I-X angel people match
5月23日午後9時
高森と木乃は噴水広場に着いた。
「一応噴水広場に来たけど、さっきの避難放送で人っ子一人いないな」
「委員長、くまはその後何ていってましたか」
「分からん。途中で電話が切れてしまったからな」
2人が話していると、噴水広場の木の陰から1人の男が出てきた。
「ようこそ。除霊委員のお二人さん」
「誰だ」
「自己紹介が遅れました。私の名は、ラオン・ネーゼル・シグマといいます。先ほど私の分身を貴方達のお仲間の方に挨拶させにに行きました。確か名前は、石橋とでもいったでしょうか」
「何、石橋と会っているのか」
「えぇ、もの凄く不快になりました。もう少しこの場でお待ちください。全ての決着ははその後付きます」
「ただ単に待っていると思う?あなたの正体は知らないけれどこの事件に係わっているなら霊かなんかでしょうね。委員長、やりましょう」
木乃はそう言うと、手を後ろに回して腰のホルスターに入っている拳銃を取り出した。
「あぁ、分かっている」
高森の右手に光が集まっていき、『槍』の形になっていく。
「まったく、人間の雌は野蛮ですね。でも良いでしょう。ここなら私の能力を使うことが出来る」
そう言うと、Σは噴水の近くに行き、水の中に手を入れた。
「我が能力は我を守るためにあり。我が能力は我の敵を倒すためにあり。我は流す、『水の葬花銃』」
Σがそう言うと、噴水の水が回り始め渦潮を作っていく。そして、噴水の水が空へと巻き上げられてドリルのようなものが作られた。
「私の能力は水を操る能力だ」
さらに同じような水の竜巻が5本出来た。
「弾丸は装填した、後は引き金を引くだけです。どうしますか。大人しくしていてくれれば何もしません」
「そういう訳にもいかないんだな」
高森の手には、矛先が橙色の槍が握られていた。
「委員長、さっさとあんなやつ倒しましょう」
木乃は、手に握っている拳銃に弾を装填した。
「仕方がないですねぇ、死んでもらいましょう」
Σが指をパチンと鳴らすと同時に、水の竜巻が2本、高森と木乃に向かって発射された。
「甘い」
高森は向かってきた水の竜巻を2本とも槍で横一文字に切り倒した。
「覚えておきな。私の『お札』の能力は自分自身の霊エネルギーを圧縮し、矛先から前方に打ち出す技、『砲撃槍』だ」
高森が持っていた槍の矛先からオレンジ色の霊エネルギーが、真っ直ぐ、Σの方に発射された。
「甘いのはどっちですか。こんな直線的な攻撃が避けれないとでも思いましたか」
Σは右に跳んで避けた。
「それは、あんたでしょ」
前方を見ると、木乃が片膝をついてΣを拳銃で狙っていた。
「『朱銀の矢』」
拳銃の銃口を中心に5つの光る玉が星の形を作っていく。
「くそぉぉぉぉぉ」
Σは残りの水の竜巻を木乃に向けて飛ばした。
しかし、水の竜巻はオレンジ色の光線によって全て斬られた。
「なにっ」
「直線上に竜巻を並べるなんて馬鹿じゃない」
「ナイス委員長」
銃口から赤色のエネルギー波がΣに向かって発射された。
「くそ、仕方が無いですねぇ。茶番は終わりです。来い、Ω」
エネルギー波とΣの間に少年が入ってきた。
「・・・・・。我が能力は我を守るためにあり。我が能力は我の敵を倒すためにあり。我は喰らう、餓狼餓鬼」
少年は両手を前に出した。手の平には3本の線が引いてあって、上に短い線が横に2本、下に手の端から端まで横に長い線が1本ある。
両手の短い2本の線が開き、その中から目玉が飛び出してきた。そして長い線が開き、その中から舌が出てきて口が出来た。その口がエネルギー波を全て飲み込んだ。
「そんなの有りか」
「委員長、危ない」
Σが薄緑色の霊エネルギーで作った十字架で高森を狙っていた。
「十字砲」
薄緑色のエネルギー波が高森目掛けて発射された。
【体勢が悪い。避けきれない】
十字砲が高森に目掛けて飛んでいくのと同時に、高森達が通ってきた道から2人の影が現れた。
「危ねぇ、委員長しゃがめぇぇぇ」
高森と十字砲の間に石橋が入り込んだ。石橋の持っている日本刀が十字砲を吸い込んだ。
「大丈夫ですか、委員長」
続けて神田が高森の側に走ってきた。
「くそ、もう来たか。足止めはどうしたんです」
「足止め?あの親父のことか。あんなの弱すぎて除霊しちまったぜ」
「違う、桐野楓だ」
「はっ、何だそいつは」
「・・・・。おい、Ω。まさかお前」
「・・・・・・・・ごめん」
「は〜、しょうがねぇ。Ω、щをするぞ」
「させるかぁ」
木乃がΣとΩを狙って3発撃った。しかし、2人は堕天使の翼を広げて空へ飛んだ。
「何あれ。あの翼って、まさかあいつら天使」
「違いますにゃ〜。あいつらは堕天使。まぁ、詳しいことは後ほど話しますゼェィ」
「いくぞ、Ω」
「・・・・・・・・」
Ωは、先ほど手の平の口で飲み込んだエネルギーを丸めて野球ボールぐらいの大きさの玉を作った。それを、ちょうど真下に投げ爆発を起こし砂埃を巻き上げた。
「くそ、何にも見えねぇ」
「皆、なるべくかたまっておくにゃ〜」
「おい石橋、木乃は」
「えっ、知りませんけど。神田は知ってるか」
「知らないにゃ〜」
石橋たちが固まっていると、前方から光が見えた。
「石橋、日本刀構えろ」
「はぁぁ」
石橋が光の方を見ながら返事をしていると、前方から赤色のエネルギー波が飛んできた。
「木乃、あいつッ」
神田は、赤色のエネルギー波を日本刀で吸い込んだ。その時に起きた爆風で、舞っていた砂埃が辺りに吹き飛んだ。
「木乃、てんめぇぇ、殺す気か」
「あんたの能力があるから大丈夫でしょ。それより、あいつら何所に行った」
辺りを見ると、ΣとΩの姿が消えていた。
「おい皆。下を見ろ」
高森の言葉で石橋たちは下を一斉に見た。そこには、この噴水広場を覆うように陣が地面に書かれていた。
「な、何だこれ。魔方陣か何かか」
『違いますよ。魔方陣なんかじゃありません。やっぱり、貴方の頭は空っぽですねぇ。もっとたちの悪い物ですよ』
「はぁ、ふざけんな。何所に居る」
「頭空っぽなのは本当だけどねぇ」
「うるせぇ、木乃」
「こんな時も喧嘩するな」
『喧嘩もその位にしておいてくださいね』
「誰がこんなやつと喧嘩なんかするかよ」
「ふざけんなよ石橋。あれ、神田は」
木乃が気づいた時には、神田はこの場から居なくなっていた。
『それでは皆さん』
Σの声と共に、地面に書いてある陣が光りだした。
『楽しい楽しい、殺し合いの始まりですよ』
陣が光だし、噴水広場を覆うように結界が出来た。
『一方的のね・・・』
5月23日午後9時14分
「絶対、どこかにあの陣を作っているヤツがいるはずにゃ〜。そいつを探すまで耐えてて下さいにゃ〜、皆」
携帯が鳴っているのにも気づかずに、神田は真っ暗な茂みの中を走っている。
5月23日午後9時15分
場所は特別除霊軍本部。特別除霊軍本部は、小波町の隣の町の円雫町の中心街に建っているセンタービルにある。
「神田のやつ、電話鳴ってるのに気づいてねぇのかぁ」
「緊急の用事ですか。だったら私が行ってきましょうか」
「それは駄目だ。秘書が居なくなったら困るだろ、木津」
「分かりました。では、今夜はゆっくりお休みください、塩祖様」
「あぁ、お休み」
木津は扉をガチャンと閉めた。
しばらくすると、塩祖の携帯に電話が掛かってきた。
「もしもし、塩祖です」
『鬼島だ』
「どうしたんですか。特別除霊軍上層部のお偉いかたが、こんな只の高校生に電話してきて」
『何を言ってるんだ。君は特別除霊軍総隊長でありながら特別除霊軍最高司令官だろ』
「分かってますよ。少し遊んだだけです。で、用件は何ですか」
『最優先事項の『天への扉』の保護に成功した。後は、『通行許可指輪』と『天からの鍵』だけだな』
「いいや、違うぞ。『天からの鍵』は、もう保護してある。何せよ、特別除霊軍の隊員だったからな」
『そのことを聞いたのは、今が初めてなんだが』
「そうだったっけ。まぁ、そこら辺は内の秘書に任せてあるから。用件はこれで終わりか」
『ああ。そういえば、『天神の子』のことはどうなっている』
「悪い。そこら辺はパスだ。もう切らせてもらうぞ」
『ああ、すまなかった。また何かあったら電話する』
「次にお前から掛かってくる電話が良い知らせだということを願うよ」
塩祖は電話を切った。
「『天神の子』か・・・。石を見つけるみたいに簡単に見つかるなら、『世界を救う存在』とか言われたりしないぜ」
塩祖は窓から見える空を見ながらため息を吐いた。