倒れる塔
戦いが終わった様だった。
彩芽の位置から全ては見えないが、二人とも生きている様である。
これで解決かと思い「よかったよかった」と独り言を言っていると……
塔の尖塔の上からロープで吊るされている自分の身体が、尖塔と距離が離れ始めている事に気付いた。
塔が城に向かって斜めになっているのだ。
「たすけてーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!」
叫んでも、フィリシスが飛んでくる気配が無い。
このままでは、死んでしまう。
身体をよじっても、ロープが解ける気配も無い。
「冗談でしょ!?」
斜めになる塔の上、高所恐怖症じゃなくても宙吊りに背筋が凍る。
「アヤメ!! 大丈夫か!!?」
ここまで、全速力で螺旋階段をのぼってきたストラディゴスを見て、安堵した。
助かった。
彩芽は、なぜ自分がこの塔の階段が螺旋階段と知っているのか、映像がフラッシュバックする。
「ストラディゴスさん! 私、前ここ来た事ある!」
「降りたら聞く!」
ストラディゴスは彩芽を縛るロープを解くと肩に担ぎ、螺旋階段へと向かう。
しかし、内壁に張り付いていた螺旋階段は、塔の半分に重心が偏る事で次々と歯抜けになっていく。
もう降りる事が出来ない。
「くそっ」
傾斜が増していく監視室。
このままだと床が抜けると、もう一度屋根に戻る。
屋根を登っていき、尖塔につかまる。
彩芽は次々に思い出す記憶の断片にクラクラした。
そんな彩芽を担いだまま、ストラディゴスは助かる方法を探す。
他に空を飛べそうなもの、地面に降りれる方法を考える。
アスミィやハルコスが使っていたベルトでもあれば、空に避難できそうだが、そんなに都合よくは無い。
ストラディゴスは、倒れつつある外壁を覗き込んだ。
階段の歯が抜け、積まれた石が所々梯子状になっている。
「これしかないか……」
城と反対側なら、降りている最中に塔が倒れても、少なくとも塔に潰される事は無い。
「アヤメ、下を見るなよ」
「んな無茶な!?」
ストラディゴスが外壁をクライミングでおり始めた。
「ストラディゴスさん!」
「なんだ!」
「私のどこが好きなの!」
「……それ誰に聞いた!?」
「オルデン公とか! みんな!」
「オルデン公!? オルデン公はお前を好きじゃないのか!?」
「ただの友達だってば!」
「領主様が友達!? なんだそれ! その話! 続きは降りてからじゃダメか!?」
「生きてる間に聞きたくて!」
まだ地面までは数十メートルは距離がある。
落ちれば二人共ひとたまりも無い。
「ああ、もう! わかったよ! 最初にあった日の夜、お前は俺といて楽しいって言ったんだ!」
「楽しかったし言ったかも!」
「俺は、お前といると良い奴でいられるらしい!」
「何それ!」
「俺を、死ぬまで良い奴でいさせて欲しい!」
「告白みたい!」
「告白だ! ずっと一緒にいたいんだ! お前が俺を、あの日の夜みたいに『嫌いじゃない』って言ってくれるなら、俺は!」
その時、彩芽の中でバラバラだった記憶のピースが繋がり始めた。
酒場を出て、夜道で話し、タバコを吸い、塔の上で朝日を見た。
異世界に一人で来て、ずっと不安を感じないでいられたのは、自分を抱えている巨人のおかげである事に気付いた。
「一言で言い表せない!」
彩芽は、フィリシスの言葉が引っ掛かっていた理由がはっきりし、スッキリした顔をする。
同時にストラディゴスの事を、ただの友達と思っていたのは、違う気がした。
「ああ! ああ、そうだ、お前を一言で言い表せるもんか! だから、もっと俺にお前の事を教えてくれ! 俺は、お前の良い所も悪い所も、全てが知りたいんだ!」
「嫌いじゃないよ!」
今まで生きてきた中で、一番うれしい言葉だった。
酔った自分から出た言葉だが、それは彩芽が誰かに言って欲しかった言葉でもあった。
本心で、心の底から。
ストラディゴスは、ストラディゴスの言葉として言ってくれたのだ。




