最低の反撃
当時のルイシーは、ストラディゴスが皆に愛されるのは嬉しくても、皆に愛されるままに全てを受け入れている状況が、必ずしも良いとも思っていなかったと言う。
この頃のストラディゴスは、ルイシーが無意識に作った自分の為のハーレムにどっぷりと浸かり、目的と手段が入れ替わりつつある時期で、ルイシーはそれを感じとっていたのだ。
仲間を心から愛して、愛に応える為に相手を愛する。
そんな自分と出会った頃の巨人を守りたかったルイシーは、フィリシスなら教えられると期待をしたのだった。
愛するルイシーに頼まれ、フィリシスはストラディゴスに愛を思い出させる事を決意したと言う。
当のストラディゴスは、フィリシスを仲間として気に入っていたが、その性格と、竜人族と言う事で、自分から夜這いをかける様な事はしていなかった。
下手をすると、拒否された挙句、本当に殺されかねない。
そんな存在が、ルイシーの頼みでストラディゴスの私生活に介入してくるのは、迷惑でしかなかった。
だが、ルイシーの頼みとあっては、一度は受け入れる他に無い。
フィリシスは、ストラディゴスに言い寄ってくる大勢の女達に対して、不器用にも説得して回ったと言う。
人間不信でコミュニケーションが苦手だったフィリシスの必死の努力。
ストラディゴスにルイシーの大切さを思い出させようという運動は、傭兵団内に広まっていった。
そもそもが、ルイシーの無意識に作ったハーレムである。
女達はルイシーを皆慕っていた為、フィリシスの行動にも理解を示してくれたのだ。
こうして、ストラディゴスは(ルイシー以外の)女断ちを余儀なくされる。
ルイシーの事は愛しているし、ずっと関係は続いているが、強い刺激に慣れ切った巨人は、物足りないと思うようになっていた。
先に断っておこう。
当時のストラディゴスは、ハッキリ言えば“クズ”だった。
ルイシーの頼みとは言え、フィリシスのせいで自分を慕う女達が、夜は距離を置いてくる。
その状況に我慢の限界に達したストラディゴスは、ある日の夜、フィリシスのいる所へ向かった。
フィリシスの所に行ったストラディゴスは、そこでフィリシスには手も触れず、その目の前でルイシーの事を愛し始めたのだった。
これがフィリシスの望みなのだろうと、ルイシーの事を一途に愛しつつ、他の女とは関係を持っていないとフィリシスに証明したのだ。
人として、あまりにも最低過ぎる反撃だった。
その日から、フィリシスの愛するルイシーが、愛する男に愛される姿を見る事がフィリシスの日課となっていく。
乱れ喜ばされるルイシーを前にして、フィリシスの中にあったモラルにヒビが入って行く。
いつしかフィリシスは、愛するルイシーをストラディゴスの様に愛したいと思っていった。
そして、ストラディゴスの様にルイシーにも愛されたいと思うと、その感情に歯止めが利かなくなっていく。
ルイシーをストラディゴスに一途に愛させると宣言した手前、フィリシスは葛藤に苦しむ。
しかし、これこそがストラディゴスの狙いであった。
* * *
「ストラディゴスさん」
「……なんだ」
「浮気が始まる前なんですけど、若干、と言うかかなり」
「言わなくても分かる。すまん」
ストラディゴスは、真っ赤になり、何ともいえない表情。
それでも、いっその事死にたいと思いながらも話を続ける。
好きな相手に、昔の彼女の話(しかも下品かつ酷いエピソード)をしろと言うフィリシスの要求のえぐさを痛感する。
大勢の前で事情聴取された時とは比べ物にならない精神への破壊力。
この話の後に、告白の答えを聞くと言う事を思い出し、滝つぼにちょっと吐く。
「ちょっと本当に大丈夫!? 続きは後にしない?」
「はぁはぁ、大丈夫だから、ほんと……」




