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I-III lowest day

5月23日午後0時50分


土曜日の小波町は、意外と人が少ない。人影が少ない道を、新井は歩いていた。すると後ろから声が聞こえた。


「おーい、くま」


中田亜美が声をかけてきた。


「最悪だ」


「ん?何か言ったかくま」


「何にも言ってません」


亜美に係わるとろくな事がない。新井は長年の勘で分かるらしい。


「それじゃあな、亜美」


「まて。まさかとは思うけど、逃げるんじゃないでしょうね。逃げたらあんたの恥ずかしい裏話をネットで公開するぞ」


「笑えないな」


亜美は本気でこういう事をする人だ。それを新井は知っているので亜美には頭が上がらない。


「それで亜美は何をしてるんだ」


「いろいろ。シャープペンの芯が無くなってたから買いに行こうと思ったらくまが入た訳。くまは何してるの」


「俺は、委員会の仕事で調査をしてるわけ」


「ふーん。委員会、委員会ってそればっかだと人生腐るよ」


「お前の人生は腐ってるけどな」


「あれ、どこからか声が聞こえるなぁ。何々、世にも恥ずかしい新井の裏話を学校中に広めろって」


「すみませんでした。それだけは勘弁」


「じゃあ、買い物ついでにデートしようか」


「はいはい、分かりましたよ亜美サン」


わざとらしく返事をしたのが不満なのか、亜美は新井の頭を一発叩いた。


「よう、デートですかお二人さん」


商店街では有名なほうの駄菓子屋『千代』の店長、滝千代彦たきちよひこが話し掛けてきた。


「こんにちは、千代さん」 「こんにちは」


新井と亜美は、店の中に入っていった。


「いや、幼馴染はいいね。ほれ、俺の奢りだ。受け取れ若僧ども」


滝は、二人に一個50円ぐらいのチョコレートを三つずつ渡した。売れ残りの品は、いつも小波高校の学生に無料で渡される。


「ありがとうございます、滝さん。この間はどうも」


「いいって、。気にすんな」


「ねえ、滝さん。この間って、どの間」


「あぁ、この前委員会の仕事でいろいろあったんだ」


「滝さん」


「・・・あぁ、そう言えば亜美ちゃんには委員会の話は禁句だったかな」


亜美は、『除霊委員会』の事を良く思っていないらしい。そのため、彼女に委員会の話をすると不機嫌になる。新井にとっては、八つ当たりをしてくるのではっきり言って迷惑だ。


「まぁ,お二人さん。これからデートならがんばってらっしゃい」


「よし、行こう。それじゃあ滝さん。チョコレート、ありがとうございました」


まだ拗ねている亜美を引張って駄菓子屋を出た行った。




5月23日午後1時10分


「よし、それじゃあまずは、シャー芯を買いに行きましょー」


「おー」


傍から見ればとても痛々しい言葉の掛け合いだが、今日は人が少ない。新井は、ほっとする。これで亜美の機嫌も直った。八つ当たりもしてこない。新井は,心の底から安心した。


「で、どこで買うわけ。そのシャーペンの芯」


「デパート『市倉』で買おう」


デパートと言っても都会のデパートよりも小さい。商店街の妨げになる事はない。むしろ、商店街の皆と手を取り合っていかなければ潰れてしまうかもしれないデパートだ。『商業協定組合』と言う物もできているらしい。そんなデパートだが、品揃えはだけはいいと評判だ。


「よし。場所も決まったことだし、行きますか」




5月23日午後1時30分


デパート市倉の店内。文房具売り場。


「むぅ・・・・、まさか市倉でも無いのか」


シャー芯の売り場には、何も無い棚だけがあった。早々、売り切れる、と言う事は無いので運の悪さに亜美は肩を落とした。


「ま、まぁ、また入荷するだろ。それまで、俺のシャー芯を貸してやるから」


「本当!それなら安心ね」


急に元気になった亜美に驚きながらデパート市倉を出る。


「そうだ。ジュース買ってくるは。亜美は何がいい」


「炭酸系」


「はい、分かった。じゃあ、買ってくるからそこらへんに座ってろ」


それだけ言うと新井は自動販売機があるほうに走っていった。


「あぁ、暇だなぁ〜」


亜美の悲しい声が空に響き、消えていった。




5月23日午後1時40分


「あいつ、何が炭酸系だよ。飲めないくせに」


ぶつぶつ言いながら、新井は歩いている。手には、レモンティーが二つ握られていた。


「ん?あれは」


新井の目の前には、いかにもヤンキーな感じの人たちに囲まれている亜美がいた。


「ねぇ、君可愛いね。いっしょに遊ばないか」


「おい、それは古いんじゃないか」


「まぁ、とにかくいっしょに遊ぼうぜ」


【やれやれ、今日は本当についてない。あぁ、最悪だ】


そう心の中で思いながら新井は手に持っていたレモンティーの缶を投げた。


ゴン


缶は、ヤンキーにクリーンヒット。


「痛ってえじゃねえかコノ野郎。何だよお前。こいつの彼氏か」


「まぁ、そんなところだ」


新井は、何事もなかったように亜美のそばまで行き、手を掴んでヤンキー達から離れていった。


「おい、俺らを舐めんじゃねえぞ」


ヤンキー達の手には、ナイフやら何やら、人を殺せそうな凶器があった。


「亜美、走るぞ」


新井と亜美は走った。ヤンキー達もその後を追う。


「くそ、しつこいなあいつら」


新井は、裏道に入る。


「くそ。二手に別れるぞ」


新井の入った裏道は、道が二つに分かれているT字路だった。


【くそ、どっちに行く。もうこうなったらどっちでも良いや。左だ左】


新井の選んだ道は、一直線上だった。その目線の先には一人のヤンキーが、後ろには二人のヤンキーが走ってきた。


「や、やべえ。挟み撃ちにされた」


「ど、どうするのよ、くま」


「はぁ、はぁ、はぁ・・・。やっと追いついた。観念しやがれこの糞ガキどもが」


道は一直線。前にも後ろにも、手に凶器を持ったヤンキー。


「しかたが無い。かかって来い、ヤンキーども」


「くま。くっ、やめろ」


亜美が止める。


「へん、彼女の前だからってかっこつけるのは良くないぜ。この糞ガキィィィィィィィィィ」


ヤンキー達が同時に新井目掛けて走ってきた。新井もヤンキー達の方に走っていった。


「やめてくまー」


亜美の叫び声だけが空に響き、消えていった。




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