乱入者
城壁の上で笑い、話す、彩芽とオルデン。
そんな二人を下から見つけてしまい、オルデンの見せる、自分達には見せた事の無い自然な笑顔に、やはりと思う事しか出来ない。
月明りの届かない城壁の影で見上げるだけのストラディゴスは、切なさを噛みしめる。
ストラディゴスの気持ちを表す様に、流れる雲が月の一部を隠し、あたりが雲の影に入る。
その時、城壁の上で、二人以外の影が動いた様に見えた。
どう見ても、当直の兵士では無い。
そう思った直後に、ストラディゴスは気付く。
城壁の上にいる筈の兵士の姿が見当たらない事に。
ストラディゴスは、すぐに走り出した。
オルデンとカードをした時のままの恰好で、一切の武装が無いが、そんな事は言っていられない。
不審者が二人を狙っているのなら、素手だとしても命を懸けて守らなければならない。
二人が逃げられればそれで構わないし、素手でも負ける気などない。
影がストラディゴスの動きに気付いたのか、城壁の上を二人に向かって一気に駆けだした。
「オルデン公! アヤメ殿! 逃げろ!」
叫ぶも、二人は迫る影に気付いていない。
音も無く二人に忍び寄った影は、近くにいた彩芽の背中に飛びつくと、そのまま彼女を羽交い絞めにした。
奇襲に呆気にとられるオルデンは、すぐ我に返り、彩芽を助けようと腰の短剣を抜く。
しかし、襲撃者の持つ鋭い爪が彩芽の首に当てられ、オルデンは動きを止められてしまう。
「動くにゃ! 領主、武器を捨てて大人しくこちらに来ていただきましょうかにゃ」
闇に溶け込む漆黒のフードとマントを深くかぶった襲撃者は、女だった。
顔は良く見えない。
「何者だ!」
オルデンの言葉に、襲撃者は不敵に笑う。
「アサシンがイチイチ名乗る訳ないにゃ。でも目的は教えてあげるのにゃ。それはあんたの誘拐だにゃ! 恐れ入ったかにゃ!」
彩芽は、自分を羽交い絞めにする女が語尾に「にゃ」をいちいちつけるので、会話が締まらないと微妙な気持ちになる。
これは、彩芽の中にある翻訳してくれている何かの言語変換の特性のせいであり、実際の異世界語では地方訛り程度の言葉の違いしかない。
危険な筈なのだが、危機感が上がりきらない。
と言うよりは「にゃ」が無くても、襲撃者の言葉は頭が悪そうであった。
「僕を誘拐だと!?」
オルデンが言うと、彩芽の首筋から一滴の血がこぼれ落ちる。
「この子がどうなっても良いのかにゃ? ディー、お前も動くにゃよ! お前も連れて行くにゃ!」
ストラディゴスは、階段の途中で動きを止められる。
何があっても彩芽を助けなければと手だてを探すが、締まりのない襲撃者には、意外にも隙が無い。
だが、どうして自分のあだ名を襲撃者は知っているのだとストラディゴスは違和感に気付く。
と言うよりも、声と喋り方に聞き覚えがあった。
「その人はネヴェルとは関係のない客人だ! 放してくれ!」
「お前らが動けないなら、そんなの関係ないにゃ。でも、遊んでくれたから傷つけたくないのにゃ。だから……にゃにゃっ!?」
瞬間、襲撃者に放たれた鋭い一閃。




