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第4話

 アランは想った。

 カテリーナはどこまで覚っていたのだろうか。


 このコートと軍帽は、実際にカサンドラが知らずに自分にプレゼントしたようなものだ。

 バレンシア、饗宴という寄付者の名前が入っていたことから、半ば強引に自分のものにした。

 第二次世界大戦時、これを入手した時には、カサンドラが寄付したものとは全く知らなかったのだ。

 そして、帰国する際に何となく後ろめたく思って、寄付者の名前を消して持って帰ったのだ。


 カテリーナは、このコートと軍帽を見た際に、寄付者の名前が消されていたことから、勘繰ってスペインで私が浮気して愛人からプレゼントされたものだとでも思ったのか、

「これは、あなたが管理して」

 とだけ言って、二度とこのコートと軍帽には触れなかった。


 そして、その後、カテリーナは自分を夜ごと求めて、サラは産まれた。


 捨てるなり、誰かに渡すなり、すればよかった、と言われれば、その通りなのだろう。

 だが、想い出を、絆を、人はそう簡単には捨て去れない。

 

 カサンドラは想った。

 どうして、こう自分とアランは知らず知らずのうちに縁を重ねたのだろう。

 あのスペイン内戦終結直後、縁をお互いに今後は切ろう、ということで割り切った筈なのに。

 第二次世界大戦の際に、自分が寄付したコートと軍帽が、アランの手に渡っていたとは。

 そして、それをずっとアランは持っていたとは。

 更に、アランと自分の間の娘のアラナが、アランの養子ピエールと知り合い、結婚を考えるようになったことから、アランと自分が再会して、更には結婚にまで至るとは。


 カテリーナさんは、どこまで自分の事を知っていて、自分の事をどう思っていたのだろうか。


 自分が想像する限り、カテリーナさん自身にも分かっていなかったのではないだろうか。

 アランと自分は、ずっと逢わずに暮らしてきた。

 それこそ、アラナとピエールが結婚云々の話が出るまで、私達は逢わなかったのだ。

 アランがカテリーナさんを蔑ろにしていなかったとは思うが、カテリーナさん自身はどう受け止めていたのだろうか。


 ピエールは想った。

 カテリーナ母さんは、本当にどう思っていたのだろう。

 アラン父さんが浮気をしていない、とカテリーナ母さんは信じていた、とは思う。

 でも、心の奥底では、今となってはカサンドラ母さんのことだ、と自分には分かっているが。

 スペインの彼女のところに、いつかアラン父さんが行くのでは、とコートと耳当て付きの軍帽を見て、カテリーナ母さんは不安に駆られていたのではないだろうか。


 実際、アラン父さんを見ていると、自分でさえ思う。

 残念だけど、カテリーナ母さんより、カサンドラ母さんの方が、アラン父さんの妻に相応しい気がする。

 勿論、カテリーナ母さんとカサンドラ母さんを比較するのが間違いなのは分かる。

 二人の性格、これまでの人生等、色々なことが違い過ぎる。

 

 今、話に出ている冬用コート等の一件にしても、カテリーナ母さんに悪気はなかった。

 アラン父さんに暖かく過ごして欲しい、と思って、冬用コートを見立てて送ったのだから。

 でも、それはフランス軍用で、スペイン軍に出向しているアラン父さんには相応しくなかった。

 それを送るくらいなら、1通の手紙とそれなりの現金を送るべきだったのではないだろうか。

 アラン父さんが、カテリーナ母さんのコートを選ばなかったのも、ある意味では仕方がない。

 自分でも、アラン父さんと同様の判断をするだろう。

 でも、それを知ったカテリーナ母さんの想いを察するならば。


 本当にアラン父さんは罪作りだ。

 優しくて、周囲に気を使って、却って周囲を傷つけてしまう。

 ピエールは想った。

 妻や妹たちは、このことについて、自分と同様に考えるだろうか。

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