表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/6

プロローグ 娘2人の想い出

 サムライー日本海兵隊史の外伝になります。

 私、アラナの幼い頃の想い出の一つが、夏が近づく中、母が冬用コートを100着も購入して寄付したことだった。


「100着も冬用のコートを購入、寄付して下さるとは。ありがとうございます」

「いえいえ。反共十字軍の方々に必要と言われては、スペイン人として協力しない訳にはいきません」

 ファランヘ党の幹部と母カサンドラが、そう自宅でやり取りをしたのを小耳に挟んだ、当時5歳の私は驚いた。

 100着もの冬用コート、何でそんなものを母は購入して、寄付したのか。


 ファランヘ党の幹部が去った後、幼かった私は母に尋ねた。

「何で100着も冬用コートを購入、寄付したの」

 当時、母はバレンシアで娼館「饗宴」を経営しており、それなりに羽振りは良かったが、100着もの冬用コートが必要とは何事なのだろうか。

 私は不思議でならなかった。


「遠くの東の大地で、スペインの多くの若者が反共十字軍の一員として戦っているの。それを応援するためよ。もっとも、今すぐに送り届けられる訳ではないわ。今から冬用コートが作られて、送られるの」

 母は丁寧に私に説明してくれた。

「どんな冬用コートなの」

「見本の写真があるわ」

 私の問いに、母が見せてくれたのは、いかにも暖かそうなロングコートに、独特の耳当てのついた軍帽が付属している冬用コートだった。

 冬でもそれなりに暖かいバレンシアでは、真冬でもまず見かけないような冬用コートだ。


「こんな物が必要なところなの」

 私は驚いてしまった。

「ええ、しかもスペインのウールをふんだんに使った暖かいものよ。きっと兵士の皆さんに役立つわ」

 母は微笑み、どこか遠くを見やった。

 

 少し大きくなって知ったことだが。

 この頃のスペインでは、スペイン青師団の将兵のために、ということで様々な募金、寄付等の活動が行われており、それこそ学校や教会、様々な組織まで協力していたらしい。

 だから、母も協力していたのだ。


 私、サラの幼い頃の想い出の一つが、耳当てのついたウールの帽子だ。

 幼い頃、いや大人になるまで、とても寒がりだった私は、耳当てのついたウールの帽子が大好きで、それこそ頭が大きくなったり、傷んだりするたびに、母カテリーナにせがんで買ってもらった。

 父アランも、同じような帽子をコートと共にロシアの大地から帰還した際に持って帰っていた。

 だが、何故か父は、それをある意味、秘蔵していて、めったに出さないのに、大事に保管していた。


 この耳当てのついた帽子のことを、周囲の人は「スペイン帽」と時々、呼ぶことがあった。

 私は、そう呼ばれるので、これはスペインでよく被られる帽子なのだ、と幼い頃、一時、誤解していたくらいだった。

 でも、本当は違った。

 それを教えてくれたのは、兄ピエールだった。

 本当は母カテリーナに尋ねたかったのだが、(私自身、心の何処かで察していたのか)なんとなく聞きづらくて、兄に聞いたのだ。


「ああ、先の世界大戦の際に、スペイン軍がソ連、ロシアの冬に被っていて、それが、ここ仏でも広まったんだ。だから、そういうの」

「そうなの。スペインは寒い国なのかと思っていた」

「逆だよ。暖かい国だから、ロシアの寒さ対策を厳重にしないと、ということで導入されたんだ。伊でも同じような由来から、耳当てのついた帽子のことを「スペイン帽」と呼ぶ人がいるらしいよ」

「へえ」

 兄とのやり取りで、私は驚いた。


 大きくなり、母カテリーナがこの帽子のことについては、複雑な想いをしていたことを、私は知ることになるのだが、それはその頃の私には分からないことだった。

 父が、このような帽子が「スペイン帽」と呼ばれることに一役買っていたこと、そして、曰く付きの代物らしいのも分からなかった。

 ご感想をお待ちしています。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ