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騎士

 ネヴェルの船団が町に戻ると、城の屋根の上に巨大なフィリシスの姿が見えた。


 自分達が留守の間に、城が陥落していた事実に、騎士団員も兵士達も動揺を隠せない。

 戻る城を失い、城に掲げられたカトラスの旗印を目に、敗北を実感する。


 エルムが船舵のある甲板に上り、深刻そうな顔をして柵にもたれかかった。


「オルデン公……申し訳ありません……」


 エルムの悲痛な表情。

 それを間近で見ていたストラディゴスもまた、自分の元恋人達によって受けた手痛い敗北を受け入れるしかない。


「エルム、俺は」

「ストラディゴス、もうお前を責めたりしない。これは騎士団長である俺の責任だ」

「でもよ……」

「総員、聞いてくれ! これより王都へと向かう! 一度体勢を整え、それから城を奪還するぞ!」


「団長! 竜の手を見て下さい!」

 マストの上で監視していた兵士の声。

 一同が竜の手に注目する。


 エルムが単眼望遠鏡で見ると、竜の手には人が握られていた。


「あれは、アヤメか!? 人質のつもりか」

 エルムは苦虫を噛み潰したような顔をし、苦渋の決断を下す。


「……一時撤退だ! 舵を切れ!」


「待ってくれ!」


 ストラディゴスはエルムに食い下がった。


「なんだ」

「アヤメをあのままにしていく気か!?」

「今の戦力じゃどのみち助けられない。船同士の砲撃戦や白兵戦ならともかく、竜相手に攻城戦を挑む気か。冷静になって考えてみろ。竜に有効な攻撃を出来る者がこの中に何人いる。犬死だ」


「頼む」

「いいや、駄目だ」

「俺が囮になる」

「それで何になる。提案するつもりならちゃんとした作戦を考えろ。無いならお前も船を手伝え」


 船員や兵士、騎士達は、エルムの命令通りに既に船の操舵を始めている。

 ストラディゴスは必死に考えた。

 エルムの言う事は、どれも最もであった。

 それでも、目の前で大切な人が捕まっていて、見捨てていく事など出来ない。


「突っ立ってるつもりか?」

「……りる」

「なんだ、ハッキリ言え!」


「船を降りる」


「そんな事の許可はできない」

「許可なんているか! 俺は一人でも行くぞ!」

「命令に逆らうつもりなら、今すぐ騎士を辞めろ!」

「辞めてやる! そんなもの!」


 ストラディゴスは騎士章を海に投げ捨てると、荒波の中に飛び込んでしまった。

 想定外の行動にエルムや乗組員達が海を見ると、巨人が鎧の重さも物ともせずに陸地に向かって泳いでいる姿が見えた。


「あのバカ」

 そう言いつつも、エルムの表情は少し嬉しそうであった。

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