苦い経験
「わりぃ、待たせたな。次はお前の番だ」
傭兵仲間の言葉を聞くと、恐る恐る暗い部屋へと足を踏み入れた。
ストラディゴスは、自分達のせいで孤児となり、死んだ家族の隣で、血の海の中汚されたルイシーを見下ろし、既に死んだように光が無いその目を見た。
そこにいたのは、孤児になったばかりの昔の自分であった。
ストラディゴスは、自分が抱いても、抱かなくとも、この後に確実に殺されるであろう、この時は名前も知らない少女を前にして迷った。
戦場の、ルールは分かっている。
「どうせ殺せば結果は同じ」
それならば、より多くを奪ってからでなければ、旨味が減る。
だからこそ、多くの無法者たちは、物を奪い、尊厳を奪い、苦痛を与え、命を最後に奪う。
それが戦場の常識である。
その時、ルイシーはストラディゴスを見て蚊の鳴くような声を出し、口を動かした。
「……た……す‥‥…けて」
それは、ストラディゴスに助けて欲しくて言った言葉ではない。
ストラディゴスを含む傭兵達へ向けた、殺さないで欲しいという懇願の言葉である。
しかしストラディゴスには、ルイシーを他の傭兵達の目の前で「凌辱をするか、しないか」その二択しか用意されていなかった。
これは傭兵達が仲間を共犯者とする為の、一種の通過儀礼でもあるのだ。
ここで共に罪を犯さなければ、戦場で背中を預ける仲間として認められない。
腰抜けと思われるなら良い方で、悪ければ信用できないと見られる事となる。
ストラディゴスは、ルイシーに歩み寄る。
そして、ゆっくりと、まるで時間を稼ぐようにベルトを外すと、ズボンだけ膝まで下ろし、まるで反応の無いルイシーにゆっくりと覆いかぶさった。
ストラディゴスが苦痛と罪悪感の中で、初めて女を経験し、果てる。
すると他の傭兵達は「気が済むまで楽しんで良いぞ」と、共犯者になった新人に対して安心し、仲間想いであるかのような、下種な言葉を優しくかけた。
その言葉に、ストラディゴスは答えた。
「なら、こいつを俺にくれ」
傭兵達はそれを聞き、目を丸くした。
だが、すぐに成程と合点がいったのか、ニヤニヤ笑いながら快諾した。
「なんだお前、初めてだったのか。だがな、後始末は自分でしろよ」
傭兵団長が言った後始末と言う言葉。
後始末とは、ルイシーを犯した後に殺すか、飼殺して衰弱させて死なせてしまったら、自分で埋める事であった。
ストラディゴスは、名前も知らない死にかけの少女を、傭兵団のテントへと連れ帰った。




