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仕事探し

 昼空に、留まる白い月が一つと、緑がかって見える動く月が低い位置に一つあった。


 成果があっても無くても、エドワルドの仲間がストラディゴスを訪ねてブルローネに報告に来る約束となっている。

 その約束の時間は白月と緑月が上下に並んだ時で、月の動きを見る限りでは、まだかなりの時間があった。


 彩芽は、月が沢山あるのか、空の色によって様々な色に見えているだけなのか気になったが、ストラディゴスは時計を見る様な感覚で見ているだけで、月が同じ物なのか等は、気にした事も無い様である。




 三人で話し合った結果、フィデーリスに滞在している間には、彩芽とルカラが出来る旅を想定した仕事が無い為、町で一稼ぎしようと言う話となり、三人はブルローネを出て城壁へと歩き出した。


 旅人が資金を稼ぐ方法は、いくつかある。


 まずは、芸を披露するか、土木工事や農業と言った日雇いの肉体労働を手伝うかが基本である。

 だが、フィデーリスに関して言えば肉体労働者を、わざわざ金を払って雇う者などいないと言っていい。

 それは当然、奴隷で賄われているからである。


 そうなると、旅芸人に交じって見世物でも披露するかと言う話となるが、三人ともに見せて人様を楽しませられる芸など手持ちに無い。


 と、すればである。

 他の人が出来ない事か、したく無い事を代わりにする以外に無い。


 フィデーリスを取り囲む城壁、その東西南北に存在する四つの主門近くの壁面には、誰が最初に始めたのかも分からない、仕事の依頼書を貼る場所がそれぞれにあった。

 ストラディゴスの話では、最初はお尋ね者の人相書きから始まり、いつしか今の様な仕事の募集掲示板の様な事になっていったらしい。




 ストラディゴスの肩の上に座ったまま、この光景を見てモンハンを思い出した彩芽は、ここが酒場で無い事だけは残念だがゲームの様だとワクワクせざるを得ない。


 一方で、着慣れない男装が気になるのか、彩芽によって長い髪が邪魔だろうと見事なポニーテールにされたルカラはストラディゴスの影に隠れながらついてきていた。

 ストラディゴスは髪は売れるし切ろうと言ったが、彩芽が勿体無いと言ったのでそのままにされたのだった。




 そこは元の役割も失っておらず、お尋ね者の人相書きと共に様々な依頼書が、特に形式も無く無作為に張りまくられていた。


『連続窃盗犯、生死問わず:一千フォルト(十万円)』

『盗賊団:生け捕り一人二千フォルト、殺害一人一千フォルト(生け捕り二十万円、殺害十万円)』

『連続殺人犯、生死問わず:五万フォルト(五百万円)』


 と言う類の手配書が何種類かあるが、一番多いのは、


『逃亡奴隷、生死問わず:捕獲で一千フォルト、処分で百フォルト(捕獲十万円、処分一万円)』


 であった。


 奴隷の逃亡は、このフィデーリスが抱える社会問題の様である。

 連続窃盗犯は更衣室に現れた奴かもしれないが、人相書きは無かった。




 他を探すが、彩芽でも出来そうな物は、あまりない。


『墓の見張り:一日三十フォルト、墓荒らしを捕えれば三百フォルト追加(三千円の日当、三万円のボーナス)』


 の様な、アルバイトレベルの物がせいぜいだ。


 深夜の広い墓場を見張って、食事代が稼げると考えれば良いのかもしれないが、フィデーリスに二十四時間営業の店など一部の酒場ぐらいしか無い為、昼夜逆転してしまうとそこでしか食事は出来なくなる。




 他に無いかと見ていく中で一番気になったのは、やはり最高額の報酬が提示された物である。


『ピレトス山脈、亡国の王墓迷宮、指定モンスター討伐:二千万フォルト(二十億円)』


 自分で受けられなくても、彩芽は桁違いの報酬を提示されているモンスター討伐が気になって仕方が無い。

 ゲームで二十億円が一度のクエストで手に入ったら、ゲームバランス崩壊は必至である。


「ねえストラディゴス、あの二千万フォルトってやつさ、ストラディゴスでも難しいの?」

「無理だな」


 あっさりと断言された。


「でも、二千万フォルトだよ」

「あれは、マルギアスの正規軍でも難しいと思うぞ。少なくとも、相当の被害を出すからああやって外注してるんだろ。依頼書があれだけ特に古いだろ? しかも、マルギアス王室直々の依頼で、最初の依頼日が一〇〇八年になってるのが見えるか?」

「うん」

「今は一四〇六年だぞ。四百年近く前から、あそこにあるって事だろ。それに、あの依頼書は何度も再公布されて生きてるって事は、それだけモンスターが危険って事だ」


「どんなモンスターなの?」


 依頼書の再公布が随分と前なのか、手配書はボロボロになっていた。

 描かれているモンスターのペン画による絵だけでは何か分からないが、フードをかぶった人の骸骨に見えた。


 RPGでは、スケルトンなんてモンスターは、スライムやゾンビに並んで雑魚の定番に思えた。

 アンデッドなんて聖水でもかけてやれば倒せないのだろうかと彩芽が想像していると、ストラディゴスは口にするのも嫌そうにモンスターの名前を教えてくれる。


「ソウルリーパー、ってわかるか?」


「ううん」


「あいつの通称だ。他にもデスサイズとか、死神って呼ばれてる。噂だと、大昔の死霊術師の成れの果てだって話だが、そんな奴の相手は、いくらお前の頼みでも勘弁だからな。触らぬ神に、って言うだろ?」

「死神だけに」


 日本の諺に聞こえているが、似た言葉がこの世界にもあるのだろう。


 彩芽は、ハリポタの空を飛んで襲ってくる幽霊(うろ覚えの上、シリーズ三までしか見てない)かロードオブザリングのラスボス(当然、寝ているので回想シーンでしか見てない)みたいな、厄介なモンスターである事だけは理解した。




「それよりも明日出発の、このモルブスまでの荷馬車の護衛ってのが良い。アヤメおススメの迷宮のモンスターに比べれば退屈だし報酬も少ないが、死ぬ危険も報酬の分だけ少ない」


 安全第一、手堅く稼ぐのがこの世界では長生きのコツである。


「モルブスって、奴隷を運んでくるって言ってた町?」

「よく覚えてるな。なんだ、安心しろよ。行きも帰りも奴隷は運ばない奴をちゃんと選ぶ」


『モルブスまでの荷馬車護衛:二日で六百フォルト(六万円)』

 何枚か貼ってある同じ依頼書の一枚剥がし、ストラディゴスが集合場所や時間、参加者の人数を確認する。


「ルカラは、どれにする?」


 ストラディゴスの肩の上から、壁を見上げて依頼書を見ている筈のルカラに声をかけようとすると、彩芽の声は届かず、ルカラは何かに怯える表情をしてフィラフット市場に向かって駆けだしていた。


「ルカラ!?」

「なんだどうした!?」


 依頼書を見ている人込みをかき分けて、何人かの男達がルカラの後を追って走っていくのが見えた。


 ルカラは何者かに追われていたのだ。


「ストラディゴス追って!」

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