I-IX door administration
5月23日午後8時36分
「委員長。電話鳴ってますよ」
木乃の指摘で、高森は自分の携帯電話が鳴っていることにきずいた。
「あ、くまからだ」
電話をかけてきたのは新井だった。高森が電話に出た瞬間に爆発音がした。
「おい、くま。どうした」
『委員長、その公園の噴水広場のから見えるは』
二回目の爆発音で、新井の言葉はかき消された。
「新井。何が起こってる」
新井が居る所が安全じゃないこと以外は、全く状況が掴めない高森。
「新井。聞こえるか。状況はどうなってやがる」
再度呼びかける高森だが、新井の声は返ってこない。そればかりか、爆発音だけが携帯ごしに聞こえる。
『ツー、ツー、ツー』
電話は切れた。新井の連絡はそれっきりだった。
「木乃。どうやら仕事ができちまったようだ」
「マジですか。は〜、ついてない」
「悪いな。石橋が来たら、『仕事だ。さっさと噴水広場まで来い』、と伝えてくれ」
「「「分かりました」」」
3人が声をそろえて言った。
「よし。木乃、行くぞ」
「了解」
高森と木乃は、中央公園の噴水広場の方に走っていった。
5月23日午後8時40分
塩祖の電話が鳴った。
「もしもし。はい。はい。分かった」
塩祖は電話を切った。
「悪い。こっちも用事が出来た。行かせてもらうぜ」
「おい。待ってよ・・って行っちまったなぁ」
今度は、飯田の電話が鳴った。
「もしもし。はい。分かりました、すぐに行きます」
飯田は電話を切った。
「ごめんね。私のほうも用事が出来ちゃった」
「はぁぁ。何だよ。俺1人で石橋を待つのかよ」
飯田は「ごめんね〜」と言いながら、塩祖と反対の方向に走っていった。
「何だよ。みんな行っちまったじゃねぇか。あ〜あ、石橋待つのも面倒臭ぇなぁー」
「ミャ〜〜〜」
村雨は1人、ベンチに座りながら猫に向かって愚痴を吐いた。
5月23日午後8時43分
「ミャ〜〜〜〜」
猫が飼い主の少年の方に向かいながら鳴いた。
「・・・・・・・・」
少年は村雨を無言で見つめている。
「どうした。もしかして迷子か」
少年は首を横にブンブン振った。
「・・・・・こっちに・・・来て」
少年は指を差して言う。少年が指を差した方を見ると出口が見える。
「何だ、向こうに何か有るのか」
少年はコクンと頷いた。
「よし。行ってやるか」
村雨は少年についって行った。
【どうせ暇だし。子供の遊びだからな】
出口を通り、公園の外に出た。
「で、何があるんだ」
「・・・・・・・・・死」
少年がその言葉を発した瞬間に木の陰から1人の女性が出て来た。
「なっ」
村雨はその言葉を発する以外のことが出来なかった。1人の女性は、村雨の腹部に右手の指5本を刺して笑っている。
「がっぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
グチュリ、という音が村雨の腹部から聞こえる。腹部からは真っ赤な血がにじみ出ている。
「・・・・・・・・・・・・・・」
少年は村雨を無言で見つめている。
「まてぇ」
その声と共に、全体が紫色の金槌のハンマーの部分が少年に向かって飛んできた。
ガゴン
金槌が少年に当たる前に、1人の女性が一瞬にして間に入って金槌を止めた。
「特別除霊軍の上層部が探していた少年を今見つけました」
神田翔侍は、そう言うと携帯電話を切った。
「・・・・誰」
「こう名乗れば良いかにゃ〜。『除霊委員会委員兼特別除霊軍第3部隊隊長』神田翔侍。お前さんの素性は大体分かってるゼェィ。『堕天使』だろ」
「・・・・・・・・・」
少年は無言で指を鳴らした。それが合図かのように、1人の女性が神田に向かって走り出した。
神田は、持っている金槌で相手の一撃を防いだ。金槌は1メートルぐらいの大きさだが、持つ部分は霊エネルギーを使って伸縮が可能になっている。これが神田の『お札』だ。
「なっ。お、お前『桐野楓』か」
その言葉に何の反応もなく、桐野楓はもう一方の手で神田の頭蓋骨を狙った。
「甘い」
神田は桐野楓の手をヒラリとかわし、金槌で桐野楓を思いっきり押した。桐野楓はバランスを崩し、少し仰け反った。その隙をついて神田は、持っている金槌を30センチぐらいにして、桐野楓を打った。
「くらえ。『釘打ち』」
神田がそう言うと、漫画で出てきそうな魔法陣のような陣が桐野楓を打った金槌のハンマーの先端に形成された。そして、その陣が光りだした。
『釘打ち』とは、神田の所持する『お札』の金槌から霊エネルギーで作る陣を主体に、いろいろな効果を生み出すことが出来る技だ。
「ギャガギギャギャァァァァァァァァァ」
桐野楓が不気味な悲鳴を上げて、遠くに吹き飛ばされた。
「な・・・・・・」
息を呑む音。しかし、その言葉を発したのは少年でも桐野楓でもなく神田だった。
「あれぇ。一応『霊抜き』の陣だったはずだけど」
霊を除霊するには、人間の体から霊を取り除かなければならない。そうしなかった場合、霊と一緒に人間も消えてしまうからだ。
「ガァァァァァァァァァァァ」
桐野楓は神田に向かってその辺に落ちていた石を投げた。
神田は、ヒラリとかわすと桐野楓に向かって走った。石は、神田の後ろにあった家の塀に当たった。家の塀は石の当たった所から波紋のように凹み、粉々に壊れた。
「言っとくけどなぁ、俺の釘打ちがこの位だと思うなよ」
神田はさっきと同じような陣を作り、その陣を釘のような形に変えていった。
「おりゃぁぁぁぁ」
神田が叫ぶ。釘の形をした陣を桐野楓にぶつけた。桐野楓の体から黒い煙が出てきて、怪物の形をしていく。
「やっと出てきやがったか本体。じゃあ、早速除霊させてもらうぜ」
神田は桐野楓から出てきた霊に向かって『お札』の金槌を振り上げた。
「ガァァァァァァァァァァァァァァァ」
霊は光となって消えていった。
「次はお前だ、堕天使」
「・・・・」
堕天使の少年は無言で立っている。
「お前・・・・嫌いだ」
「こっちこそ」
堕天使の少年は翼を出し、空に舞い上がる。
「おい、逃げるのかよ。くそ、降りてこいや」
神田は金槌の持つ部分を伸ばして、振り下ろした。
「釘打ち『滅』」
金槌の先端に赤色の陣が出てきた。先ほどの陣の色は黄色だったので、先ほどの陣と違うことが見た目で判断が出来る。
「・・・・・」
堕天使の少年は、無言で黄緑色の霊エネルギーで作った十字架の中心の手のひらを置いて、神田目掛けて十字砲を放った。
「うわぁ。あの馬鹿やろう」
神田はすぐさま金槌を縮め、十字砲を受け止めた。十字砲は、しばらく経つと消えて無くなった。
「逃げたか」
空には、先ほどの少年は居なくなっていた。
「まぁ、いいか。俺の任務は終わったし」
そう言うと神田は、ポケットから携帯電話を取り出して電話を掛けた。
「あ、もしもし。特別除霊軍上層部の鬼島さんですか。神田です。任務を完了しました。『天への扉』は保護しました。ついでに、霊を1体除霊したので、憑依者の救助もお願いします」
『了解した。では、特別任務『除霊委員会監視』を続行してくれ』
そう言うと、鬼島という男は電話を切った。
神田へ向かって数台の車が走ってきて、神田の近くで止まった。
「神田さんですね、後は我々『特別所霊軍第4部隊』に任せてください」
車の中から出てきた男に向かって神田が言った。
「さすが第4部隊、証拠隠滅部隊だ」
そう言うと、神田は中央公園の噴水広場に向かって走り出した。
「さてと・・・俺も戦場に行きますゼェィ」
周りには、ボロボロになった屋台や木が撒き散らしてある。人も非難していて1人も周りには居ない。
そんな中を神田は、ひたすら走り続ける。