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木漏れ日で明るい森のなか。
湖の側でスケッチをしている彼女を見つけた。
走ったせいで乱れた息を整えて
初めて声をかけられる嬉しさと、不安を胸に抱いて
僕は声をかけた。
「あのっ」
きょとん、とした可愛らしい表情で振り返った彼女。
あぁ、僕の声が初めて彼女に届いた。
いつも、いつも、鳴いてきた。
彼女に届くよう、羽を震わせた。
けれど君は人で、僕は蝉で。
一生このまま平行線なのだ、と。
けれど今、彼女に僕の声が届いたんだ。
「「こんにちは」」
だから、彼女を知ることから始めよう。
僕を知ってもらうことから始めよう。
ハモった言葉に驚いて、どちらからともなく笑った。
「ねえ、神様。僕はさ、家がないんだ。」
「うふ、うふふ、何いってるんだい?きみのいえはここだろう?」
「僕は今は人だよね!森はいえじゃないよ!森だよ!」
「君は一度ジャングルの王者に謝った方がいいね」
きっ、とにらむ僕を愉快そうに見る自称神様。
なんって腹立たしい表情をお持ちの方でしょうね!
「そんなに見つめでどうしたんだい?恋でもしたのかい?」
「気色の悪いことを言うな!」
間髪いれずにツッコンでやった。
「うふふ、もう人間の世界に馴染んでるんだね。漫才をしようとするなんて。」
「いや、べつに漫才をしようとしたわけでは、、」
「うふ、ふふ、夫婦漫才師でも目指すかい?」
「二人とも男だろ!」
「男同士というのも悪くないねぇ」
「やだよ!だって、僕にはその、彼女が、、えへへ」
「初恋の女の子。その子が好きなのは実は神様だった!それを知った僕はショックで泣いていた。そこに現れるあいつ、、はじめは嫌いだったあいつにだんだん惹かれる自分に気づいて!?」
「腐向けにするな!」
閑話休題
彼女と出会って挨拶をした後、彼女はすぐに帰ってしまった。
だから、仕方なく僕は神様と出会った場所まで戻ってきた。
まぁ、帰る場所もないしね。
って思って、あれ、僕って帰る場所ないよね、あれ、え、家がないよね、家無き子だよね。
って言う風に思ったわけで。それで神様を召喚したってわけ。
で、今に至る。
「どうしたらいいのさ!」
「しかたないなぁ、僕の家に住まわせてあげるよ」
「神様って家あるの?」
「うふふ、神様だからね」
答えになってなかった。
まぁ、神様も住むところくらいあるか、
神社とかかな?うわぁ、初めてだな。広いのかな?
でも、今時神社って、人が中に入れるけど、それってどうなんだろ?なんか別次元に飛んだりするのかな?
「じゃあ。いくよ?」
ぱちん、と音が鳴ったと思った瞬間、見知らぬ部屋が僕の目の前に。
いや、見知らぬ部屋の中に僕の体があった、という方が正しいかもしれない。
神様の家に来た、んだよな?ぼく。
「小さいね」
「団地だからね」
「団地なんだね」
僕を助けてくれた、僕の願いを叶えてくれた見た目麗しき神様は集団住宅地に住んでおられた。