I-VIII fall angel entrance
5月23日午後8時50分
「はぁ〜、自販機は近くに無いし、屋台で買おうと思ったら解体して閉まってるし、もう最悪だよまったく」
石橋はジュースを6本手に抱えて射的の屋台の所に戻ってきた。射的の屋台はもう解体して無くなっている。周りには屋台もほとんど無く、人もあまり居ない。
「あれ。みんな何処に行ったんだ」
周りにはさっきまで居た木乃達が居なくなっている。
「あの、すみません。お聞きしたいことがあるのですが」
石橋は、近くにあったリンゴ飴の屋台の店番をしている20代ぐらいの男に話しかけた。男は椅子に座って、タバコを吸いながら石橋を見上げた。
「あそこにいた人たちを知りませんか」
「あぁ、確か慌てて皆であそこの道を走って行ったな」
「そうですか、ありがとうございます」
「ふっ、お安い御用だ。だが、お前はあの道を通れない」
「えっ、今何て言」
バコン
男は石橋の言葉を遮り、頭部をおもいっきり殴り飛ばした。石橋は反対側の木にぶつかって動きを止めた。石橋の殴られた額のところから血が垂れてきた。
周りの人は何が起こったか分からず、ただ沈黙しているだけだった。
「ぐぅぅ、くそ。やってくれるじゃねぇかよ」
石橋の手につけていた指輪が光だし、『日本刀』の形を作っていく。
『皆さん、非難してください』というアナウンスが流れて1秒の間を置いてから、石橋と男を残して全ての人はこの場から逃げていった。
「お前、ただの人間じゃねぇな。だが、霊とも違う。お前は何なんだ」
石橋は、日本刀を鞘から取り出し、鞘をどこかに投げ捨てた。
「その質問には、今は答えないとしておきましょう。でも、あなた達は私達のことを知っている筈なんですけどね」
男の口調が変わり、男の顔がまるでロウソクのロウのように溶け出した。そして、その下に新しい顔が見えた。男の髪の色は、深みのある黄色で、メッシュがはいっている。メッシュの色は、半分が白色で半分が黒色だ。
「名前は名乗っておきましょう。ラオン・ネーゼル・シグマといいます。気軽にΣとでも読んでください。まあ、そんな事はどうでも良いんです。これに見覚えがある筈です」
そう言って、Σは自分の髪のメッシュを指差した。
【まさか・・・。いや、そんな筈はねぇ。それに、もし仮にもそうだとしても、何でこの季節にここに居るんだ】
石橋の反応を見て「クスッ」と一回笑うとΣは言った。
「貴方の創造通りですよ。たぶんね。だからこんな事も出来ます」
Σは、右手を自分の胸の辺りまで上げ、左から右へ横一文字に動かした。動かした右手の跡に沿って薄い緑色のエネルギー体が出来た。さらに、縦にも同じものを作り、薄い緑色のエネルギー体で十字架を作った。
「それでは、これが最後になるかもしれませんので、とりあえず言っておきます」
Σは、薄い緑色のエネルギー体で出来た十字架の縦のエネルギー体と横のエネルギー体の重なっている所に手のひらを当てた。
「バイバイ」
その言葉が合図だったかの用に、Σが手を当てた所から漫画で見たことのあるようなエネルギー波が石橋に向かって猛スピードで発射された。そのエネルギー波は石橋に当たり、その場で爆発した。
地面は無残に捲れ、木はいろいろな方向になぎ倒されている。普通なら人が即死レベルの攻撃だ。
「残念でした」
そう、普通なら即死だ。しかし、石橋は『超霊媒体質』の人間であり、霊を除霊する『お札』の日本刀が只の日本刀の訳がない。
「こいつの能力は、簡単に言っちまえば霊エネルギーを吸収するって訳だ。お分かりかな、天使さん」
霊エネルギーというものは、この世の生きている物全てにあるエネルギー。このエネルギーは、人が生きていく上での生命力となり、霊はこれを主食として人を襲う。、除霊にもこのエネルギーが必要になる。このエネルギーの量は、個人個人でばらつきがあり、『超霊媒体質』の人間は普通の人間の20倍の霊エネルギーを持ち、霊は普通の人間の50倍の霊エネルギーを持つ。そして天使は、普通の人間の100倍の霊エネルギーを持つ。
「そうだよ。さっきの質問の答えは『天使』だ。あと、君の刀の能力は知らなかった。敵に説明するなんて、バカだね君は」
「何で天使がこの季節に居る。12月12日の『天使の下界移動』の時にしか来ないんじゃなかったのか。それに、12月12日以外に天使が下界に来ると、全ての天使の力を無くしちまうんじゃねぇのかよ」
「貴方は、『人魂増減』って歴史の教科書で習いましたか」
「ああ。何か人間の魂が増えすぎて天界のバランスが悪くなって天国が拡大していって、地獄が消えて無くなりそうになったってやつか。でも、今は関係ねぇだろ」
「それが関係大有りなんですよ」
「何だって」
「本来、天国と地獄っていうのは、天界では機関を表しているんです。実際は、天国と地獄という国になっていて、役割が決まっているんです」
「それは知ってる。天国が『天使審判で魂を天国に滞在させるか、下界で罪を犯した魂を地獄に送るか決める』所で、地獄が『送られてきた魂の罪に対しての罰をあたえて、罪を洗い流す』所だろ」
「まあ、大体はあっています。天国で犯した罪も天使審判によって裁かれ、有罪だったらその魂は地獄に送られます。そして、魂というのは無限に繰り返します。下界では『魂循環』といってましたかねぇ。でも疑問じゃないですかぁ」
「何がだ」
「だって、魂は循環するんですよ。それなのに霊が出るなんておかしいとおもいませんか」
「それは、人間が子供を作りすぎて罪を流しきれてない魂を使うのはまずいから神様が魂を作ったんじゃねぇか」
「そう、神は『神工魂製造機』というのを作って魂を作った。しかし、それが原因で起こったのですよ、人魂増減が」
「どういうことだ」
「人間の魂はたくさん罪を負って天界にやってくる。そして、地獄に送られる。その間に下界では子供がたくさん生まれる。神は魂を作る。こういった悪循環で、人間の魂が天界にあふれるほどになったんです。そして、天使審判が行えず、魂が天国で好き勝手に暴れだし、天界のバランスが崩れてきました。後は、あなたの言う通りです」
「お前が今、ここに居る理由にはなってないぜ」
「まだこの話には続きがあるんですよ。では、人魂増減はどうやって治めたと思いますか」
「それは、神様の力でが何とかしたって聞いてるぞ」
「ふはははは。やっぱり都合の良いように書き換えられてますか。神にそのような力があったら、人魂増減なんて事になる前に何とかしてます」
「じゃあ、どうやって」
「簡単ですよ。魂とは霊エネルギーの塊です。そして天界は霊エネルギーで作られた世界です。魂の増えすぎということは霊エネルギーの増えすぎでもあるのです。そして神は、魂よりも強い霊エネルギーを持つ者を天国から地獄に送れば、また均衡が守られるという一時的な駄策をしたんです。そして、天国で魂より強い霊エネルギーを持つ者といったら『天使』しかいません。知ってますかぁ。天使は地獄に行くと自動的に悪魔になるんですよ。そして、総勢500もの天使が地獄に送られました。これを、私たち天使の中で『天使流し』と言います」
「だが、それで一応事態は収拾できたんだろ。それに、お前がここに居ることとは全く関係はねぇぞ」
「事態が収集したねぇ・・・。私もそれで終わってくれたらよかったのに、と思いますよ。実際、それだけでは人魂増減を抑えることができませんでした。そして神は、もう一回天使流しをすることにしたんです。今度は、本人の了解無く、勝手に神が選んだ50人の天使がね。一口に天使と言っても、天使は4段階に分かれているのです。そして、その中で神の主要としている最上段階の『神の5本指』以外の2段階以下の天使が流されました。俗に、これを『天使流しS』と言います」
「だけど、地獄に送られたんだろ。ならなぜここに居る」
「地獄には送られませんでしたよ。天使流しの一回目で地獄もいっぱいでしたからね。だから私たちは下界に落とされたのです。神はこう思ったのでしょう。『下界に落とせば天使の能力も無くなり、何も危害は加わらない』とね。しかし、無理やり下界に落としたものだから、大半の天使は能力を維持できました。『大天使』にいたっては悪魔の能力『魔能』も使えるようになりました」
「大・・天使」
「あぁ、知らないですよねぇ。大天使というのは天使を4段階で分けた中の2段階にあたる階級です。『神の5本指』を除けば、霊エネルギーをたくさん持っているのは『大天使』ということになりますから、全員下界に落とされました。私たちは決めたのです。≪天界に復讐する≫と。そして、『大天使』の一人、ペケルス・オーガ・クロスをリーダーにこういった組織を作りました。『デザスタ』。災害という意味です」
「天使流しって、102年も前の話だろ。何で今頃活動しだした」
「活動できなかったのです。能力を維持できたといっても、下界で使えるようにするのに100年もの調整が必要だったのです。2年は出会いに使ってしまいました」
「でも、どうして復讐なんて」
「当たり前でしょ。憎む相手にはそれなりの恨みを晴らさなければいけません。それはこの世の鉄則です」
「そんな事しても空しいだけだろ」
「漫画みたいなことを言いますねぇ。復讐するといっても神を倒すだけではありません。天界と下界を合体させるのです。そうすれば、人口増減なんて些細な問題は解決です」
「天界と下界を合体なんて本気か。そんな事したら世界が崩れるぞ」
「大丈夫です。そうならない方法ならあります」
「何だ、その方法ってのは」
「教えると思いますか」
「くそ、ならここにでお前を倒す。行くぞ天使」
「貴方は『堕ちる』という言葉を知っていますか」
「何だそれ」
「人間の魂が天界から下界に落ちて霊になることが『堕ちる』って事です。そして、私たち天使も天界から落ちました。だから呼ぶならこう呼んでください。『堕天使』とね。天使なんて汚れた名で俺を呼ぶな」
Σは、先ほどと同じように薄い緑色のエネルギー体で作った十字架の中心に手を当て、さっきと同じエネルギー波を石橋目掛けて発射した。
石橋は、先ほどと同じように日本刀でエネルギー波を吸収した。
「この技は、十字砲と言いまして、天使なら誰もが出来る技です」
「そうかい。それは良かったなぁ。でも、俺に通じないんじゃ意味ねぇぜ」
「ただエネルギーを吸収するだけの日本刀なら、限界まで吸収させてその日本刀の能力を壊すだけです」
「ただ吸収するだけだと。それはどうかな」
石橋が日本刀を前に突き出し突きをすると、薄い緑色のエネルギー波がΣ目掛けて発射された。エネルギー波は、扇をイメージするかのように広がっていった。
エネルギー波は、Σが居たところで爆発した。
「逃がしたか」
しかし、Σは天使の羽を広げ上空にいる。
「天使は汚れているとか言ってたくせに、そういう物は使うんだな」
「仕方が無いでしょう。天使や悪魔、堕天使にとって羽は霊エネルギーの集合体なんですよ。そして、この髪に入っているメッシュは天使だと白色、悪魔だと黒色、堕天使だと片方が白色でもう片方が黒色になっていて、それぞれの象徴となってます。それによく見てください。この羽は、半分が黒色になっている筈です。これが堕天使の印です」
「そんな事はどうでもいい。今は、お前たちの野望を阻止する。それが俺たち『除霊委員会』
だ」
「は〜。まったく、貴方を見ていると内のリーダーの事を思い出します。本当に不愉快ですねぇ。興醒めしました。戦闘は控えましょう。それに今はこっちらにとって戦場がよくないですし」
そう言うとΣは、どこかに飛んでいった。
「あっ、待てコノ野郎。降りて来い」
「ウルサイ」
後ろから射的の屋台の店主の男が現れた。
「こいつ、霊にとり憑かれてやがる。くそ、アノ野郎。ありがた迷惑なプレゼント置いてきやがって」
「がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
店主の男が走って来た。
「まずは、霊を体から出してやるぜ」
石橋は、持っている日本刀で男に峰打ちをした。男の体から黒い煙が出てきた。その煙が怪獣を思い出させるような形に変わっていく。
「悪いなぁ。こっちは急いでるんだ。さっさと除霊させてもらうぜ」
石橋が霊を縦一文字に斬ると、霊は光となって消えていった。
「くそ、あいつをさっさと追いかけねぇと。何所に行ったんだっけ。あ〜もう。こっちだ」
石橋はΣと反対の方向に走っていった。