敵国の王子
ネヴェルから数十キロ離れた南の海上。
二十隻のカトラス王国船団。
その旗艦に彩芽は来ていた。
自分をさらってきた猫人族のアスミィ(もう服は着ている)に主君を紹介される。
「あやめちゃん。カトラス王国の救世主、ポボッチ・ズヴェズダー王子だにゃ」
ここまでさらわれて来た彩芽は、不信感一杯に「変な名前」と思った。
赤い絨毯が敷かれた大きな船室。
部屋の奥には、金ぴかの派手な椅子に座る、横柄な態度の男が一人腰をかけ、彩芽を見ている。
鍛え抜かれた上半身は裸で、下半身はアラブ系の国にありそうなダボダボのズボンで、金の糸で縫われているのが分かる。
腰に赤い布を巻いていて、足は裸足である。
その顔は鼻筋が通っていて、凛々しく、短い金髪をオールバックにしていて、髭は無い。
燃えるような赤い瞳が絵になる。
悔しいが、顔だけは中々に彩芽の好みであった。
「ごくろうだったな、アスミィ。で、こいつは何者なのだ?」
彩芽は、好みなのは顔だけと、手の平を返す。
そもそも、自分をさらった連中の親玉に対して、好みも何も無い。
「ネヴェル領主の女にゃ。猫好きのいい子にゃ」
「我輩は、領主を連れてこいと言ったよな?」
「言ったにゃ。失敗しちゃったにゃ」
「こいつは領主か?」
「だから、領主の女にゃ。ポポっちはちょっとバカなのにゃ」
彩芽は耳を疑う。
自分の仕えている王子に、バカって言った?
アスミィがポポッチが見ている前で、彩芽に残念な顔をしながら耳打ちをした。
「王子はちょっとバカにゃ。あまり可哀そうな目でみないであげて欲しいのにゃ」
彩芽がポポッチを見ると、頭が痛そうに眉間を指でつねっていた。
怒るのかと思ったが、いつもの事らしく六秒ほど我慢している。
「んんんんん……まあ、いい。そいつが領主の女と言う事は、交渉に使うつもりなのだな」
「そうにゃ」
彩芽は、小さく手をあげた。
「どうぞ」
ポポッチの横に控えていた兎耳の美女が彩芽に発言を許可した。
見るからに参謀と言う雰囲気で、長い髪の毛を団子にして後ろにまとめて、眼鏡をかけていて知的である。
服装は、アスミィと同じ揃いの服で、ボディラインが良くわかる軽装である。
腰には細身の剣、レイピアをさげていた。
その左右対称の位置には、やはり同じ格好をしたダークエルフの美女が何も言わずに立っていた。
「あの私、領主様の女でも何でも無いですよ」
ポポッチは、更に頭が痛そうに眼を強く閉じている。
六秒ほど。
「あやめちゃん、王子は頭痛持ちだから、気にする事ないにゃ。いつもの事にゃ。でも、ちょっと心配だにゃ」
アスミィが耳元で囁いてくる。
彩芽は、色々なベクトルで不安になった。




