一言で
「ストラディゴスさんはさぁ、私を一言で表すと何だと思う?」
この質問に、何と言っていいかストラディゴスは分からない。
ストラディゴスは彩芽の事を、まだ殆ど知らないのだ。
漠然と持っているイメージを伝えるべきか、本気で悩む。
悩んでいる姿を見て彩芽は言葉を続ける。
「迷子? それとも外国人とか? あ、おっぱい大きいって思った?」
「……迷子の異邦人なのは確かだが、そんな……お前を一言でなんて言い表せない、何なんだ?」
ストラディゴスが答えが分からないと降参すると、彩芽は嬉しそうな笑みを浮かべ、ストラディゴスの顔を見上げた。
「うん。だから……久しぶりに、楽しかったんだよ」
ストラディゴスは、自身の鼓動が早くなるのを感じた。
身体が熱い。
身体の奥にある、何かに火が付いた様に。
彼は、今まで人生で大勢の女を抱いてきたし、好きになった女も付き合った女だってそれなりの数がいる。
しかし、未だかつて、この様な感情が沸き起こった事は、一度として無かった。
今まで自分が愛だの恋だの感じていた感情が、まるで子供のままごとの様に陳腐なものに感じ始め、信じていた価値観が大きく揺らいでいく。
今まで自分が好きだった物は、どれもが一言で表せる肩書だったのではないかとさえ思えてきた。
「そ、そうか……ならよかった……」
どう答えたらいいか、言葉が見つからない。
必死に平静を装い、なんとか返事をする。
我慢しなければ、涙が溢れてしまいそうだった。
言葉にならない衝動と感情が合こみ上げてきていた。
そんな事とは気付いていない彩芽は、月明りの中、無垢な笑顔で言葉を紡ぎ続ける。
「私も、ストラディゴスさんの事はねぇ、一言じゃ言い表せないよぉ」
「…………」
ストラディゴスは、空を見上げる。
その潤んだ瞳には、大粒の涙が溜まっていた。
感情の制御が出来ない。
「でもね~、私が、あ・え・て・言い表すならね」
「なんだ?」
ストラディゴスの声は、泣くのを堪え震えていた。
「嫌いじゃない。かな」
手の中でフフフと笑う一人の酔っぱらいの言葉を聞いて、巨人は人知れず時が止まる事を願った。




