足止め
アフティラは、船の休憩場しか目ぼしい物が無い港町である。
大陸からも見える小島にあり、大陸までは遠浅で繋がっている為、小島と言うよりは岬に近い。
大きな船が島よりも大陸側を通らない様にと、大きな灯台が島にはあった。
三人は、この町には補給以外に用事は無い。
だが、船旅慣れしていないので、三人とも陸地が恋しく、上陸すると揺れない足元を嬉しそうに踏みしめる。
「着いた~ストラディゴス、ここの美味しい物は?」
「知らん。初めて来たぞ。っても、海以外何かある様にも見えないし、とりあえずどうするよ?」
パッと見、市場か酒場、他には漁師の船と灯台ぐらいしか本当に見当たらない。
市場も海産物しか売っていないし、船の上では調理もままならないので、ここで生魚は買わない方が良いだろう。
「とりあえず……お腹に何か入れよ」
「あんまり食い過ぎるなよ。また、すぐ船に乗るんだ」
「生魚じゃなきゃ平気だって」
彩芽は、もう大丈夫と笑う。
「アヤメさんは、なんであんな無茶な事をしたんですか?」
「無茶って、魚の生食は、私の国では普通だったから」
「生魚をねぇ……でも腹壊したって事は、国で食べてたのは食べられる種類の魚だったんじゃないか?」
「それはあるかもね。毒のある魚も結構いるし。フグとか」
「フグ? とにかく本当、気を付けてくれよ。フィデーリスには、すぐには戻れないんだ。生水は絶対ダメだし、生物も、無暗に知らない物は口にするなよ」
「そうですよ。私も何度死にかけた事か」
「わかりました……」
彩芽は、二人の言葉を重く受け取る事しか出来ない。
戦災孤児を経験したストラディゴスと、奴隷生活を経験したルカラ。
二人の実際食うに困る生活を経験した者が言うのだから、それを大げさだとは言えない。
* * *
三人は、島に唯一ある寂れた酒場に足を踏み入れた。
他に選択肢が無い事で経営が成り立っている様な酒場で、食べ物には期待出来そうも無い。
メニューは日替わり料理しか無く、ストラディゴスが頼むと三人ともバラバラの焼き魚が出て来た。
食べる魚肉量は魚の匹数で調節されているが、明らかに魚の種類が違う。
「どうしますか……」
ルカラが二人に聞いた。
それぞれで食べるか、当分してシェアするか、どうしたものかを窺った様である。
「えっ? 食べたいのある?」
「いえ、そう言う訳では無いですけど、お二人で食べたいのがあれば、お譲りしようかと」
「ありがと。でも、まっ、そんな気にしないでさ、適当に、好きに食べよ。ルカラも欲しいのがあったら言ってね」
彩芽の言葉に、既に魚を食べ始めているストラディゴスは、うんうんと頷いている。
「わかりました」とルカラも魚を食べ始める。
三人で食事をとり始めてから、その時で十数回目と言った所であった。
それだけ共に食べても、食事では分からない事が出て来る。
ルカラは誰かと食べる事が今まで殆んど無く、小さな疑問がすぐに湧くようであった。
三人は、食事以外でもルカラとの最初の約束に従って、小さな事でもわからなければ聞き、話し合う様にしていた。
仕事の分担も一応は決まっていたし、働きに応じて個人が自由に出来るお金を渡すと言うのも、この世界で同じ仕事に従事している人をベースに算出して、三人が納得出来る額を話し合って決めた。
一度決めた事も、試して現実に即していなければ修正を重ね、船に乗って数日経つ頃には、ほとんど問題も無くなっていた。
三人が取り分けて不味くも美味くも無い魚料理で腹を満たし終えた頃、酒場の外でガヤガヤと声が聞こえた。
「船がマグノーリャに向かわない!?」
「どういう事だ!」
聞き捨てならない言葉が聞こえてきて、三人は慌てて酒場を出る。
そこでは共に乗ってきた乗客達が船の方へと向かい、皆で騒ぎ始めていた。
彩芽達が船へと向かうと、乗ってきた船の船長が詰め寄られている。
「……だから、何度も言ってるだろ。もうすぐ時化(海が荒れる事)が来る。どうしても急ぎたいなら、陸路で行くんだな」
船長と乗客達の、平行線の言い争いを聞いて三人は予定外の足止めに遭った事を知る。
「海が時化るってよ、どうする?」
「馬車でマグノーリャまで行けるんですか?」
「行けない事は無いが、船が出るまで待った方が早く着くかもしれない微妙な距離だぞ」
「ストラディゴスは、どっちがいいと思う?」
「別に待ち合わせしてる訳でも無いし、急がないなら待ってた方が楽だな。金ももう払っちまってるし」
運搬船の乗船料金は、マグノーリャまでの分を払っているが、途中下船で差分が払い戻される事は無い。
「ルカラは?」
「私はどちらでも」
「じゃあ……待とっか」
「待つなら、船長に話し付けて、宿をとらないとな。さすがに、この町にブルローネは無いだろ」
* * *
三人は、酒場の二階にある四人相部屋の安宿を貸し切りでとると、これから船が出るまでどうするかを話し合う事にした。
普段は漁師が娼婦と寝る為に使う様な安宿の為、狭く汚く、食事同様に期待は出来ない。
窓から差し込む日の光と共に、潮風が部屋の中に吹き込む。
ここまで海が近いと、潮臭い。
「せっかくの足止めだ。何するかな」
「せっかくの?」
「ああ、どうせならこういう時にしか出来ない事をしようぜ」
「例えば?」
「そうだな。疲れてるなら休んでも良いけどよ、装備の手入れでも良いし、何か作っても良い。そうだルカラ、マリアベールに貰った剣は使いやすいか?」
「ええ、軽いですし、切れ味も」
「腰に下げてるけどよ。その位置で抜き辛く無いか? 剣は抜刀、納刀、両方しやすい所に差さないと、咄嗟に使えないぜ。身体に合った専用のストラップでも作ってやろうか?」
「そんな、良いんですか!?」
「良いに決まってるだろ。アヤメにも、何か作ってやるよ。何か足りない物あるか?」
「う~ん……すぐには思い浮かばないなぁ……今は良いかな。私は、どうしよっかなぁ……」
「あの、私、ストラップ作るの一緒にやっても良いですか?」
「作るっつっても、革でベルト作って、調整金具つけたり縫うだけだぞ?」
「お邪魔はしませんので、教えて下さい」
「わかった。それじゃあ、アヤメはどうする? 一緒にやるか?」
「やるやる! なんか面白そう!」




