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 紫門が世界の3分の1を崩壊させた。

 それが真実であるということを、サタンは淡々と告げる。

 紫門の中には、サタンへの怒りと疑問が頭の中で渦巻いていた。


「なんで・・・なんで俺なんだ!?なんの目的があって俺を巻き込んだ!?」


「最初に言っただろ?私は君を悪魔にするために来たって」


「答えになってねぇ!なんで俺じゃなきゃいけなかったんだ!別のやつでもよかっただろ!」


「それは追々話そうか、その話をする前に話さなければいけないことが沢山ある。そもそも、こうなることは時間の問題だった」


 紫門からの追求をうまくかわし、サタンは話を続ける。


「君の頭には疑問符しかないだろうけど、これから話すことを黙って聞いていてほしい」


 サタンはそう言って、紫門の目をじっと見つめた。

 その目から、この男が何を考えているのか伺い知ることは出来なかった。


「始まりは1999年、この年に恐怖の大王という存在がやって来て、人類が滅亡するという噂で持ちきりになった」


 紫門は恐怖の大王という名には聞き覚えがあった。

 母が『あんたが生まれた年は恐怖の大王によって世界が滅亡するっていう予言で持ちきりだったのよ。』

 ということを何度か紫門に語っていたからである。


「人々の間では恐怖の大王っていうのは、天体の衝突か隕石の激突か、はたまた異星人かウイルスか・・・色々な説が語られていたようでね。まぁ、結果的には恐怖の大王なんてやって来なかったし、人類が滅亡するような事態が起きることはなかった」


「けど、本当は1999年に人類は滅びるはずだったんだよ。人類の罪が大きくなりすぎた結果、天界の神は人類の滅亡を決め、1999年にそれを執行しようとしていたのさ」


 サタンは静かにそう告げた。だが、その事実は紫門にとって重すぎる内容だった。

 壮大すぎる話に、真の頭では理解が追いつかなかったからだ。


「きっと君は今、じゃあなんで未だに人類は滅亡していないんだ?なんて思っているだろう、ごもっともだ。神によって決められた人類の滅亡に対して反乱を起こしたのが僕たち悪魔だ。悪魔っていうのはね、人を殺すこともままあるけど、人を騙し、誘惑するのが一番の生きがいなんだよ。だから、人類が滅亡するなんてたまったもんじゃないっていう悪魔たちが多くてね・・・いつも好き勝手なことしている悪魔たちが、この時ばかりは一つにまとまった」


 サタンのその言葉に紫門は衝撃を受けた。

 自分の思う悪魔像と、その行動が一致しなかったからだ。


「私たちは天界に戦争を仕掛けた、それも不意を突く形で。でも、こっちの動きは全て読まれていてね、天界の圧倒的な物量に敗北した」


「そんな・・・じゃあなんで――」


「敗北はした、けどタダでは負けなかったのさ、7本の終末のラッパのうち3本を悪魔たちの魂をかけて奪取した。それによって、人類の滅亡を止めることに成功したってわけだ」


「・・・それでハイ終わりってわけじゃあないんだろ?」


「そう、あくまで滅亡を一旦ストップさせたにすぎない。天使たちも常にラッパを探し続けている。それに、悪魔のほとんどは戦争によって死んだ。逃げ延びた私は3本のラッパを隠匿し、20年間力を蓄え、死んだ仲間隊の魂を集めるために奔走してきたっていうわけさ」


「このまま隠れてやり過ごせば、あっちはどうしようもできないんじゃないのか?」


 紫門は、率直な疑問をサタンにぶつける。


「それがそうも上手くはいかないようでね、20年間もラッパを盗んだ悪魔を見つけられないことに痺れを切らした神が、2020年に自らの手で人類を滅亡させるっていう情報を手に入れてしまってね」


「はぁ!?じゃあなんで最初からそれをやらないんだよ!?それに、滅亡させられるような力があるんならラッパぐらい簡単に見つけられるんじゃないのか?」


「神にも出来ることと出来ないことがあるのさ、いくら世界を一人で滅ぼす力を持っていたとしても、この広い地球の中からたった3つのラッパを見つけ出すような千里眼を持っているわけではないんだよ」


 神がその名の下に人類を滅ぼすことができても、世界を見通せるほどの力が無いというのは、真の思い描く神の姿とは違っており、真を落胆させた。

 だが、そのおかげで人類の滅亡が20年も先送りできていることは余りにも皮肉だった。


「でも待てよ。情報量が多すぎて忘れそうになったけど、なんで俺にラッパを吹かせたのかがまだ分かってないぞ」


「いや〜、いいこと聞いてくれるねぇ!こんなに長ったらしく話をしたのに、肝心なところを覚えていてくれておじさん嬉しいよ」


 急に語気を変え、テンションが上がったように話すサタンに、紫門は軽いイラつきを覚える。


「人は普通、悪魔になることは出来ない。けれど、ある条件を満たした人間はその身を悪魔に変えることが出来る。」


「なんだよ、またややこしい話を始める気か?」


「まぁ、聞きたまえ。大きな罪を犯した者、それの死後、資質のあるものだけが悪魔に転化する。君には素晴らしい資質があるが・・・如何せん、人畜無害な善人だ。悪魔になれるほどの罪が無い。だから、君がラッパを吹くように誘導し、世界の3分の1をあえて崩壊させたのも、全てこの為だったんだよ」


 その言葉を聞いた紫門の心に、鎮まっていたはずの怒りがまた燃え上がる。


「俺を・・・俺を悪魔にするためだけに16億の人が犠牲になったって言うのか!?」


「あぁ、そうさ。君のためだけに16億の人間が死んだのさ、迎えるはずの明日を見れずにね」


 煽るように事実だけを述べるサタンに対して、真の怒りは更に増していく。


「ふざけるな!そんなこと聞かされて・・・悪魔になってくださいって言われて・・・ハイなりますなんて二つ返事で従うわけないだろ!」


「いいか?私は悪魔だ。0を1にするためだったらなんだってやる。君の意思を聞いていられるような状況ではもうないんだよ。それに、君が悪魔にならなければ残りの54億人も間違いなく死ぬ。君はもう自分の運命を選ぶことは出来ない」


「なっ・・・そもそも俺は何も知らなかったし、アンタに促されるままにラッパを吹いただけだ!俺が殺したわけじゃない!」


「負い目を感じていないわけではないんだろう?君が直接殺したわけではないが、引き金を引いてしまったのは君だ。そこに罪は存在する。強引なやり方だったとは思うけど、君に大きな罪を背負わせるにはこれしかなかったのさ」


「クソ・・・人でなしが・・・最初から全部、計画の内だったってことかよ・・・」


「アッハッハッハ、悪魔に人でなしだなんてシャレが効いてるじゃないか。・・・それじゃ、死んでもらおうかな」


 眼前にいたサタンの姿が消える。紫門がそれに気付いた時には、既に彼の胸はサタンの腕に貫かれていた。

 紫門の意識はそこで途切れた――



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