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煙草と指輪とピアス

 ストラディゴスは、彩芽と共に市場に来ていた。

 海産物、肉、野菜に果物、日用雑貨まで、雑多に賑わい何でも揃うバザールの様な場所だ。


「アヤメ殿、はぐれないで下さい」


 オルデンの様に上手なリードは出来ない。

 それでも、出来る限りのエスコートを心がけ、例の物を売る商店へと到着する。


「何を買うの?」

 彩芽は、興味深そうに、いつもの様に聞いてくる。

 目の前に所狭しと置かれた籠一杯に盛られた乾燥した葉っぱの山は、薬草やハーブの類である。


「このハーブが、このままでは少しスースーしますが好みに合うかと」

「そうなの? あなたを信じるわ」


 ストラディゴスは一つのハーブを買い込み、次は煙草を売っている商店へと向かう。

 彩芽は黙ってついてくる。

 やはり、あの夜の事は覚えていないのかとストラディゴスは思う。




 目的の物を全てそろえると、ストラディゴスは彩芽を連れてベルゼルの酒場の前をわざと通った。


 思い出して欲しい一心での、どこまでも未練がましい行動だが、周囲があの時とは違い日で明るいせいか、彩芽は酒場を見向きもしない。


 少し歩くと、そこは彩芽があの夜、煙草を吸った何の変哲もない道。

 あの日、ランタンを拝借した家の玄関には、昼間だからランタンには火が宿っていない。


 ストラディゴスは、立ち止まると煙草の葉を混ぜて、巻き始める。

 それを彩芽は興味深そうに見ている。


 今回は火が必要になると思い、持ってきていたマッチで、煙草に火をつけると、辺りには独特の匂いが立ち込める。

 完全再現とまではいかないが、吸い込んだ煙の効果で、気管が広がって感じた。


「どうぞ」


「えっ!?」


 彩芽は、ストラディゴスが吸った煙草を差し出すと、どうしたら良いのか分からないと言った反応をする。

 覚えていないにしても、あれだけ煙草が好きそうだった彩芽にしては反応がおかしい。


 彩芽は恐る恐る煙草を吸うと、まるで初めて吸ったかのようにゲホゲホと煙にむせた。


「お口に合いませんか?」


 明らかにおかしい。

 そう思って見ると、ストラディゴスは急に違和感を持ち始めた。

 何か、いつもと違う。


「アヤメ殿、その指輪は?」


 彩芽の指には、銀色のシンプルな指輪がはめられていた。

 前に会った時には、そんなものは無かった。


「あ、これは、オルデン公に頂きました」


 彩芽の答えに納得するが、また別の事が気になり始める。


「ピアスは?」


 彩芽は、ストラディゴスの言葉に、確かに自分の耳を気にしたのが分かった。




「いつもしていたでしょう? お父上にプレゼントされたと言ってた」

 ストラディゴスは、自分の耳をさわりながら言う。


 すると、彩芽はこんな事を言った。


「ああ、それなら部屋に置いてきましたよ」

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