話と違う
「今頃になって騎士様のお出ましか、遅かったじゃないか」
フィリシスが、ずぶ濡れのストラディゴスを挑発した。
ところが、ストラディゴスからは思わぬ返事が返ってくる。
「俺はもう騎士じゃない。フィリシス、頼めた義理じゃないのは分かっている。どうか、その人を放してくれ」
「騎士じゃないだぁ? 一人でのこのこ出てきて、面白い事を言う様になったじゃねぇか。騎士はお前の目標だったろう……そんなに、こいつの事が大事なのか!?」
「そうだ!」
ストラディゴスの言葉に、フィリシスはイラついた。
「あの時の私よりも……ルイシーよりもか……」
「……」
「答えろ浮気野郎!」
「そうだ!」
「こいつと私の何が違う!」
フィリシスは、明らかに熱くなっていた。
まだ未練のある好きな相手との久々の再会。
ストラディゴスの為にと頭で思っていても、本心ではまだ自分を見て欲しい気持ちは変わっていない。
「アヤメは、俺を救ってくれたんだ!」
ストラディゴスの言葉を聞いても、彩芽はどの事を指しているのか分からない。
「お前が、お前とルイシーが俺を救ったんだろうが! 俺は、それを返そうと……俺じゃお前を救えなかったって言うのかよ! どうすれば良かったんだ! くそっくそっ……ああぁダメだ。気が変わった。こいつは、自力で取り戻してみな!」
フィリシスは巨大な翼で飛び立つと、見張り塔の上にとまり、尖塔に彩芽を縛っていた縄を引っかけた。
塔の頂上では、宙吊りにされた彩芽が「計画と違う!」と文句を言っているが、その声は誰にも届かない。
ストラディゴスは、やるしか無いのかと巨大な剣を鞘から引き抜く。
フィリシスが、ようやくやる気になったかと、城の中庭に降り立った。
イライラする。
フィリシスは思った。
胸糞の悪さは、浮気をされた時の方がいくらかマシにさえ思えた。
ストラディゴスは剣を静かに構える。
対峙する二人、巨人と竜。
フィリシスが先に仕掛ける。
空に飛び上がると上空を旋回し始める。
城内にいた人々は、ただ一人戻ってきた巨人が、竜と戦い始めるのを見ると、一目散に城下町へと逃げだした。
その光景を塔の頂上で見ている彩芽は「話が違う!」と叫ぶ事しか出来ない。
当初の予定では、ストラディゴスが彩芽を助けに来たら、彩芽を助けて欲しければ捕虜になれと言って捕え、四人の元カノに対して謝る機会を作り、そこで計画をバラシて協力させる筈であった。
ところが、彩芽の見下ろす城の中庭は早くも火の海になり、フィリシスとストラディゴスは本気でやり合っている。
彩芽は、どうして計画通りに動かないかなと思いつつも、フィリシスが今でもストラディゴスの事が好きなら付き合えば良いのにと思った。
ストラディゴスも、フィリシスの事が嫌いではないのは、今の状況になる前の態度で分かる。
一体、こんな自分のどこにストラディゴスが惚れているのだろう。
彩芽が考えると、思い当たる節が一つだけあった。
急にストラディゴスが優しく感じた二日酔いの日。
その直前にあった空白の時間。
リバースしたあの時、何かがあったとしか思えない。
「そりゃお前、一言じゃ言えないだろ」と言ったフィリシスの言葉が、印象に残った事を想い出す。
何を、一言では言えないのか。




