で最後のお茶会なのに。
笑顔は無理かもしれないけど、せめていつもの無表情くらいには、戻らないかしら。
「何度、も?クッキー・・・お嬢様が・・・」
ぶつぶつと独り言を呟きながらクッキーに手をのばす彼。
サクリと軽い音をたてて、彼の口に消えるクッキー。
それをニコニコと見守る私。
「・・・おいしい」
「やっぱり?私、ほとんど手を出してないもの。味は保証するわ。生地を薄くしすぎちゃって、ちょっと焦げてしまったものもあるのだけれど・・・。それは私が責任をもってたべるわ。」
他のものより色の濃いクッキーを取り分け、口に放り込む。
シェフの腕は確かだった。
もっとこうゆうお菓子を頼めば良かったわ。
今更だけれど。
「・・・お嬢様」
「わかってるわ。今日だけよ今日だけ。クッキーを口に放り込むのも、執事を対面に座らせてお茶を飲むのも、今日だけ。」
冗談めかして返せば、彼は少し明るい顔色になった。