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第2話

 アラン・ダヴー大尉(当時)は、1941年秋以降、スペイン青師団に出向し、表向きはアラン・ハポン少佐として、第二次世界大戦終結までスペイン青師団の広報参謀任務に基本的に当たっていた。

 そのためにダヴー大尉は、他の軍関係者と折衝に当たることも多く、そして、1941年から1942年の冬に際しては、スペイン青師団用の耳当て付きの軍帽と冬用コートを愛用して、その任務に当たっていた。

 そして、ダヴー大尉の出で立ちは、同じ南方軍集団内で目につくものになった。

 何故かというと。


「耳当て付きの軍帽なので、ソ連軍の一員かと想い、思わず射撃するところでした」

「勘弁してください。スペイン青師団も耳当て付きの軍帽を冬用に採用しています」

「羨ましいですな。その軍帽なら暖かそうだ。それにその冬用コートも、ウールをふんだんに使い、暖かそうですな。何でスペインがそのような軍帽を採用しているのですか」

「それはですね」

 そんな感じで、ダヴー大尉は、他の軍関係者と話すことが多かった。


 勿論、ダヴー大尉以外のスペイン青師団の将兵が、ダヴー大尉と同じような出で立ちで、他の軍関係者と会って似たような話をすることもある。

 ともかく、そうしたことがきっかけで。 

 

 当時、仏軍も伊軍も冬用の軍帽に耳当てはついていなかった。

 そして、両軍の兵士は寒さに震えており、少しでも暖かく過ごしたい、と願っていた。

 だから、何でスペイン青師団は全員が耳当て付きの暖かい軍帽を被り、上質のウールをふんだんに使った冬用コートを使用しているのだ、と両軍の兵士は、その話を伝え聞き、更に羨望して、少し話がふくらまされもしたのだ。


 これが北欧諸国の冬用コート、軍帽だったなら、ここまでの話にはならなかった。

 だが、暖かい南欧のスペインの将兵が、そんな冬用コート、軍帽を使っているのだ。

 仏伊両軍の将兵にしてみれば、何でスペイン軍の方が暖かい冬用コートや軍帽を使っているのだ、という想いに駆られ、羨ましがったのである。

 こうしたことから、耳当て付きの軍帽を、「スペイン帽」と仏伊両軍の将兵が呼ぶようになり、それが第二次世界大戦後に帰国した将兵によって、仏伊両国に伝えられて、耳当て付きの帽子を一部の人が、「スペイン帽」と呼ぶようにまでなった、という次第である。


 もっとも、ダヴー大尉が、このスペイン青師団向けの冬用コートと耳当て付きの軍帽を愛用したのは、幾つかの理由があった。

 まず、元々がフランス軍出身なので、周囲にいる本来はスペイン軍所属の士官とは溝が生じやすい。

 それを避けるために、スペイン青師団向けのものを使用することにしたのである。

 妻のカテリーナが送ってきたのは、フランス軍用のコートであり、それを着用しては周囲と溝を生じ、浮いてしまう、という理屈だった。

 それに、正直に言って、スペイン青師団向けの冬用コートと耳当て付きの軍帽を着用した方が、ダヴー大尉にしてみれば、暖かかったのだ。

 それに表立って言えない理由が、もう一つあった。


 ダヴー大尉の着用している冬用コートには、バレンシア、饗宴という名前が入っていた。

 当時のダヴー大尉にしてみれば、最初に関係を持ち、子どもを遺したカサンドラのいた娼館の場所と名前であり、その名前を見た時、半ば衝動的に自分の冬用コートとして選んでしまったのだ。

(なお、この頃のダヴー大尉は、カサンドラが娼婦から足抜けして、自分の子を育てていると考えており、まさかカサンドラが「饗宴」の経営者になっているとは思ってもいなかった)

 そして、その冬用コートを着て、内心でカサンドラと自分の子を偲んでいたのだ。

 更にそれを持参して、ダヴー大尉は帰国することになった。

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