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酔っぱらう

 しばし、話の時を戻す。




 ベルゼルの酒場で気分が悪くなった彩芽が夜風に当たりたいと言うので、二人は店を出た。

 彩芽は落ち着くと、歩こうとするが足元がおぼつかない。

 仕方が無く、ストラディゴスは彩芽の酒と魚でパンパンに膨れた腹を気遣ってお姫様抱っこをして城に向かう事にした。

 彩芽の手には、ラッコの様に食べる予定も食べさせる相手も無い巨人を殴って少し歪んだ猫缶が抱えられている。


 城に続く登り坂を歩きながら、酔った二人は、酒場での事を覚えていないのに自然と彩芽の故郷の話題になる。


「あ~久しぶりに楽しかった」

「久しぶり? 家族や友達は?」

「家族は……いないよ、お母さんは私を生んで死んじゃったし、お父さんも何年か前に事故で死んじゃった」

「……そうか」

「友達はぁ……最近、会ってなかったなぁ。一人仲の良い子がいたんだけどね、二人とも働き始めたら時間が無くてさ」

 彩芽はTシャツを触りながら懐かしそうに語る。


「そう言えば国では何をしてたんだ?」

「何して? なんだろ。頼まれた仕事やって、お金稼いで」

 プログラマーなんて説明した所で、理解されるとは思えない。


「よくわからないが、傭兵ではないんだろ? 商人の見習いか何かか?」

「う~ん、そういう言う事もやった事あるけど、物を作って売る人の手伝い、みたいな。なんだろ」

「職人の手伝いか?」

「まあ、たぶんそんな感じ」


 かなり広い意味では、あながち間違いでもない。


「それは、仕事が楽しくなかったのか? ムカつく親方でもいたのか?」

「嫌な奴なんてどこにでもいるし、楽しい事もそれなりにあったと思うけど」

「けど? なら、国にいた時は、なんで楽しくなかったんだ?」


「う~ん、誰かといると息が詰まるって言うのかな」

「誰かといると? 一人が好きと言う事か?」

 彩芽の抽象的な説明にストラディゴスは、腕の上の彩芽の顔を覗き込んで疑問符を送る。


「たとえばさぁ、ストラディゴスさんにはぁ、騎士って肩書があるじゃないですかぁ」

「ああ」

「それで周りから見られるのってぇ、どうなのぉ?」

「それはもちろん誇らしいぞ。それが当たり前だろう」


 彩芽は、大きな欠伸を一回挟むと、次の質問をした。

「じゃあ、ストラディゴスさんはぁ、今好きな人とかいる?」


「唐突だな……ああ、いるさ」


 ストラディゴスは、彩芽を見て正直に答える。


「その人に、騎士として見て貰うのとぉ、エロオヤジに見られるのとぉ、どっちが嬉しい?」


 彩芽の出した質問を聞き、ストラディゴスは心の中で冷やっとする。

 その質問が出る時点で、そう思っていると言う事は間違いない。


「……騎士だろうな」

「でも、助平だよね?」


 彩芽はニッコリと言い切る。


「まあ、否定できないが」

 ストラディゴスも認める事しか出来ない。


「じゃあ、はんたいにさ、その人が騎士としか見てくれなかったら?」

「それは、どういう事だ?」

「ストラディゴスさんの事が好きなんじゃなくてぇ、騎士だから好きだったら、どうかな?」


 ストラディゴスは、彩芽の言いたい事が、少しだけわかり始める。

 好きな人が肩書や地位でしか自分を見てくれていなかったら、それは、とても寂しい事だ。


「私のいた国ではねぇ、周りが見て欲しくないその人のイメージって言うのかなぁ、それで相手を見るって言うのかなぁ。それを濃くした嫌な空気っていうか、とにかくそう言うのが基本って言うか、何となく息苦しいのが伝わるかなぁ?」


「何となくなら分かったが、それは、どこでもそうじゃないのか?」

 質問の意図も、伝えたかったことも分かったが、そんなのはどの国でも同じ事だとストラディゴスは思った。


 彩芽はストラディゴスの質問に答えず、また質問をした。


「ストラディゴスさんはさぁ、私を一言で表すと何だと思う?」

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