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告白の返事

 彩芽は、ストラディゴスに過去を語り出した。




 父親の財布から金を抜き取って怒られた話。

 トイレを詰まらせて逃げた話。

 学校のテストでカンニングした話。

 拾ったお金を届けなかった話。

 友達の約束をすっぽかした話。

 クラスでいじめがあった時に、他人事と何もしなかったのを今でも後悔している話。

 昔から寝坊癖があって、遅刻の嘘が上手かった話。

 仕事をさぼって遊びに行った話。


 そのどれも、犯した罪の懺悔であった。


 最初、ストラディゴスは彩芽が何の話をしてくれているのか、わからなかった。

 聞いてくれと言われ、黙って聞いていると、まるで酒場で酔っぱらって話をしていた時の様に、時に真面目に、時に面白おかしく彩芽は話を続ける。


 悪い事をした話が尽きて来ると、彩芽は恥ずかしい話を始める。


 割と最近、トイレが我慢できずに事故を起こした話。

 欲張って豚骨ラーメンの無料お代わりをし過ぎて帰り道に吐いた話。

 泳ぎに行って下着を忘れた話。

 悪くなっている食べ物を、いちかばちか食べて食中毒を起こした話。

 猫アレルギーなのに猫カフェに行って病院に運ばれた話。

 人間関係が煩わしくなって、会社をやめてフリーランスになった話。

 一人エッチの最中に寝落ちして、パンツが大変な事になった話。

 出先でブラジャーが壊れ、恥ずかしい思いをした話。


 思いつく限りの忘れたい人生の恥部をさらけ出したのだ。

 それを話す度に、ストラディゴスの反応を確かめる。

 思いつく限り話し尽くすと、彩芽は小さく深呼吸をしてから川に飛び込んだ。


 水の中で頭を冷やすと、ぷはっと水面から飛び出す。

 メイド服が肌に張り付き、色っぽさはそこにはなく、ただただ重そうになる。


「どうだった……」


 ずぶ濡れで彩芽はストラディゴスに聞く。


「こんなので、がっかりしたのかって聞いてるの。良い所も悪い所も知りたいって、さっき言ってたよね? もう嫌になった? 嫌いになった? 私だって、同じだよ。間違いと失敗の塊だもん」


 ストラディゴスは、驚いた顔をして彩芽の事を見つめる。


「もう一度、告白してみて。私のどこが好きなの? なんで好きになったの?」

「……それは」

「私は、ストラディゴスさんの好きな所言えるよ。最初に会った時、ブルローネで謝ってくれた。美味しいごはんをご馳走してくれた。ベッドも譲ってくれたし、服もピッタリだった。ごはん食べさせてくれたのも、抱っこしてくれたのも肩車も久しぶりで、すごい嬉しかった。さっきだって一人で命がけで助けに来てくれたし、それに……告白してくれたじゃん!」


「俺は……」

 ストラディゴスは川に飛び込み、頭まで沈むとその場に立ち上がった。

 海から上がってきたときの様に鎧の姿のまま、またずぶ濡れになる。

 彩芽の方に向き直ると、ストラディゴスは考えずに思いをぶちまけた。


「お前の笑った顔が好きだ。眠そうな顔も眠った顔も、飯食ってる顔も、恥ずかしがってる顔も、怒ってる顔も、全部好きなんだ。お前の言葉が好きだ。考え方が好きだ。目も鼻も口も顎のラインも髪の毛も、手も足も首筋も項も胸も腰も尻も、全部が好きなんだ! アヤメ、俺はお前の全てが、キジョウアヤメが好きなんだ! お前が俺を」


「嫌いじゃないって?」


「ああ、そうだ!」


 彩芽は、川からよろよろとあがると、小高い岩場の上にのぼった。

 川の中にいるストラディゴスと目線が同じになる。

 彩芽は、まっすぐにストラディゴスを見据えると、静かに告白に応えた。




「今は……嫌いじゃなく、無いかな……」




「……それが、告白の答えか?」


「うん」


 ストラディゴスは、答えが聞けただけよかったと落ち着いた顔をした。

 自分の過去のあやまちは、あれだけ好きと言ってくれた相手でも、共にいる事を難しくさせるのだと実感する。

 そんな過去があっては、相手が不安になるのは当たり前であり、これは自分が償う為の当然の事だと思うと、少し気が晴れた気がした。




 彩芽は、断られて当然かと諦める巨人に向かって、岩場からジャンプした。


「受け止めて!」


 ストラディゴスは、下から救う様にお姫様抱っこで抱える。




「一言じゃ言い表せないけどね。でも、あ・え・て・言うならね」


 彩芽は芝居がかった事を、急に始める。

 ストラディゴスは、あの夜を思い出す。




「けっこう好きかも」




 木漏れ日の中、ずぶ濡れの二人。

 彩芽の無邪気な笑顔。


 ストラディゴスは、目に大粒の涙を溜める。

 歪んで見える彩芽の顔。

 なぜ、こんな自分を受け入れようとしてくれたのか分からない。

 それでも、ただ嬉しかった。


「一緒に、いてくれるのか?」


「本当に、私なんかでいいの?」


「お前じゃなきゃダメなんだ」

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