レベリング
ストラディゴスの昔話が終わると気まずい空気が流れた。
人生の汚点を自ら披露させられたのだ。
それも、つい先ほど勢いで告白をした相手にである。
彩芽の横でストラディゴスは、断頭台に向かう階段の前に立ち尽くしたみたいな顔で、水面を眺めている。
やり切ったが、罪を清算しただけで得た物は何もない。
だが、過去と向き合い、汚れ切った自分を晒してまで真摯に相手と向き合おうとしている事だけは、彩芽にもわかった。
しかし、話してくれた内容は、実にどうしようもない内容でもあった。
「何事も前提の条件が整えば、必ず肯定される」
ふと、先輩に昔言われた言葉を思い出した。
その時、彩芽は気付いた。
自分がストラディゴスの存在を、肯定したがっている事に。
清廉潔白で完璧な人間なんて、この世にはいない。
それなら、過去がどんなに汚れていても、自分の人生から排除するのは、違うのでは無いか?
自分の今までを振り返る。
ストラディゴスは清廉潔白であろうと努めているが、彩芽自身そんな大層な人間と言えるのだろうか?
彩芽は、そこまで考えると、語った過去の内容の酷さでは無く、今に目を向けるべきだと思った。
今、目の前では一人の男が、勇気を出して愛と罪を告白し、返事を待っている。
告白の内容だけでなく、告白した事自体にも意味があり、価値がある。
そこで大事なのは、男の過去か?
いいや、それだけでは無い筈だ。
今この瞬間、大事な事は、何か。
そんな物は決まっている。
それでも尚、目の前にいる男の事が、好きか否かである。
他人の意見なんて関係無い。
これは、彩芽が決める事なのだ。
そして、清廉潔白であろうと努める男に対して、彩芽は応えていない。
ストラディゴスが彩芽を特別と感じているだけで、彩芽は特別でも何でもない。
平凡などこにでもいる一人の女でしかない。
その事実を一番よくわかっているのに、彩芽はストラディゴスに対して応えられていない。
確かに、告白はされた。
だが、その告白に応えられるだけの存在ではないのに、一方的に偉そうに判決を出し、答えるべきであろうか。
彩芽の中で、一つの答えが出た。
「ストラディゴスさん、返事をする前に、私の話も聞いてくれますか?」
「え?」
「ストラディゴスさんに比べたら地味かもしれないけど、私の酷い過去も聞いて欲しいんです」




