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魔法使い

 ストラディゴスの持ってきた薬のおかげで、だいぶ体調がマシになった彩芽は、城の大食堂に来ていた。

 日は傾き始めているが、外はまだ明るい。


「あの、ストラディゴスさん。なんだか視線を感じるんですけど」

「……気になるなら、部屋で食べるか?」

 大食堂の出入口で横に並び立ち止まる二人。

 ストラディゴスは彩芽の顔の前に手を広げ、大食堂に並ぶ長テーブルをまばらに埋める兵士の視線を遮る。


「あ、いえ、なんでみんなこっちの方を見てるんだろって」

「俺の客人が珍しいからかもな」

「それなら、良いんですけど」




 これまでの人生で注目に晒される事など無かった彩芽は、好奇の視線に慣れていない。

 だが、あの後も結局ストラディゴスに二日酔いの看病までさせてしまい、これ以上の迷惑はかけられないと我慢する事にする。


 ストラディゴスの視線に対する予想は、半分当たりだが半分は外れであった。

 確かに彼への客人は珍しかったが、それ以上に周囲の興味をそそっている事は、客人が来た事で急にめかしこんでいる巨人の方である。


 城内随一の女好きが、必死に自分を繕ってまで、守り、もてなそうとする女がいる。

 巨人を知っていればいる程に、いったい女が何者なのだと皆が気になっても仕方がない。


 兵士達の彩芽への感想は「なるほど、美人と言えば美人だが、副長が頻繁に通うブルローネの姫の中には、もっと正統派の美人が幾らでもいたのに、なにが違うんだ?」である。

 あのストラディゴスを手懐けたと噂の女は、一体何者なのか?

 そんな疑問が、視線の元には必ずと言っていい程あるのだ。


 ちなみに、城の兵士達の間で広まる彩芽の正体は、「猛獣使いか調教師」で無ければ「魅了の魔法使い」と冗談半分ながらも、半分本気で思われていた。




「それよりも、今日はまだ何も食べれてないだろ? 何か食べたい物はあるか?」


 ストラディゴスが自分専用らしき大きな椅子を軽々と運ぶ。

 誘導されるままに誰もいない長テーブルの席につく彩芽。

 大食堂には、巨人サイズのテーブルは無いが、巨人サイズの椅子が他に三つあり、彩芽は他にも巨人がいるのだとぼんやり思う。


「メニューとかってありますか?」


 彩芽の座る椅子を引き、座らせるストラディゴス。

 巨人は、その向かい側に小さな椅子を横にどけて自分の椅子を置いてテーブルを占有する。


「メニュー? いや、無いが、簡単な物なら厨房に頼めば作ってくれる。それに、もう少しで夕食の時間だからな、ある物で良いならすぐに出せる筈だ」




 そこに一人の男が悪い笑みを隠してやってくる。

 大食堂の一角に巨体を見つけると、男は大声で話しかけながら近づいてきた。


「よう、部屋に行ったらいないからだいぶ探したぞ。君がこいつのお客人だな」

「エルム、お前わざわざ何しに来た」

「ふん、わざわざこっちから会いに来てやったんだ。何でも俺に聞きたい事があるそうじゃないか」


 尊大だが馴れ馴れしい態度をとるローブにマントを羽織った細身の男。

 無精髭を撫でながら、鋭い目つきで彩芽を舐める様に観察する。

 そんな視線を送るエルムに対する彩芽の最初に受けた印象は、口の悪そうな不良中年である。


「あの、あなたが魔法使いさんですか?」

 そこには、魔法学校の校長を期待していたのに、裏切られた感があった。


「そのとおり。君の目の前にいるのが、ネヴェルに三人いる魔法使いの一人。はじめまして、話はこいつから聞いている。キジョウ・アヤメ。俺だけ君を知っていては不公平だ、名乗らせてくれ。俺の名はエルム・コルカル。そこにいる身体の大きな友の数少ない友人だ。さて、二日酔いの方は、もう大丈夫かね?」


「はい。だいぶ良くなりました」


 エルムはストラディゴスを手招きし移動すると、彩芽に聞こえないように食堂の隅でコソコソと話し出す。


「なんだ、お前、ああいうのが好みだったのか?」

「何が言いたい」

「お前を骨抜きにするんだから、どんな女かと期待してきたんだろうが。俺はてっきり、どこぞのハーレムにいた妖艶な美女を想像していたんだが」

「何言ってるんだお前」

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