カード勝負
一回戦。
彩芽の手札は、『245』で順番決定の際は『5』を出した。
エルムは『1』、ストラディゴスは『2』だった。
そうなると、山札には『2』のカードが多くても二枚しかない事になり、確率で考えるとストラディゴスも『2』を捨てる可能性がある。
しかし、『2』は手持ち最小のカードで、残したいと言う心理も働く。
エルムは『1』以外が揃っていない限り『1』は交換に出さない筈だ。
彩芽はエルムの二枚チェンジの後に、やはりと思いながら捨てられたカードを見てから二枚チェンジ。
ストラディゴスは悩みながら一枚チェンジした。
彩芽の手札は『123』。
三人がテーブルにカードオープンすると、エルムが『145』、ストラディゴスは『2』が二枚の『24』となっていた。
「よし!」
と、ストラディゴスがエルムに勝ち誇るが、エルムは勝負は始まったばかりと楽しそうである。
一回戦の成績を、エルムが持ってきていた小さな黒板(エルムがマントの下から出した)にチョークで書き、一位になったストラディゴスが今度はカードを配り始めた。
二回戦。
彩芽の手札は『345』。
最弱の役である。
不安を悟られまいとポーカーフェイスを作り、順番決定のカードオープン。
彩芽『5』エルム『5』ストラディゴス『5』。
エルムの『5』が白で、一番となる。
『5』が揃う確率が低いのは明らかだ。
エルムが二枚チェンジ。
彩芽が『3』残しの二枚チェンジをすると、役が『135』となった。
エルムが墓場に捨てたカードもちゃんと見て推測したのに、なぜ『5』が来てしまったのかと、読み違いにポーカーフェイスがゆがむ。
運のゲームだから仕方が無いが、こういう経験の蓄積が賭けに弱いと思い込む原因である。
エルムとストラディゴスは、何ともいえない百面相をしている彩芽の顔色を、お手本の様なポーカーフェイスで見ていた。
ストラディゴスが二枚チェンジすると、全員がカードオープン。
エルムは『1』が二枚の『12』、ストラディゴスは『4』が二枚の『34』。
今度はエルムが一位となる。
三回戦。
エルムが配り、彩芽の手札は『455』。
順番決定では彩芽が『5』、エルムは『4』、ストラディゴスは『1』を見せる。
ストラディゴスが二枚、エルムが二枚チェンジ。
彩芽は墓に『5』が無いのを見て『5』が来ることを祈り、『4』を捨てる。
全員オープン、エルムはまたしても『1』が二枚の『12』、ストラディゴスは『2』が二枚の『12』だった。
同じ役の場合、三枚並べて小さい方が勝つ。
エルムがストラディゴスに勝ち誇ると、彩芽が笑いをこらえられない様子でカードを一枚ずつテーブルに重ねていく。
「ふっふっふっふ~」
『5』が三枚の『5』で彩芽が三回戦を制する。
だが、勝ち誇った笑いを遮るように、彩芽の腹から「ぐるる」と腹の虫が鳴き始め、彩芽は固まり、顔が赤くなっていった。
虫の音を聞いたエルムは、仕方が無いと、何とも言えない薄ら笑いを浮かべながら提案してくれる。
「ふはは、そうだったな、一千フォルトを賭けたゲームだった。緊張して腹も減るさ。それに、すぐに終わらせては勿体無いしな。食後に続きをやろうじゃあないか。どうだ?」
「……はい」と、小さな声で返答する彩芽。
ストラディゴスはエルムの気遣いに内心感謝するが、表には出さず首を縦に振って同意するにとどめる。
いつの間にか大食堂の厨房から良い匂いが漂い始め、使用人達がひっきりなしにテーブルのセットを始め出していた。
準備の規模を見るに、どうやらかなり大勢で一斉に食べる形式の様である。
全ての長テーブルに全く同じように皿と料理がセットされていき、まだ温かい料理は運ばれてきていないが、固いパンが取り皿と兼用で椅子の前に置かれている。
慌ただしくなると、ボチボチ食事をする使用人や兵士が大食堂に集まり始めた。
彩芽は、どの様は区分けで、この城の人達が夕食を共にしているのかが気になった。
職業毎か、階級毎か、働く時間毎なのか、それとも、この時間に外せない仕事がある者以外、全員が一堂に会しての食事となるのか。
強制なのか自由参加なのか、とにかく目につく全てが新鮮で、興味をそそられ、社会を動かすルールが知りたい。
彩芽が何の変哲もない城の日常風景を、面白そうに眺めていると、エルムはカードをまとめて服の下にしまい込み、ゲーム中に醸し出していた空気をカラッと切り替えた。
「夕食の準備までは、まだ少し時間がかかる。それまで二人の馴れ初めでも聞かせてくれよ。会ったのは昨日なんだろ? 是非、詳しく聞きたいものだ」




