宿を得る
「あなた、とにかく迷子なのよね? 家に帰るあてはあるのかしら?」
一応事情を理解したアコニーが心配そうに聞いてくる。
だが、帰るあてなど想像もつかない。
「それがサッパリで」
と彩芽が答えると、アコニーは彩芽の中に答えが無さそうだと察し、その場にいるもう一人に考えを求めた。
「はぁ……ストラディゴス様、どうなさいますか?」
「どうって、旅なら、船か馬車を乗り継いでどうにか帰るしかないんじゃないか?」
ストラディゴスは、真面目に話を聞いていた筈だが、彩芽の要領を得ない「今起きた事をそのまま話すぜ」方式の説明を聞いても想像が追いついていないらしく、良く分かっていない様だった。
アコニーと彩芽の顔色を窺うと、ストラディゴスは今の答えがイケていない事を察し、別の案を考える。
「それなら、城の魔法使い連中に話を聞いてみるのは、どうだ?」
難しい事は知識人を頼るべし。
他人事かつ、丸投げでもあるが、かなり良いアイディアでもあった。
彩芽は、この世界には魔法使いまでいるのかと、勝手にハリーポッターをイメージする。
ストラディゴスの言葉に、アコニーが悪くないと表情で答えると、こんな事を言い始めた。
「では、ストラディゴス様、あなたが連れて来たのですから、せめて魔法使い様に会いに行くまでは、しっかりと面倒を見てあげてくださいよ」
「ええぇっ、俺っ!?」
突然、他人事でなくなったストラディゴスはあからさまに嫌そうである。
「当たり前です。ここまで話を聞いて、栄えある騎士様が困っている女性を見捨てるんですか? 勘違いだとしても、一度拾ったんですから最後まで責任をお取りなさい」
アコニーに言いくるめられ、ストラディゴスが彩芽の方を見る。
つい先ほどまで向けられていた助平な笑いは顔に無く、「おいおい、気まずいよ、どうするよ」と言いたげな、不安と困惑が混ざった表情をしていた。
本当に困っているのは捨て猫みたいな扱いを受けている彩芽の方だが、その性格のせいかそこまで緊張感は感じられない。
ストラディゴスは立ち上がると、悩み始めた。
断る口実をどうにか捻り出そうとするが、口でアコニーに勝てる気がしない。
部屋の入口で三人の話を当たり前の様に立ち聞きしているブルローネの姫達の視線を感じると、格好の悪い所は見せられないと思ったのか、諦めたのか、苦しそうに求めに応えた。
「じゃあ……とりあえず、今夜は、ウチに来るか?」
「……じゃ、じゃあ……お言葉に甘えて」
「ベッドは一つしかない、一緒に寝るのが嫌なら床になるが、構わないか?」
「いえいえ、屋根があるだけで助かりますし、お世話になります」
彩芽は椅子から立ち上がり、ストラディゴスに軽くお辞儀をする。
ほんの少し前まで畳の上で転がっていたのだ、どこでだって眠れる。
それを見たストラディゴスも立ち上がると、片膝をついて視線を彩芽よりも低くして深呼吸をした。
「ふぅ………………ネヴェル騎士団、副長ストラディゴス・フォルサ。先ほどの非礼を詫びたい。本当にすまなかった。アヤメ殿」
ストラディゴスに改めて謝られる。
正直、うやむやで終わると思っていた彩芽は、目の前の巨人が悪い人ではないらしいと、少しだけ安心した。
彩芽は、元々の騒動が勘違いだった事もあり、それもすぐに誤解が解けたのだから、取り返しのつかない被害が無い以上、もう気にしないようにと勝手に切り替えて考えていた。
そうとは知らず、ストラディゴスが見せた姿勢。
自分の犯した罪を認めて謝れる姿勢と潔い態度には、素直に好感を持てた。
「こちらこそ、なんかごめんなさい。ストラディゴスさん。よろしくおねがいします」
彩芽に責められる事を覚悟していたストラディゴスは、少し拍子抜けする。
姫(高級娼婦)と間違えた時点で、普通の女性なら貴賓関係無く少なからず不快に思うものだし、怖い思いもさせたのに、逆に謝ってくる女がいるとは思いもしなかったのだ。
話がまとまり、アコニーが手を叩くと館の姫達は「もう終わりか」と解散していく。
ところが、男とは単純かつ馬鹿な生き物である。
その中でも、自分を中心に世界が回っていると勘違いをしている自信に溢れた大馬鹿者は、自分の欲望を優先させる。
階段を上っていく姫達の綺麗なお尻をジッと見送っていたストラディゴスは、バツが悪そうにこんな事を言った。
「すまないついでで、悪いのだが……少しだけ時間を貰えないか?」
「はい?」




