セーフ
いざとなれば、全員でしらを切り通すか、とメイド達はアイコンタクトをする。
だが、オルデンにお伺いを立ててしまっているので、それは出来ない事を、報告をしたメイドがアイコンタクトと静かに首を横に振る事で皆に伝える。
この中で誰かを生贄に出すしか無いかと、お互いを見始める。
生き残るためには、もうこうするしかない。
ほとんどの者が、フォルサ傭兵団時代からの仲である。
目を見て考えが伝わってしまう。
普段は仲が良いが、お人好しなだけでは生き残れないと全員が心得ている。
そんな負の以心伝心によって、勝手に疑心暗鬼に落ち込んでいくメイド達。
(誰を切り捨てる……)
(誰が切り捨てられる!?)
(……私を切り捨てる気!?)
かつては戦場で修羅場を経験してきた為か、メイド達は場にそぐわない雰囲気を醸し出す。
「本当に申し訳ない事をしてしまった。この埋め合わせをさせて欲しい」
オルデンの言葉を聞き、メイド達は彩芽の返事に全神経を集中させる。
悪くても全員が城を追い出されるぐらいであって欲しいと、今度は彩芽相手に念を送る。
ところが、当の彩芽は、そんなメイド達の変な空気の意味に気付いている筈も無く、マイペースであった。
「代わりの服を頂けるなら、私はそれで」
と、あっさり。
彩芽の言葉を聞いて、メイド達は胸を撫でおろす。
(セーフ!)
と七人全員が思い、シンクロして汗をぬぐう。
さっきまで蹴落としあいを目だけで演じていた彼女らは、いつもこんな感じだ。
だが、とりあえずメイドをしている間に欠員が出たためしはなく、こうしていつもの仕事に戻るのがお約束である。
「それなら、すぐに用意させよう。今すぐ仕立屋を手配してくれ。申し訳ないが服が出来るまでは城にある服で我慢してほしい」
メイドの一人が、オルデンにお辞儀をして部屋を出て行った。
「あ、はい。そんな急がなくても大丈夫ですよ、ストラディゴスさんが用意してくれた服が乾けば、それを着られるんで、それまでは何でも」
「そう言ってもらえると助かるよ。月が重なるまでは、まだ少し時間があるし、他の服も見てみてくれ」
また一人のメイドが、彩芽とオルデンにお辞儀をして、洗濯籠をもって部屋を出て行った。
* * *
結局、楽に着れると言う理由で、彩芽はドレスの一着を選ぶ事になった。
オルデンと揃いの、深い蒼色。
装飾は少なく動きやすいドレスである。
カードが終わり次第、身体のサイズを計って、オルデン公が贔屓にしている一流の仕立職人に服を作らせる事に決まると、着替えの手伝いが必要無くなりメイド達は全員部屋を出された。
「アヤメ、そのドレスだが、すごくよく似合っている」
「ありがとうございます」
オルデンは、この時を待っていたとばかりに、話を始めた。




