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パトリシア

 彩芽は、衣裳部屋でオルデンと二人きりとなる。




「アヤメ、そのドレスだが、すごくよく似合っている」

「ありがとうございます」


 オルデンは、この時を待っていたとばかりに、話を始めた。


「いきなりで申し訳ないが、アヤメはパトリシアと言う人は知っているかな?」

「パトリシアさんですか? いいえ」


 彩芽は、日本人の耳と口に優しい外国人名だなと思った。

 日本に住んでいた時にも、知り合いにはいない名前である。


「パトリシアは、この世界では、それなりに有名人でね。今から六年前に異世界から来たと言う女性だよ」

「異世界から……私と同じと言う事ですね」


「そう、パトリシアは、友人と旅の途中に、この世界に迷い込んで来たらしい。僕も実際に会った事は無い。彼女達は最初この世界に来た時、言葉が喋れなかったそうだ。口をきけないんじゃなくて、元いた世界の言葉しか喋れなかったんだ。最初は相当不自由したらしいが、アヤメはどこで言葉を?」


「それは、なんか自然に……」

 そうとしか言えないし、言い様が無い。


「……母国語がこの世界の言葉と似ていたとか?」

 オルデンは、異世界の事を楽しそうに推理し、想像する。


「いえ、今もこうして話していると、聞こえる言葉がこの世界の言葉だなってわかるんです。でも、頭の中で、日本語って言う私の国の言葉に変換されて、喋る時は、日本語でしゃべっているつもりなのに、口が勝手にこの世界の言葉に変換してくれて」


「……興味深い。本当にに興味深いよ。つまり、アヤメは、本来はこの世界の言葉がパトリシア達と同じ様に分からないんだね? どうして分かるようになったのだろう……」


「この世界の魔法で出来ないんですか?」

「出来る魔法使いはいるかもしれないけど、僕は知らないな。それよりも、アヤメ、話を聞けば聞く程、君と言う存在は、特別で興味深い」


 そう言うオルデンは、彩芽をまるで憧れの存在を見るかのような目で見ていた。

 彩芽は、オルデンに言われて、改めで何故言葉が喋れるのだろうかと考えるが、当然理由は思い浮かばない。


 彩芽が答えの出ない事を考えていると、オルデンは窓の外を、残念そうに見た。


「そろそろ月が重なりそうだ。二人は、もう待っているかもしれない……行こうか」

 オルデンが手を差し出すと、彩芽はその手をそっと握りしめた。

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