父みたい
ルイシーと呼ばれたメイドが部屋を出ていく。
オルデンとは間仕切り一枚隔てられた場所で、彩芽は紐パン一枚で仁王立ち。
少しの間、服を待つ事に。
部屋に残ったメイド達の視線が、自分の胸に向かっているのに気付く。
女同士でも、気になる物は気になる。
ほんの少しだけ気恥ずかしくなり、彩芽は体勢を変えるフリをして両手を組むようにして胸を隠した。
間仕切りの裏側でそんな事が行われているとは知らないオルデン公は、メイドがいるので異世界の話は避けつつ、気を使ってか、気になってか、彩芽に話しかける。
「アヤメ、君はフォルサの事はどう思っているんだい?」
「え?」
「フォルサにえらく気に入られているのは見ていて分かるよ。君の方はどうなんだい?」
「……好きですよ」
「本当に?」
「優しいし、親切だし、何より、一緒にいて楽しいです」
彩芽の返答に、大食堂の巨人の叫びを聞いていたメイド達が思わずお互いの顔を見合わせる。
その誰もが一刻も早く城内に情報を広めたいのだが、オルデンのいる手前、というよりも仕事のせいで動く事が出来ない。
メイドの中には、かつてストラディゴスの傭兵団にいた者達はルイシー以外にも大勢おり、彼女達の大半は恩人としてまだストラディゴスを慕っていた。
「会った日の夜に、一緒にお酒を飲んだんです」
「フォルサらしいね」
オルデンの声が笑っている。
「その時、すごい楽しくて、それで、たぶん友達に」
メイド達の顔色が曇る。
「アヤメは、彼の事をどう思っているんだい? 異性として」
メイド達はオルデンの質問に、間仕切り越しに「ナイス」と思う。
「いえ、異性としては……それに、それはむこうも同じだと思います」
彩芽の答えに、彩芽以外の全員が「え、そうなの?」と言う気持ちになる。
「どうしてだい?」
「え、言っちゃって良いのかなぁ」
「僕は、口外はしないから」
メイド達は「私達はします」と全員思う。
「ストラディゴスさん、私と会った時は、その、私の事を姫と間違えたんです。ブルローネの」
「ははっ! それは本当に彼らしい! あ、いや、家臣が嫌な思いをさせたね、彼に代わってお詫びする」
聞いているメイド達は、内心「あちゃ~」と思う。
ストラディゴスらしいが、なんて失礼な事を、と。
「それはもういいんです。その後なんです。ストラディゴスさん、私をエルムさんに紹介してくれるって約束した後に、その場で姫を買って、私を待たせて、その後もずっ~~~と、町を歩いている女の子とか、酒場にいた美人のお姉さんとか、目でチラチラ追ってるんです」
メイド達は通常営業のストラディコスの話を聞き、フォローの言葉が見つからない。
「それは、別に彼をかばうつもりじゃないが、男なら誰でも多少はあるんじゃないかな。彼のは度が過ぎるのは認めるが」
オルデンが申し訳程度にフォローする。
「でも、ストラディゴスさん、最初に会った時こそイヤらしい目で見て来たんですけど、一緒にお酒を飲んだ後ぐらいから、だんだんと私の事を見る目が……」
「見る目が?」
「私の、もう亡くなった父みたいで」
* * *
扉をノックする音が聞こえ、オルデンの返事でルイシーが部屋に戻ってきた。
「お洋服をお持ちしました」
「ありがと」
彩芽が礼を言うと、ルイシーは黙って頭を下げ、メイド達の群れの中に戻る。
さあ、これで元の格好だと思い、服を見る。
骨柄Tシャツと黒いブラジャーと白いパンツはある。
だが、ダメージジーンズが見当たらない。
リアルダメージジーンズが、無いのだ。




