人質のフリ
「来ると思うか?」
「さあ」
フィリシスの質問に、彩芽は答える。
「来なかったら、どうするよ」
「どうするんですか?」
「元の計画に無いシナリオだからな。知らん」
彩芽は溜息をついた。
「あの、なんで私なんですか?」
「だから、言ってるだろ、あのエロ巨人がお前にぞっこんなんだよ」
彩芽は、納得出来ない。
計画の全貌をアコニーとオルデンに聞かされた彩芽は、計画の仕上げの協力を依頼された。
フィリシスに捕まって、囚われの姫を演じて欲しいと言うのだ。
ストラディゴスが自分の事を好いているのは、薄々わかっていたが、ぞっこんと言うのには違和感があった。
仲の良い飲み友達が、実は自分に片思いだった事を他人に知らされたのだ。
正直、どうすれば良いのか分からない。
ストラディゴスの事は好きだが、彩芽の中での好きは、あくまでも友人、良くても親友としてである。
自分に対して父親の様に接する巨人は、共にいて居心地は良かった。
だが、それが恋愛感情ではないのはわかっている。
わかっているのだが、彩芽の中にもストラディゴスに対して、何か思うところがあった様な感覚もあるにはある。
しかし、それの原因がどうしても思い出せない。
「あの、フィリシスさん」
「フィリシスで良い。なんだ」
「昔、付き合ってたんですよね?」
「ああ」
「今も好きなんですか?」
「このタイミングで……そう言う事聞くか?」
竜の表情は読めなかったが、聞きにくい事を聞いてくれるなと言う顔をした。
「あ、いや、ごめんなさい」
「……」
「まだ好きなのに、こんな事してて良いんですか」
「続けるのかよ!」
「大事な事なので」
フィリシスは仕方が無いと話を始める。
「俺は良いんだよ。結局、惚れた弱みってのかな。あいつの好きなようにしてやりたいんだ」
「あの」
「まだ聞くのか?」
「一緒に飲んだ時に、ストラディゴスさん、殺されかけたって言ってたの、本当ですか?」
「ああ、それは本当だよ。あの野郎、俺が一番って言いながらアスミィ達三人と同時に」
「付き合ってたんですよね」
「いんや。寝てやがった」
「想像以上に最低だった!?」
それは修羅場にもなるわと彩芽は思う。
だが、それを聞くと別の疑問が頭をよぎる。
「そんなことされて、今でも好きって、ストラディゴスさんのどこが好きなんですか?」
「どこがって、そりゃお前、一言じゃ言えないだろ。顔も好きだし、性格だって、それに、その……身体の相性も……(ごにょごにょ)」
彩芽は、照れながら話す竜の話を聞きながら、フィリシスの言葉が頭の中のどこかに引っ掛かった。
「お、噂をすれば最低野郎のご登場だぜ」
フィリシスは竜の口角をあげて凶悪な笑みを浮かべた。




