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乾杯

 酒と食事のローテーションが軌道に乗ってくると、ノリと勢いだけでエンドレスの乾杯が止まらなくなっていく。


 すると酒の力で、徐々に二人とも口が軽くなる。

 最初は、好きな食べ物や酒の事しか話していなかったが、ストラディゴスは、彩芽がどんな話でも楽しそうに聞いて、一生懸命話すのを見ていて、更に口が軽くなっていく。


 彩芽の故郷にあった食べ物で彩芽の好物「豚骨ラーメン」なるものの話をきっかけに、地方の名物の話が始まり、ストラディゴスの故郷はどこだと言う話になっていく。

 すると、すっかり気を許してしまったのか、お互いの身の上話を披露する事になった。


 まずはストラディゴスの番である。


 故郷も分からない戦災孤児だったが、やがて傭兵になり、騎士団の副長にまで成り上がったと言う。

 それから、ストラディゴスは自分の過去を、出来るだけ面白おかしく話し始めた。

 騎士になって仕事でした大失敗の話や、四股がバレて修羅場になり危うく昔の彼女と浮気相手達に殺されそうになった話。

 そのどれも彩芽は楽しそうに聞き、一緒になって笑ってくれる。


 小さな話が終わると、そのたびに彩芽は、

「生き残った事に!」

「大儲けに!」

 と、ストラディゴスの過去に乾杯し始める。


 いくつか話を披露してストラディゴスがもう面白い話を思いつかないとなると彩芽は、自分も後で話すと言っていた事などすっかり忘れ、

「じゃあ、今日の出会いに!」

 と、ジョッキをぶつけて乾杯を繰り返し始め、同じくすっかり忘れているストラディゴスも一緒になる。


 こうして、しこたま浴びる様に酒と魚を喉の奥に流し込んだのだった。




 * * *




 そんなこんなで、心地良い汗をかいた彩芽が、手についた魚の油を指の一本一本まで無作法にも猫の様に丁寧に舐め、その艶のある姿に見惚れて周囲のテーブルのむさ苦しい男共が、羨望の眼差しをストラディゴスに送る頃。


 皿もジョッキも空になり、彩芽は腹を風船の様にぷっくりと膨れさせて料理を完食していた。


「ごちそうさま~」

 夕食が終わり、満足そうに椅子に沈み込む彩芽の姿をストラディゴスが見る。


 その飾らない食べっぷりにも驚いたが、控えめに言ってもあまり良い出会いでは無かった自分との食事を、こんなに楽しんでいる事に今更ながら驚いた。


 ストラディゴスは、この夕食の席を昼間の謝罪の意味も込めて(待たせた事も含めて)、慣れない接待のつもりで精一杯もてなした。

 だが、夕食が終わってみればストラディゴス自身が最高のもてなしを受けた様に、なぜか心が満たされ、救われた不思議な感覚が胸にあった。


 普段仲間と飲むのとも、ブルローネの姫と飲むのとも何かが違う。

 だが、何が違うのかはサッパリ分からない。




 少し眠そうな彩芽がストラディゴスの視線に気づき、とろんとした目で、だが、まっすぐに見つめ返す。


「えへへ、食べすぎちゃった」


 気持ちよく酔っぱらって、ほんのりと赤く染まった彩芽の屈託のない笑顔。


 シャツをめくり、膨れた腹を見せてポンポンと軽く撫でて見せた。

 ただの酔っぱらいのお腹いっぱいアピールである。



 ところが、酔っているストラディゴスの目には、別の鮮明な、幸せな夢。

 いや、まだ妄想とも呼ぶべき光景が、脳内を駆け巡った。


 妄想のせいか、ストラディゴスは、無意識のうちに彩芽の腹を優しく撫でていた。


「え……?」

「あ……」


 ストラディゴスが、しまったと手を引っ込めようとすると、彩芽は「っぷ」と吹き出し、無邪気に笑いながら、

「エッチ~」

 と悪戯に言葉を浴びせる。


 こうして、酔っぱらいは無意識のまま、すっかり巨人をノックアウトしてしまっていた。


 直後。


「うっ、気持ち悪っ……」

 笑顔から一転、突然の彩芽の言葉にストラディゴスは……

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