猫
カードを終えると、少しの談笑を挟み、今夜はもう遅いと解散する事になった。
オルデンの部屋を後にした彩芽は、用意された寝室には向かわず、その足で城壁の上へ向かい、夜風に当たっていた。
物でも待遇でも満たされている筈なのに、もやもやとした物を感じる。
せっかくこの世界が、ようやく居心地の良い世界に思えてきたのに、今はただ変な息苦しさを感じた。
周りに自分を慕ったり、重宝してくれる人がいるのに、感じる孤独感。
月明りに照らされ、薄く紫がかる蒼いドレス姿のまま、服に臭いがついてもかまう物かと置いてあったランプの灯で器用に煙草に火をつける。
煙草の箱が空になり、くしゃりと潰し、握りしめた。
煙を燻らせても、気持ちが少し落ち着くだけで、まるで満たされない。
夕食で飲んだアルコールなんてとっくの昔に抜けきっているし、どうすれば良いのか分からなくなる。
すると、足元に一匹の黒い猫が遊びにやってきた。
クロが異世界に一緒に飛ばされたのかと期待するが、顔が全然違うし性別も女の子の様だった。
この世界にも猫がいる事に安心する。
「……にゃあ」
黒猫に向かって話しかけると、黒猫は足にすり寄ってくる。
人に慣れているのだろう。
そう言えば、猫缶はどこに行ったのだろう。
あれば、この子に食べさせてあげたかったのに。
タバコがまだ残っているが石畳で火を消し、携帯灰皿に突っ込む。
こうなれば、この猫と本気で遊んでやろうと思う。
お腹を撫で、肉球を揉む。
さすがは猫。
異世界でも、しっかり心の癒しになる。
猫は仰向けになり、手で爪もたてずに彩芽と遊んでくれる。
とにかく今は気晴らしになればいいと思ったが、猫が慰めてくれている様な気がして、少しだけ元気が出た。
「にゃあにゃあ」
にゃ~
「にゃにゃあ?」
にゃんっ
そんな事をしていると、城壁の階段を上ってくる一つの気配を感じた。
「ストラディゴスさん?」
自然に、名前が出ていた。




