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いつも見ているだけだった。
ふわっ、と花のように柔らかく頬笑む君を。
笑顔向けられることさえ、きっとない。
だって、僕と君は何もかもが違う。
木の影で薄暗い森を中で見つけた、一人の少女。
ねぇ、神様。
もし、僕と彼女が同じであったなら、僕は彼女と恋ができただろうか。彼女と恋をするなんて、わがままだろうか。
願うくらいは、夢を見るくらいはいいんじゃないかな。
それが叶わぬ夢だとしても。
一目惚れだった。
僕は生まれて成虫になって鳴くことしかできなかった。
僕は蝉で、彼女は人だった。
どうして人間なんかに恋したんだろうって、何度も後悔した。
でも、この気持ちに嘘なんてつけてなくて。
僕は鳴いた、ないてないてないて、鳴き続けた。
彼女に僕の声が届くよう。
成虫になって、1日目に彼女に恋をした。
2日目に彼女に届くように鳴き続けた。
それからずっと、叫び続けた。一ヶ月間ずっと。
僕が飛べるようになった7月からずっと、ずっと。
「あなたが好きです。」って。
けれど、彼女には届かなかった。
虚しい、悔しい、けれどどうしたって君は人で僕は蝉で。
あぁ、もう、だめだ。
もう、僕は、おしまいだ。
「虚しい子だね」
りん、と鈴の音のような声がした。
だあれ?
「君の願いを叶えてあげよう」
ぶわっと風が吹き、木々が揺れ、目の前が真っ白になった。
「あ、れ?」
「やぁ、こんにちは?蝉の子よ。」
「えと、僕、えと、、??」
よく状況が理解できずに戸惑う僕をみて、目の前にいる綺麗な人?はクスッと笑っていった。
「君は蝉の子。なのに人に恋をした憐れな子。」
「感情をもってしまった、恋などといった幻想を見てしまった憐れな君に、夢を見せてあげようと思ってね。」
「ゆ、め?」
「あぁ、そうさ。鏡を見てみるといい」
綺麗な人がてをかざすと大きな鏡がでてきた。
その鏡を除くと、そこには知らない黒い髪の男の子がいた。
僕が首をかしげるとその子も首をかしげる。
じっ、としばらくその男の子と見つめあってみた。
彼は僕が好きなようで、僕を不思議そうにずっと見ていた。
「いや、それ君ね。」
うん?僕セミ
「ぼくせみ」
「願いを叶えてあげるっていったろ?」
「え、僕の願いって」
「彼女と恋がしたいんだろ?」
これは驚いた。僕の心のなかは筒抜けだったようだ。
プライバシーもなにもあったもんじゃないね。
でも、、
「これで、彼女に思いを伝えられる」
それだけで、嬉しかった。この声が彼女に届くんだ。
かすれた声じゃない、彼女と同じ言葉を話せる、この声で。
「ありがとう」
「お礼はいいさ。憐れな子。」
「いってくる!」
僕は走った。
走って、走って、彼女を探した。
彼女はいつもお昼に林を散歩していた。
だから、急がないと。