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対話と脱出と

 彩芽、マリアベール、小セクレトの三人が精神の牢獄に閉じ込められ、脱出方法を探している頃。




 ストラディゴス、合流したエドワルド、ルカラ、それにマリードとゾフルの五人は操られているマリアベールの肉体に大苦戦を強いられていた。

 マリアベールは、ストラディゴスを命令通り追い続けており、ストラディゴスは攻撃を防ぎながら必死に逃げ回る事しか出来ない。

 気が付けば、一同はたった一人にフィデーリス城内にまで押されていた。


 マリアベールが仲間だから攻撃出来ないとかでは無い。

 単純にマリアベールが強すぎて、全員が全力でかかって行っても、足止めにしかならないのだ。


 スケルトン達は、ストラディゴスが死に次第、魔法が解かれる事を理解している様で、全力でマリアベールを無力化しようと、数の力であの手この手で行き先を阻む。

 だが、マリアベールの鎌は本来の鋭さが無くとも、いとも容易く近づく者を切り裂いて行く。




 そんな事をしていると、城壁を揺るがす程の振動が地面を響いて来た。


「今度は何だ……」


 エドワルドが、これ以上の爆破計画など予定に無いぞと震源に目をやると、ご丁寧にも城門をくぐろうとしながら、穴に引っかかって中々入れない巨大な人型の何かが目に入った。


「おいおいおい!? 聞いてねぇぞ、あんなの……」


 彩芽の向かった方面から現れた怪物を見て、度肝を抜かれるが、その怪物がなぜ城壁の門に引っかかったのかが、すぐに分かった。

 怪物は、ヴェンガンを追って行ったスケルトンや獣を追っている内に、門をくぐろうとしたのだ。

 城壁内に逃げ込む者達によって、奇しくも出入口に案内されたのである。


 門から城壁内に手を伸ばす怪物の姿に、多くの者がこの世の終わりを連想した。


「マリア一人でも厄介だってのに……」


「エドワルドさん! 一体何が?! この骨は何なんですか?!」


 城に駆けつけたモサネド達が、見覚えのある黒い鎧に身を包んだエドワルドを見つけた。


「丁度良い所に来たお前ら! 骨は味方の魔法だが、あのデカブツは敵だ!」


「魔法!? エドワルドさんはどうするんですか!? それに、その恰好!?」


「似合ってるだろ?」


「こんなの計画に無かったじゃないですか! 何が起こってるんですか!? せっかく生き返ったってのに、説明してくださいよ!」

「そうっすよボス!」


「必ず説明する! 今はあの化物を足止めしてくれ!」


「ううぇえええ!?? 無茶言わんでくださいよ!」


「今なら、お前らなら出来る! 門にひっかかってるうちに、城壁を落とせ! 火薬でも大砲でも何でも使え! あれが町に入って来たら、もう止められないぞ!」


「エドワルドさんはどうするんですか!?」


「俺か? このままリーパー退治にならなきゃいいが……」




 * * *




「見て、マリアベール!」


「闘技場か……民の息抜きに殺し合いを見せるとは……愚かな」


 城の窓から見える、建設中の大闘技場。

 民の息抜きとミセーリアは言っていたが、それだけの物では無い。


 ヴェンガンは、マルギアスから独立自治権を買っていた。

 つまり、闘技場の興行で収益を上げる事で、観光客を呼んで外貨も稼ぎつつ、フィデーリス市民の気を紛らわせ、独立自治権を買う足しにしようと考えたのだろう。


 一石二鳥のアイディアである。


「あれ、見て」


 広場に人が集まり、何やら御触れ書きを見ていた。

 三人は人込みに紛れて、御触れを見に行くと、そこにはこんな事が書かれている。




『マルギアス王国、特別独立自治区フィデーリス代表、ヴェンガン伯爵より。フィデーリスが王国であった時代より暮らすエルフ族の市民全てを、フィデーリスは誇り高き上級市民として扱う物とする。上級市民には、以下の権利が与えられる。フィデーリス内において、税の優遇。配給の優遇。議会への参加権……』


 長々とフィデーリス市民に対する優遇措置と、その具体的な開始期日が書き連ねられ、要約すれば「ヴェンガン伯爵はフィデーリス市民の味方である」と言うアピールであった。


「ふん、フィデーリスの民が堕落する訳だ。わざわざ下を作って、特別扱いとは……どこまでも愚かな……」

 マリアベールは、御触れ書きの中にある「奴隷」の項目を見て呆れた物言いをした。




 彩芽は、マリアベールがミセーリアをヴェンガンから救いたくて四百年もの間、戦ってきたと思っていた。

 だが、それは、少し違った様であった。


 ミセーリアの本性を知ってなお、助ける必要が無いと分かってもマリアベールが戦うのをやめないのは、フィデーリスの民の為であった。


 元々のフィデーリスの民達は、ミセーリアとヴェンガンによって、四百年経っても幸せそうに生きていた。

 ただし、それは堕落した幸せであった。


 贅沢と弱者への暴力を覚え、今、目の前で「奴隷を持つなんて汚らわしい」と言い合っている善良さは、微塵も見られない。


 マリアベールは、ミセーリアを救えば、元のフィデーリスに戻せると思っていた。

 だからミセーリアを助けようとしていたのだ。




 だからこそ、死者の軍勢によって、大虐殺ともいえる、民の浄化までさせたのだ。

 四百年の堕落の代償を払わせ、それでも生き残る者達に、健全なフィデーリスを託すために。


 ミセーリアが、マリアベールにとってフィデーリスに巣くう魔女となった今、魔女に力を与え、国を堕落させた責任を取る為に戦っているのが彩芽にも分かる。


 巻き込まれた形の彩芽だったが、ルカラを逃がす為に始めた戦いだったのに、気が付けば事態の中心にいる。

 フィデーリスを救おうなんて大それた事は思っちゃいないが、ヴェンガンとミセーリアを止めなければ、大事な人達の命が危ない。


 それに、ヴェンガンとミセーリアは、この先もフィデーリスを維持する為に、罪のあるなしに関係無く、人々を苦しめるだろう。

 第二、第三のルカラが生まれるのを、止められるのなら、止めるべきである。




 それぞれの思いを胸に、三人は広場を出ると、再び出口を探し始める。

 違和感がある物を探すにしても、フィデーリスは広すぎる。


「お姉ちゃん」


 彩芽とマリアベールは、それぞれ自分が呼ばれたと顔を向け反応した。

 小セクレトからすると、どっちが反応しても良かった。


「なに?」

「なんだ? 何か見つけたのか?」


「誰か来るよ」


 慌ててセクレトが物陰に隠れた。


「誰か?」




 空間が切り替わる。

 闘技場は完成し、中からは歓声が聞こえてくる。


 いつも間にか、物陰に隠れ損ねた二人の目の前に、ミセーリアが現れていた。


「ミセーリア……」


「マリア、どう? 私の作った箱庭は……」


 どうやら、本物のミセーリアが接触してきたらしい。


「よく出来ておる……」


「マリアに褒められるなんて嬉しいわ……」


「ここから出してはくれぬか?」


「ああ、マリア。悲しいすれ違いがあった。それは認める。あなたも、認めるでしょ? でも、あの時は他にどうしようもなかったの。それもわかるでしょ?」


「あの時とは、さっきの事か? 四百年前の事か? ずっと見ていたのであろう。なら、こちらの答えは分かる筈だ。そもそも、なぜあのような物を我に見せた?」


「覗き見なんてしてないわ。ずっと結婚式での事は、私も後悔してたのよ。だから、あなたには真実を知って貰おうと思ったの。またすれ違ったままお別れなんて、私は嫌だもの」


「どういう心変わりだ?」


「四百年もあれば、私も変わるわ」


「成長したと? 話し合えるとでも言うのか。嘘偽りなく」


「ここでなら話せる。信じるかは、あなた次第だけど」


「ミセーリア……お前は、何が望みなのだ」


「これがずっと続く事よ。ヴェンガンと私でフィデーリスを統治し続けるの」


「これとは、闘技場で奴隷や罪人を戦わせ、お前が気に食わぬ者を拷問をする事か? 他人を踏みにじる幸せを、王自らが民に与えると言うのか?」


「誰でも他人を踏みにじるものでしょ? フィデーリスはエレンホスに、今でもマルギアスに踏みにじられている。その力には、私達は抗えない。今も昔も変わらない。でもね、私も長い間、色々な拷問していてね、やっと気付いたの。誰を傷つけても気持ちいいのよ。だから、みんな理由をつけて誰かを傷つけるの」


 ミセーリアは、四百年もの間、セクレトにあらゆる拷問をする事で、憎しみをぶつけ、ストレスを発散し、その中で憎い相手を苦しめる快感に目覚め、そこから他人を苦しめる喜びに目覚めていた。


「味方に騙され、国を失い、気でも触れたのか」


「最初はそうだったのかもしれないわ……でもねマリア、これが今の私なのよ。あなたのお友達の女を私が捕えたのは知ってるかしら?」


「何を言っている???」


 目の前に、彩芽はずっといるのに、ミセーリアには見えていない。

 ミセーリアにとって、彩芽とマリアベールの繋がりは、相当のイレギュラーの様であった。




 * * *




 城門付近、モサネド達は爆弾を設置しようと準備を始めていた。

 ソウル・イーターを近くで見て、見た目と悪臭に吐き気がしているが、作業を急ぐ。


 同じ頃、マリアベールの相手をしながら、ストラディゴスとエドワルドは目の前の操り人形と化した仲間を、いい加減どうにかしなければと相談を始めていた。


 何か策があって彩芽が飛び出して行ってから、わずか数分しか経っていない。


 精神世界とは時間の流れが大きく違う。


 彩芽の安否も心配だが、ストラディゴスを一人にすれば、一つの油断で巨人は押し切られてしまう。

 魔法が解ければ、エドワルドは致命傷が開き、そのまま長くは生きられない。


「ストラディゴス! お前、魔法に詳しくなかったか!?」


「使えるダチは何人か知ってるが、そのぐらいだ!」


「魔法の解き方ってのは、魔法使いじゃなきゃ出来ないのか?」


 ストラディゴスは、フィリシスの指輪を思い出す。


「魔法の道具なら、ぶっ壊せば魔法は解ける!」


「マリアにかかった魔法だけどよ! アヤメは壊す物が見つからなくて時間がかかってるってのは無いか?!」


「あり得る!」


「それは、魔法使いが身に着けてる物なのか? 俺の指輪や鎧みたいな?!」


「なんだ、さっき城の中で何か見つけたのか?!」




 * * *




 精神の牢獄にノイズが走る。


「何事っ!?」


 ミセーリアが言うと、目の前に外が見える穴が空く。


 城門からフィデーリスを覗き込む視線。

 スローモーションで落ちて来る瓦礫の雨。


「マリア、あなたのお友達って、昔から本当に私の邪魔ばかりするわね……」


 彩芽は、穴の視界に入る気色の悪い巨大な腕を見て、それがソウル・イーターの視界だとすぐに気付く。


「なんなのだこの化物は!? こんな物まで作りだしたと言うのか!?」


「私も、ずっと研究し続けて来たんですよ、マリアベール先生。用事を済ませたらすぐに戻りますので、積もる話はその後で。それまで少し観光でも楽しんでいてください」


 そう言うと、余裕の態度でミセーリアは消え、世界が切り替わる。


「急ごう、マリアベール」


「その方が良い様だ……」




「お姉ちゃん!!」


 その時、小セクレトが二人を大声で呼んだ。


「どうした!?」


 マリアベールが見てみると、小セクレトの首筋に大きな痣が出来ていた。


「急にどうしたのだ!?」


 マリアベールが魔法を使おうとするが、この世界ではマリアベールの生命補助魔法が使えない様であった。

 精神世界では勝手が違い過ぎる。


「くそっ! 痣が広がっておる!」


「いたいっいたいっいたいっ!!!」


 セクレトの上半身の服を脱がすと、首筋から背中にかけて、鈍器で殴られた様な痣が広がり、それと同時に精神の牢獄に何度もノイズが走る。


「ま、まさか、セクレト! お前がここの主なのか?!」


「わかんない!! わかんない!! いたいよっ!! たすけてお姉ちゃん!!」


「マリアベール! どうしたらいいの!?」


「セクレト! 良いか、よく聞け! 最初の記憶を思い出せ! ここに来た最初の記憶だ! お前が牢獄の主なら、その場所には、お前だけの記憶がある! 思い出せ!」


 彩芽が痛がるセクレトをおぶろうとする。

 しかし、セクレトをおぶる事が出来ない。


「うそ、どういう事!?」


 今まで気づかなかったが、彩芽は、この世界では極端に非力であった。

 仕方が無いとマリアベールが背負う。


 セクレトは、痛みに耐えながら指をさして誘導を始めた。


 町には『ピレトス山脈の不死の怪物の討伐』と書かれた依頼書が方々に張られ、当時の賞金は一万フォルトと書かれていた。

「死体確認の為、討伐後は一度ヴェンガン伯爵に引き渡す様に」と、現在では破れてしまった個所に書かれており、ヴェンガンは当初マリアベールの遺体を回収しようとしていたのが分かった。




 三人がセクレトの誘導で城に向かう間にも、世界が変化し、時間が進む。


 依頼書が増え、連続殺人犯が現れるので夜間の外出は控える様にと書かれている。

 この頃から、ヴェンガンとミセーリアは、死の宣告とリーパーによる盗品の回収を始めていたらしい。


 街中には奴隷の数が一気に増え、フィデーリスが今の姿に近づいていくのが分かった。


 城内に入ると、セクレトが誘導していく方向にマリアベールは何か嫌な予感がしている様であった。


「マリアベール! 急いで!」


「あ、ああ……」


 歩調が遅れ気味だったマリアベールは、歩調を戻し、人目を避けて城内を進んでいく。


「なんだ貴様ら!」


 城の兵士に見つかり、慌てて逃げる。

 また世界が切り替われば兵士は消えるが、それまで悠長にセクレトが痛がるのを我慢させていられない。


 マリアベールがセクレトを背負ったまま、兵士が仲間を呼ぶ前に殴って気絶させ、さらに進んでいく。

 背負われたセクレトは、マリアベールの強さを見て、苦しいのを忘れた様に少し微笑む。




「ここ……」


 セクレトが連れて来たのは、一つの部屋であった。

 マリアベールが、いきなり開けて中に入る。


 すると、その部屋の中は実験道具や書物で溢れかえっていた。


「セクレト、ここは?」


 彩芽が聞くと、マリアベールが答えた。


「我の部屋だ……」


「マリアベールの!?」


「セクレト、我とお主は、面識があるのだな?」


「やっぱり、マリアベールお姉ちゃんなんだね……」


「少し痩せたかの……」


「色がちがうし、ちょっぴり汚いかも」


「手厳しいな……セクレト」


「どういう事、二人共!?」


 マリアベールは、セクレトを背から下ろす。

 セクレトは、この精神の牢獄の中で、誰も来ないこの部屋で隠れて過ごしていた。


 セクレトが辛そうに、マリアベールのベッドに腰をかける。




 セクレトの記憶だろう。

 三人の前に、半透明な、小セクレトと、小セクレトと会った当時のマリアベールの幻が現れた。


「弟子にして下さい! 僕は強い魔法使いになりたいんです!」


「いけません殿下、それに、あなたの様な身分の方が、この様な部屋に入るのも感心出来ない。魔法使いの部屋と言うのは、危ない物ばかりなのですよ」


「お願いします! 僕は、あなたみたいな立派な英雄になりたいんです!」


「殿下、私は、あなたが思う様な英雄ではありません。それに、あなたの目指すべき道もまた、英雄ではありません。あなたの御父上、エレンホス王の様な賢き王です」


「父上は賢くないです。全部大臣に任せてます」


「殿下、その様な事は外で言ってはいけない。それに、家臣を信頼して任せられるのは、賢き王だから出来る事なのですよ」


「マリアベール様、僕は父上よりも、あなたみたいな王様になりたいんです」


「殿下、一介の魔法使いに、様はおやめください。はぁ……弟子には出来ませんが、一つだけ、よいですか?」


「はい」


「私は、自分を英雄などと思った事はありません。ですが、殿下が、私を英雄と呼びたがるのは、何故だと思いますか?」


「強いから?」


「いいえ。私は、大切な人々を救おうとしてきた、それだけです。救う為に強さが必要だったと言うだけの事」


「救う?」


「はい。救う為に、必要であれば敵を倒してきました。だから、もし殿下が、本当に私の様になりたいとお考えなら、あなたの大切な民を救う事を、まずは最初にお考え下さい。そうすれば、私の弟子などにならずとも、あなたが必要とする物は手に入ります」


「僕は、強くなれますか?」


「民を救うのに、必要な強さをあなたが求めれば、きっと強くなれますよ」




「忘れておった……我ながら青い事を……救う強さも持たぬ身で、何を偉そうに……」


 マリアベールは、苦しそうな小セクレトを見た。

 マリアベールにとっては、セクレトかその兄かも曖昧な、思い出す程の事でもない日常の隙間の記憶である。


「僕は、英雄に……マリアベールお姉ちゃんみたいになりたかったんだ……」


 しかし、幼き日のセクレトにしてみたら、憧れの魔法使いの部屋を訪ね、勇気を出して弟子入り志願をし、その後の人生を変えた重要な記憶であった。

 だからこそ、四百年の拷問を受けても、この記憶だけは大切に残っていたのだろう。


「セクレト……」


 大人になったセクレトは予言を鵜呑みにし、フィデーリスを犠牲にして、他の全てを救おうとした。

 セクレトが、ただ英雄に、憧れの人に並びたい一心から道を踏み外した事を知り、マリアベールは、複雑な気持ちになる。

 ミセーリアの乱心と、フィデーリスの腐敗を招いた最初の原因が、まさか自分であったとは思いもしなかったからだ。


 セクレトが作り出した幻の影響で、その場だけ時間が部分的に過去に戻り、精神の牢獄に大きなノイズが走る。


 そこに、世界変異のノイズがさらに重なった。

 すると、マリアベールの部屋の中に、ミセーリアが現れた。




「マリア、自分の部屋が懐かしいのね……」


「ミセーリア……」


「あら、セクレトを見つけたの……さすがに油断も隙も無いわね」


「セクレトを、セクレト自身を呪具に、あの化物に変えたのだな……」


「マリアには、かなわないわ……まだ完成には程遠いけど、完成すればマルギアスの全ての兵を相手にしても止められない。私達のフィデーリスを壊したセクレトが、フィデーリスを今度は救うのよ。それに、セクレトはマルギアスを滅ぼして英雄になりたかったのだもの。これが彼の私達への罪滅ぼしにもなる」


「お姉ちゃん……」


 セクレトが彩芽に話しかけた。

 彩芽とマリアベールがセクレトの方を見た。


 ミセーリアには、やはり彩芽の姿が見えていない。


「ずいぶんとセクレトに懐かれているのね、マリア。でも、騙されちゃだめよ。そいつが全部悪いのだから」




 * * *




「ここかよ……!?」


 ストラディゴスが、マリアベールから逃げながらエドワルドに連れられて来たそこは、ミセーリアの実験室であった。


「お前、上では何も見つけられなかったのか?!」


「セクレトの子孫も指輪も見つからなかったよ! 悪かったな!」


「この部屋のどれが怪しい?!」


「あれをぶっ壊せ!」


「あれか!」


 最初来た時は、ヴェンガンを追う為に素通りした 所狭しと飾られる内臓や脳味噌。

 エドワルドに怪しいと言われ、初めて気付く。


 そのどれもが、まだ微妙に生きているのだ。

 内臓だけの状態で死者蘇生を受けて、ピクピクと生き続ける臓器達。


 その臓器にスタンプの様に、小さな印を刻み付ける為の、鏝が様々な道具と共に置いてある。


 鏝自体に刻印が施されており、それは紛れもなく魔法の道具であった。


 マリアベール程の才能が無いミセーリアと、ヴェンガンが魔法を安定して使うのなら、補助具がいる。

 刻印鏝は、間違い無く補助具の一つである。


 ストラディゴスが一刀のもと、鏝を切断する。


 だが、それは鏝による敵の死者の量産を止めたに過ぎない。


 マリアベールを操っている魔法、ドミネーションの補助具は、ミセーリアが身に着けている。


「エドワルド! 全然止まらねぇぞ!」


「他の物もぶっ壊せ! 全部壊せ!」


 当てが外れた二人は、マリアベールと乱闘しながら三人で実験室を荒らしまわった。




 * * *




 マリアベールの肉体の視界から覗き見ていたミセーリアが、大切な実験室を破壊されるのを見て、精神の牢獄の中ではらわたが煮えくり返った顔をしている。


「あの女を、あいつらの目の前で端からゆっくりバラバラにしてやる!!」


 マリアベールは精一杯頑張ったが間抜な結果になった格好つかない二人と、自分の抜け殻が大暴れするのをミセーリアと共に見ながら、馬鹿にした様に「ふふふ」と笑った。

 笑われたミセーリアは、面白くなさそうにマリアベールを見ると「話が反れたわね」と話を続ける。




 その隙に、セクレトが彩芽にそっと話しかけてきた。


「お姉ちゃん……」


「大丈夫? 痛い?」


 声がミセーリアに聞こえていない様だが、彩芽は小声で話しかける。


「ううん、痛いけど、こういう後はね、もっと悪い事が起きるの……だから、その前に」


「悪い事?」


「僕を……殺して」


「そんなっなんでっ!?」


「この部屋は無くなっちゃうけど、きっとお姉ちゃんだけならそこから出れるよ」


「出来ないよ! それに、マリアベールは!?」


「穴が小さいから、出れないけど、お姉ちゃんが外から助けてあげて」


 彩芽とマリアベールでは、彩芽の方が身長があった。

 ここでセクレトの言う大きさは、この場に入れられた情報量である。


 マリアベールは、ミセーリアによって、呼ばれるべくして箱庭に呼ばれた。

 だが、彩芽は、箱庭への招待を受けずに、マリアベールとの魔法的な繋がりをもって、覗き見ているに過ぎない。


 だから、彩芽の姿をしている様で、実態はマリアベールの中の彩芽の情報を構成した朧な肉体に、精神が間借りしているに過ぎない。


 彩芽は、他人の頭の中で、他人の持つ自分の記憶を頼りに、夢を見ているのだ。




「マリアベールお姉ちゃんを助けてあげて……アヤメお姉ちゃん」




 セクレトが、そう言った瞬間。


 世界にノイズが走り、ソウル・イーターに何かが起きた事だけは分かった。


 ノイズの瞬間、セクレトの首の痣が一気に広がる。


 マリアベールの部屋の床がセクレトを中心に抜け落ちた様に感じると、彩芽だけが暗闇に落下し始める。


 上を見ると、元のマリアベールの部屋に戻った場所に、取り残されたマリアベールと、話し込むミセーリアの姿があおり視点で見え、一気に遠ざかっていった。

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