後日談1
それから一週間後。
ネヴェルの城は、フィリシスの見事な大暴れと、それが原因で起きた火事、見張り塔の倒壊及び城への落下によって、見るも無残な姿に変わり果てていた。
今は、町の人達総出で城の復旧作業を進めている。
だが、ストラディゴス以外に怪我人は無く、むしろネヴェル陥落の動かぬ証拠が出来た為、ポポッチ一味は予定より早くカトラス王国へと戻って行った。
アスミィ、テレティ、ハルコス、そしてフィリシスは、これを機に本当にポポッチの家臣になると言う話だ。
彩芽は、ポポッチの頭痛は酷くなりそうだが、少し楽しそうに思えた。
船の上でフィリシスに勧誘された事を思い出し、こんな事ならポポッチ一味も悪く無かったかもしれないと少しだけ思う。
あの日、エルムは船で王都まで行き、作戦を計画通りに進めた。
ストラディゴスの計画に無い活躍があったため、騎士団内でエルムへの責任問題が浮上すると、自身の判断ミスを認めて騎士団長の職を、あっさりと辞任してしまった。
ただの魔法使いとして大臣として、オルデンと共に停戦協定の締結に向けて忙しそうにしている。
ストラディゴスは、騎士の称号を自ら捨てたが、オルデンの計らいでフィリシス撃退の褒美として騎士の称号を再び授与される特例措置を受けられる事となったが、自分には相応しくないとして辞退してしまった。
そして、彩芽はと言うと……
カチカチカチ……
「まさに灯台下暗し」
ピアスを舌で遊びながら、ブルローネのロビーにあるソファに寝っ転がっていた。
水色のワンピースにロングブーツ姿。
目の前にある砂時計の砂は、落ちていない。
「はい、どうぞ」
アコニーにお茶を出され、彩芽は身体を起し座る。
「ありがと」
「あと、これね。絶対無くさないでね」
「何から何まで、感謝してもしきれません」
彩芽がアコニーに抱き着き、頬にキスをする。
アコニーは、孫でも可愛がるように頭を撫でてくれた。
直後、厳しい視線を彩芽の向かい側の席に向けた。
「悪用するんじゃないわよ。ストラディゴス」
「何だよ。しねぇよ」
ストラディゴスは二人掛けの椅子に窮屈そうに座りながら、アコニーに答えた。
アコニーに手渡されたのは、ブルローネ総支配人アコニー・キングから全店舗に向けた書簡である。
その効果は、ブルローネの全ての店舗で顔が利くようになる事。
部屋が空いていれば、姫は付かないが無料で泊めて貰えるらしい。
ストラディゴスは傭兵時代を彷彿とさせる装備に身を包み、旅の準備を整えていた。
「アヤメ、いつでも私を頼ってね。お金が必要なら、姫としても大歓迎よ」
「おい、冗談でもやめてくれ」
「あなたがそんなこと言うとはね。あ、あと、ヴィエニス様にも手紙をあげて。楽しみにしてるはず」
「はい!」




