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真相と計画

 ルイシーとオルデンに連れられ、彩芽がやって来た場所は、ブルローネであった。


 オルデンの来店に、アコニーが出迎える。


「ヴィエニス様、順調の様ですね」

「そちらの首尾は?」

「問題ないですわ。もう、国中に噂が広がっている筈です」


 彩芽は、会話の意味も分からなければ、状況も分からず、自分がなぜ連れ出されたのかも分からなかった。

 すると、アコニーの後ろから、さらにもう二人が出迎えてくれる。


 そこにいたのはポポッチとテレティであった。

 彩芽は更に混乱する。


「やはりヴィエニスの女だったではないか」とポポッチが笑っている。

「どうも」と、ポポッチを護衛しているテレティがフランクに挨拶してきた。


「久しぶりね、アヤメ」

「あの、アコニーさん、これってどういう……」




 * * *




 アコニーが語り出したのは、この騒動の裏側であった。




 時は三ヵ月前に遡る。


 マルギアスとカトラスの開戦が、両王家の合意で決まり、宣戦布告や開戦の時期が詰められていったと言う。

 長年行われている国境での小競り合いは、ハルコスの説明にもあったように、王家への憎しみをそらすセレモニーとなり果てていた。


 この慣習によって、両国は戦争を止められないでいたのだ。




 一度開戦が決まれば、両国は一戦交えたと言う事実がないと、お互いの王家にプライドがあり引くに引けない。

 血が流れなければ、停戦も休戦も終戦も行われないのだ。


 そこで、マルギアスの大貴族ヴィエニス・オルデン公爵と、カトラス王国のポポッチ・ズヴェズダー第六王子は共通の友人アコニーを介して、似た考えを持っている事を知り、今回の計画を実行する事にした。




 最初に、オルデンをさらい、ネヴェル騎士団を引っ張り出す口実を作る。


 次に、無人の大船団でネヴェルを攻め込むフリをし、カトラス軍をネヴェル騎士団に倒させ、華を持たせる。

 船団は、傀儡人形で操船だけならなんとかなった。

 傀儡人形は、一部の魔法使いが一般的に使う物なので、それですぐに出所がバレる事も無い。


 次に、ネヴェルを表向きに陥落させる。


 これにより、マルギアス王家にはカトラス軍の王都への挟み撃ちと兵糧攻めの危険性を噂で流し武力としてはフィリシスで牽制出来る。

 カトラス王家には、大船団の喪失と船団を沈めたネヴェル騎士団の活躍と、東への進軍をまことしやかに情報を流す。


 情報は、国中どころか国境を越えて存在するブルローネの姫達が、各国のお偉方に流すので、それによって人々は、権威ある人々の共通の認識として、お互いの国に対する抑止力を生み出す。




 後の仕上げは、エルムが時期を見て戻り、フィリシス相手に魔法使いとして一芝居打てば、頃合いを見てフィリシスが撤退する手はずだ。


 後日、ポポッチから名指しで、カトラス軍を破ったネヴェル騎士団を持つオルデンを停戦の大使に指定する。


 表向きは双方に多大な被害が出ている状況が周知の事実となっているので、ポポッチが終戦協定を開戦直後に提言する王族達の汚れ役をやり、今回の戦争は実質的な被害を出さないまま収束に向かわせる。




 これが、計画の全貌である。

 戦争推進派の王家に水面下で楯突く、戦争反対派による一世一代の大芝居であった。


 計画を知っていたのは、十二人。

 主なメンバーは、オルデン、アコニー、ルイシー、エルム、そしてポポッチ一味の五人。


 ルイシーは、国中に散っている元フォルサ傭兵団の傭兵達と今でも連絡を取っており、ポポッチに例の四人が適任と紹介をする役割を担った。


 ポポッチ一味に様々な装置を作り、提供していた人物。

 彩芽と同じ世界から来た、ポポッチの相談役にしてオルデンの憧れの人パトリシアもカトラス王国にいながら計画に大いに貢献した。


 そして、王都の会議に出ているネヴェルの魔法使い、魔法の傀儡人形を提供したサヘラと、ポポッチ一味に変身の指輪を提供したマーゴスも計画に協力していた。




 その入念な計画の中で、大きくイレギュラーな動きを見せたのが、彩芽。

 では無く、彩芽の影響で変わってしまったストラディゴスだった。




 多くの民が苦しむ戦争でも、王家以外に得をする人々がいる。


 それは、騎士や傭兵である。

 彼らは実質的に他人の争いの代理をする事で、富と名声を得る職業なのだ。

 それは、今でこそ平和なネヴェルでも変わる事は無い。


 ストラディゴスは、基本的に戦争は稼ぎ時と前向きな為、戦争を終わらせる計画の頭数には、当初から入れられていなかった。


 彼は、当初の計画では、エルムの指示に従い、他の兵士や騎士達と同様に真相も知らずに、計画に深く関わる事も無い筈であった。

 元カノ達が敵として現れても、ルイシーでさえストラディゴスがここまで苦しむ事は無いと思っていた。


 ところが、蓋を開けてみれば、大芝居の中に台本も無く乱入してしまい、右往左往しか出来ないまま誰の目に見ても酷い目に遭っていた。




 オルデンは、アスミィがストラディゴスの乱入による妨害のせいで、仕方が無く彩芽をさらったあの日、彼も計画に加えるべきか一応迷っていた。

 彩芽を心配する忠臣を、安心させてやりたいと思ったのだ。


 しかし、それを許さなかったのは、ストラディゴスの最大の理解者であるルイシーであった。

 ストラディゴスの変化を機敏に感じ取ったルイシーは、これを好機ととらえた。


 自身の過ちに、どんな形でも向き合う機会があるのなら、ストラディゴスが本当に愛する人に相応しい自分になるには、自分の罪と向き合い乗り越えるべきだと言い切ったのだ。

 ルイシーの提案によって、例の公開事情聴取が行われ、思惑通りストラディゴスは過去のあやまちと向き合う事になった。


 今回の事件は、ストラディゴスにとってしてみれば、過去の自分と向き合う為の試練であった。




「あの、なんでそんな大事な事、全部私に?」

 どう考えても部外者である彩芽に、話す意味が分からなかった。

 しかし、オルデン達には何か考えがある様であった。


「アヤメにも、協力してもらいたい事があってね」


 メイド姿のままのオルデンに、彩芽は新たな計画を聞かされる事になる。

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