贖罪
塔に小さな浮遊感が宿っていく。
見張り塔が倒壊を始め、壁も足場も遠のいていく。
塔の壁に張り付いたまま落ちれば、結局最後は自由落下と同じ事になる。
ストラディゴスは、斜めになっていく塔の坂を滑り始める。
しかし、坂道は途中で崩れ無くなり、二人は空中へと投げ出されてしまった。
ストラディゴスは彩芽を強く抱きしめた。
死ぬ前にせめて温もりを感じたかった訳では無い。
自分の身体を盾にしてでも、どうしても守りたかったからだ。
ストラディゴスの腕の中で、彩芽は思った。
このまま死ぬにしても、自分を好きな人に守られながら死ぬのなら、無駄に死ぬより一ミリでもマシだと思えるなら、悪くない人生と言えるのでは無いか。
「ぐぁっ!?」
二人の身体を衝撃が襲った。
地面への激突では無い。
気が付くと、竜になったフィリシスの腕につかまれていた。
「フィリシス!? どうやって」
ストラディゴスの質問に、フィリシスは下を見る。
そこには、アスミィと、ポポッチの恰好をしたハルコスがいた。
ハルコスは、胸を隠して手を振っている。
「さっき、言ったよな。俺は覚えてるからな、ディー。約束だ、お前を俺の好きにさせろよ」
ネヴェルから少し離れた山間の滝。
フィリシスに助けられた彩芽とストラディゴスは、ひと気のない場所におろされる。
「お前の事、俺の好きにさせてくれるんだよな」
「何でもする。煮るなり焼くなり好きにしてくれ」
「ストラディゴスさん……」
ストラディゴスが、彩芽がオルデンと付き合うと勝手に思い込んで、身を引く覚悟だった事は、先ほどの告白までの会話から察しがついていた。
だからこそ、フィリシス達に最初から殺されても良いから償おうと、彩芽を助ける覚悟のもと城に乗り込んできたのは明らかだ。
それなのに、告白をして尚、フィリシスに対して罪を償おうと本気でぶつかっていくストラディゴスは、ただ彩芽の事が好きなだけでは無い事が彩芽にもわかった。
愛する人に対して相応しい人間になりたいと言う、覚悟がそこにはある。
ストラディゴスは、相応しい人間に近づくには、命を懸けても足りないと思っている。
ブルローネでルイシーが彩芽に言っていた通り、巨人の望む自分へ変わる為に必要な事が、この贖罪なのだろう。
フィリシスは、許しを乞うのではなく、償いたいと願うストラディゴスを見て、悔しいと思った。
自分と仲間達を蔑ろにした愛する男が、別の女の為に、誠実で前よりも魅力的に変わろうとしているのだ。
なぜそれが自分の為では無かったのか、未練があればこそ思ってしまう。
だからこそ、試したくもなる。
「アヤメ、ディーに計画の事を全部話してやってくれ。俺は城に戻る」
「待ってくれフィリシス!」
「それとアヤメ、お前も聞いてたよな。俺の好きにさせるって言ってたのをよ。ディー、お前が俺達にした事を全部アヤメに話しな、それでチャラだ」
フィリシスは、悪戯に悪い笑顔をストラディゴスに向け、それだけ言うと、二人を置いて城へと飛び去って行ってしまった。




