転落
そんな、歪でも幸せだったある日、事件が起きた。
美しく成長したルイシーを、あの時の団長をはじめとした傭兵達が、再び襲おうとしたのだ。
この事件で、ストラディゴスは関わった傭兵を全員切り殺し、こうして若くしてストラディゴスが傭兵団を率いる立場に落ち着く事となる。
トップの交代は歓迎され、そこまで大きな混乱は起こらなかった。
すると、戦場で得た全ての戦利品の処遇は、ストラディゴスの匙加減で全て決められるようになっていく。
この頃から、傭兵団の規模は一気に膨れ上がっていく事になる。
巨人は、戦争で負ける事によって戦利品となった相手を、自分が引き取れば幸せに出来ると、ルイシーを見ていていつしか思い始めていた。
そして、ルイシーも、家族の敵を討ち、自分を愛するストラディゴスの考えを全て受け入れ、それを支えようとした。
凄惨な経験を乗り越えたルイシーによる、孤児などの行き場を失った者達への影響力は凄まじかった。
ストラディゴスが、戦場で焼け出された孤児を見つけるたびに、男なら新たな傭兵に育て、女なら年齢も種族も関係無く、ルイシーと似た価値観を持つ存在に育てられていった。
これは、ストラディゴスがルイシーを通して自分を癒そうとした行為と似ていて、ルイシーはストラディゴスの正しさと、ストラディゴスによって幸せになった自身の正当性を証明する為に、それを続ける。
すると、ルイシーの考え方に染まった者達は、自然とストラディゴスを求める様になっていく。
つまり、傭兵団の中に、いつしかルイシーの手によって、ストラディゴスの為のハーレムが勝手に出来て行ったのだ。
この頃になると、ストラディゴスは女好きで有名になり、実際そうなっていた。
ルイシーに自分を投影し、ルイシーを救おうとしていたのが、いつしか大勢のルイシーを相手にするのが常態化してしまったのだ。
そうなると、目的と手段が反転するポイントがやってくる。
自分を癒す為にルイシーを救い、結果的に抱いていたのが、自分でも気づかないうちに女を抱く事が目的にすり替わっていくのだ。
それでも、ルイシーはストラディゴスを愛する者達を乱造し続ける。
当然、簡単に抱ける相手が無数にいれば、あらゆる種族の女を味見したり、時には同時に味を比べ、気に入った一人に入れ込んだり、何股もかけてみたり(それが原因で殺されかけたり)と、目的を忘れて快楽に走る事になった。
するとやがて、女達の中にもルイシーの様にストラディゴスの全てを受け入れられる者ばかりでは無くなってくる。
不誠実なストラディゴスを見て、多くの女は別の傭兵に乗り換えたり、彼のもとを離れていってしまったのだ。
時が経ち、騎士団に入り、すぐに副長になると、長く続いていた戦争が終わった。
そうなれば傭兵時代の様には、思い通りに稼げなくなる。
そうなるとルイシーが作ったハーレムは、自然に規模を小さくし、最後にはルイシーだけが残る事になる。
他の女達はそれぞれの人生を歩きだし、ストラディゴスはと言うと、目的と手段が入れ替わったまま、ぽっかり空いた穴を埋める為に娼館通いをするしかなくなる。
エルムの、ちゃんとした恋愛をしたことが無いと言う読みは、しっかり当たっていたのだ。
ちなみにルイシーは、今でもストラディゴスの理解者として、城でメイドとして働いている。
今の関係は、恋人であって恋人で無く、愛人であって愛人で無く、妻であって妻で無い。
関係上は家族では無いが、娘と妹と姉と妻と母を足して割り損ねた様な、家族の様に大切な存在としてお互い感じている。
ちなみに、ストラディゴスが彩芽の身体を綺麗にする様に頼んだ相手は、ルイシーであり、あの時も早朝に呼び出されたにもかかわらず快諾し、完璧な仕事をしていた。
* * *
「じゃあ、ゲームに勝ったら『嫁になってくれ』とでも命令するか……まあ、最後には俺が勝つのは分かってるからな。お前が俺に一億フォルトぐらい積んだら、アヤメに代わりに命令してやらんでもないが」
「俺、そこまでクズに見られてる?」
「昨日までのお前なら、平気で命令しただろうな。百万までなら借金して即決してたぐらいには思っていたが」
「くそっ、マジかよ!?」
「真面目な事言って悪いんだが、アヤメの事を落としたいならな」
「落としたいなら、どうすりゃいいんだよ」
「まずは、俺にゲームで勝つことだ」




