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試着

「大変よくお似合いです」

 メイド達に褒められ、彩芽は鏡の前でクルリとまわった。


 まるで、おとぎ話のお姫様の様である。

 ドレスが。




 目隠しの間仕切りの向こう側から、声が聞こえる。


「どれか、気に入った物はありますか?」

「あの、どれもすごい素敵で、私には勿体ないです」

「そんな事はありませんよ。どれでも好きな物を選んでください」


 彩芽はオルデンに城の衣装部屋に連れてこられていた。

 きらびやかなドレスから、貴族の礼服、乗馬服や狩猟着と、様々な服がある。

 だが、建物が石造りの砦の様な城である為、ブルローネの様な豪華絢爛さは感じない。


 八人のメイド達にとっかえひっかえ着替えさせられ、ファッションショーをするが、どれも窮屈(主に胸)で、シックリくるものが無い。

 胸を無理やりドレスにおさめると、おさまりきらない部分が過剰な谷間を作ってお尻の様に盛り上がって胸元が強調され過ぎてしまい、自宅では裸族の彩芽には締め付けが厳し過ぎる。

 長時間着ていると、呼吸困難になりかねない。


 と言って、胸に余裕がある服を選ぶと、今度は彩芽の腰が細すぎて、コルセットで服を締めても、見た目に恰好が締まらない。


 ようやくピッタリだと見つける服は、最初から胸が強調され、腰を限界まで細く絞る事を前提に作られた舞踏会用の勝負ドレスしかなく、これを着てすごすのには気が引けた。




 ポケットの中の物を出し、洗濯籠に脱ぎ捨てられたワインまみれのワンピース。

 それを見て、彩芽はストラディゴスの服のセレクトがいかに的確だったのかに気付かされる。


 本人曰く裸体を見ていないと言うので、服の上からの視認のみで、かなり正確な中身を推測している。

 胸だけは、サイズが用意できなかったのだろう。

 ブーツまで丁度良いのを選ぶとは、さすが女好き。


 気持ち悪いとは思わず、便利なスキルだと、思い出し、少し笑う。

 そこで、自分が着られる服を思い出した。




「あの、私が着てきた服は? 洗濯してくれてるって聞いたんですけど」


 彩芽の質問に、一人のメイドが答えた。

「アヤメ様の服でしたら、今夜お泊りになる部屋の方に既に運ばせております」


 彩芽は、食堂で目が合ったメイドだと思い出し、二度目の意識をしたので顔を覚えた。


 年齢は、行って二十代後半ぐらい。

 髪はブルネットのボブで、いかにもメイドと言った印象を受ける。

 服装は、もちろんメイド服なのだが、実用性と様式美を重んじている様で落ち着いたデザインにまとまっている。

 海外ドラマで出て来るイギリスの屋敷のメイド服みたいだ。


 恐らく、メイドとしての心得なのだろう、主人の道具に徹している風で、性格は読み取れないが、悪い人では無い様である。


「ルイシー、アヤメの服を持ってきてくれ」

「かしこまりました」

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