二日酔い
翌日の昼、彩芽は知らないベッドで目を覚ました。
二日酔いで、頭がヤバいぐらい痛い。
そこは、領主の城の中にある、ストラディゴスが住む騎士用の個室だが、眠っている間に運び込まれた彩芽が知る由も無い。
かなりの大部屋なのだが、置かれた家具のサイズが椅子とテーブル、そしてベッドだけストラディゴスに合わせて大きめに作られていて、本来の広さを感じない。
中途半端にガリバー旅行記か不思議の国のアリスみたいな、小人の気分を味わえる部屋である。
酒で記憶を飛ばす失敗を今までした事が無かったが、今回は酒場を出た後の記憶が曖昧で、覚えている事の方が少ない。
何か、楽しかった事だけは感覚で残っているが、朝起きて夢を忘れる感覚に似ていて詳細が思い出せない。
ベッドから出ようとすると彩芽は、なぜか全裸だった。
気だるげな目のまま、ポリポリと頭と内股をかく。
「ふむ……」
カチカチカチ……
恐らく自宅の感覚で、服が煩わしくて自分で脱いだのだろう。
身体中、どこにも怪我も痣も見当たらないのだが、なぜか全身が筋肉痛である。
髪を触ると、サラサラになっている。
それどころか、全身がむしろ昨日より綺麗になっていた。
「ふむむ……」
とりあえず、どうした物か。
まずは、二日酔いの薬が欲しい。
何をするにも服が必要だと部屋の中を探す事にするが、当の服が落ちていそうな床には何も見当たらない。
仕方が無くベッドのシーツにくるまっていると、扉をノックする音が聞こえた。
返事をしていいのか分からないが、無視するのも変な気がするのでシーツにくるまったまま扉の方に向かう。
「ストラディゴスさん?」
声をかけると扉の向こうから、扉を開けずに返事が返ってきた。
「おはよう。アヤメ、もしかして、まだ寝ていたのか? 起こしたのならすまない」
「おはよう、今起きたばかりだけど、あの、私の服は?」
「ああ、丁度着替えを持ってきたんだ、昨日着ていた服は、洗濯に出しておいた。持ち物はテーブルの上にまとめて置いてある。何か足りない物があったら言ってくれ」
そう言って扉が少し開くと、大きな手に女物の服が握られてヌッと部屋に入ってくるが、受け取るのを待つだけで、それ以上入ってこようとしない。
彩芽は、ストラディゴスの様子が少し変だと思った。
どう言う心変わりかは知らないが、昨日の今日で急に紳士的と言うか、何と言うか。
良い言い方で英雄色を好むを地で行きそうな、悪い言い方で悪びれなくセクハラをしてきそうなエロオヤジだと勝手に思っていた。
だが、出会い方や出会った場所のイメージに引っ張られているのかもしれない等と考え、答えを出す事は保留にする。
二日酔いで、今はそれ以上考えたくない。




