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私は異世界で百合の花園(ハーレム)を創ることにした。  作者: 虹蓮華
第1章「異世界生活を始めよう」
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本編1-3「運命の歯車は勝手に回り始める」

2018/07/06

・フォーマットを変更しました。

・本文の一部を、より自然な流れになるように、最低限の加筆と修正を加えました。

 彼女達は、追いかけっこだろうか、それともかくれんぼだろか、その様な感じで遊んでいるらしかった。

 そんな様子は微笑ましかったが、ここは聖霊の泉で安全とはいえ、小さい女の子だけで遊ぶには聊か不安だ。


 水辺ということもある。万が一ということもあるので、ある程度近づいたところでしゃがんで話し掛けることにする。


「こんにちは。何して遊んでるの? ここは水辺だから、あんまりはしゃぎ過ぎると危ないわよ。それと、今ここにいるのは貴女達だけ? お父さんやお母さんはどこに居るのかな?」


 そう問いかけると、女の子達はそれぞれの顔を見合わせた後、


「お姉ちゃん、だれ?」


 と赤い髪の快活そうな女の子が尋ねてきた。


「ああ、御免なさいね。こんな所で遊んでる子がいるなんて意外だったから、ついね。私はクスハっていうの。この近くにあるお家に住んでるのよ」


 不安を解消させるように微笑みながら答えると、


「そうなんだ……、私達もね、この近くに住んでるの……」


 と赤い髪の女の子の後ろに隠れていた青い髪の女の子が、消え入りそうな、でもとても澄んだ声で返してくれた。


「そう、貴女達もこの辺に住んでるのね。それで、お父さんとお母さんは……」


 そこまで言い掛けた所で、今度は緑の髪をした女の子に腕を引っ張られる。


「ねーねー、そんな事よりさー、私達と一緒に遊ぼうよー」


 え……でも……、と対応に困っていると、もう片方の腕を茶色の髪の女の子が控えめにゆっくりとした動作で引っ張りつつ、ゆっくりとした口調で続ける。


「わたしも~、おねぇちゃんと~、あそびたい~~」


 ここまで可愛い娘達に可愛いおねだりをされてしまっては、断る術など最早無い。


 仕方が無いので、付き合うことにする。

 私が保護者の代わりに面倒を見れば、一先ずは安心だろうから……。



 そうして、彼女達4人と遊んでいくことにする。


 赤い髪の女の子とは、泉に向かってどっちが遠くまで石を飛ばせるかで競い合い、

 青い髪の女の子とは、水辺で足をたゆたわせながらおしゃべりして和やかな時を過ごし、

 緑の髪の女の子とは、かけっこでクタクタになるまで走り回り、

 茶の髪の女の子とは、土を捏ねていろんな物を創ったりしてそれぞれ遊んだ。


 勿論、4人一遍に遊ぶ事もあり、その時に私が教えたドロ警はとても評判が良かった。



 そうこうしている内に、日も傾いてきた。

 かなり夢中になって遊んでしまっていたようだ。

 私はこれ以上暗くなる前に、お家に帰ることを彼女達に促した。


「だいぶ日も傾いて暗くなってきてしまったわね。私もそろそろ帰ろうと思うから、貴女達ももう帰りなさい。ご両親も心配しているでしょうから。貴女達だけで大丈夫? 良かったら、私が近くまで送っていくわよ?」


 そう告げると、彼女達は最初に出会った頃のように小さく固まり、相談を始めたみたいだった。


「このお姉ちゃん、思ってた以上に良い人みたいだね」


「うん……。とても、優しい人だと思う……」


「面白いこと色々知ってるし、私は好きだな!」


「さいしょは~、こわいひとかとおもったけど~、いまはわたしもすき~」


 などと、むず痒くなりそうな会話が聞こえてくる。


 しかし、それでも日没は待ってはくれない。

 もう一度帰宅を促そうとし、しかしその前に赤い髪の女の子が口を開いた。


「私達の意見が一致しました。桜川樟葉さん、貴女を聖霊の勇者として認めます。これより私達は、貴女を助ける力となりましょう」


 先程までの幼稚さの残る喋り方と違い、知性的だがどこか機械的な喋り方で突然話し掛けられ、一瞬頭が真っ白になってしまう。


「え? あれ? これって一体どういう……」


 そこまで言うのが精一杯だった。

 そんな様子を察したのか、赤い髪の女の子が説明をしてくれる。


「これは失礼しました。“勇者”桜川樟葉。順を追って説明しましょう」


 続けて、


「先ず、私は、貴女方で言うところの炎の聖霊です。そして、こちらが水の聖霊、そして、風の聖霊と地の聖霊です」


 と青い髪、緑の髪、茶髪の子と順番に紹介していく。


「そして、貴女には聖霊を受け入れられるだけの大きな魂があり、それに見合った膨大な魔力が宿っているのは分かっていました。ですが、それだけが資質というわけではありません。何より大事なのは、“心”なのです。そんな心を確かめさせて頂く為に、今回我々はあの様な姿で貴女の前に現れたのです」

「そしてその結果、貴女は我々の力を託すのに相応しい人物であると判断致しました」


 なんて聞いてもいない事を教えてくれた。


 成程、道理で最初会った時から違和感があった訳だ。

 しかし、一つだけ聞き捨てならない言葉があった。

 『勇者』だ。それについて問い質す。


「あの、ちょっと待って……。私がその試験に合格したってのはなんとなく理解出来たわ。でも、その、“勇者”って?」


 すると、炎の聖霊は少しだけ驚いた様子を見せ、直ぐに納得したように頷いた。


「成程、道理で貴女の魂の底が見えない訳だ。貴女、“世界を渡って来た者”ですね? それなら、“勇者”を知らないのも納得だ。この世界では、聖霊に愛される事は非常に稀で特別な事なのです。それこそ、数百年に一人現れるかどうかといった具合にです。その代わり、聖霊に愛された者は人智を超えた力をその身に宿します。ですから、この地で知ある者はその者を“勇者”と呼び、畏敬の念を込めてそう表現するのです」


 大体の事情は飲み込めた。だが、最後に一つだけ重大な事を確認せねばならない。

 喉が異様に渇く。それを無理矢理唾を飲み込むことで誤魔化し、嫌な予想を必死に抑えて質問する。


「では、その、“勇者”になったからには、魔王を討伐に向かったりしなければならないのでしょうか?」


 すると、不思議な事を聞いたとばかりに目を丸くした炎の聖霊が、それでも淡々と答える。


「いえ、その様な話は聞いた事がありません。確かに嘗て“魔王”を名乗るような強力な魔物がいたことはありますが、それと“勇者”は全く関係がありません」


「え……、では何故“勇者”って……」


「そこまでは我々も詳しくはありません。ですが、恐らくですが、人の域を超えた偉大なる者を呼ぶ際に、“勇者”という響きが一番適していたのではないでしょうか? 人族を名乗る者達の間でそう呼ぶのが一般的な様でしたので、我々も便宜上そう呼んでいるに過ぎません」


 私の取り越し苦労だったようだ。最大の懸念が杞憂に終わった事に心の底から安堵する。

 そんな私の様子を感じ取った炎の聖霊が、


「それでは、十分に納得頂いたようですので、そろそろ聖霊を貴女の魂に定着させても宜しいでしょうか」


 ああ、そう言えばすっかり忘れてしまっていた。

 ただ、折角なのでこちらから幾つか注文を付けてみる。


「ええ、構わないわ。けれど、出来ればさっきの達を指名したいのだけれど?」


「ほう? それはまた変わったことを仰られる。通常であれば、聖霊の力を使いこなすのに人格は邪魔だとされるのに……。いや、可能ですとも。貴女の魂を診るに、全く問題は御座いません」


「そう? それなら良かった。それじゃ、またあの娘達と話をさせて頂ける?」


「承知した。それでは、桜川樟葉。貴女に聖霊の加護があらんことを……」


 そう言い残すと、炎の聖霊の体からは力が抜け、代わりに表情が戻ってくるのを察した。

 意識が戻ったであろう4人はそれぞれの顔を見合わせた後、一斉に私に抱きついてきた。


「「「「お姉ちゃん」」」」


 私はそれを抱き留め、それぞれの頭を撫でてやる。


「そうだ、これから一緒に過ごすんだし、名前があった方が便利よね」


 そう判断を下すと、各聖霊に名前を付けていく。


 炎の聖霊には、ホムラ

 水の聖霊には、スイ

 風の聖霊には、フウ

 地の聖霊には、ミコト


 実に安直な名付けではあるが、これ以上ないくらいしっくり来るものになったと思う。


「それじゃ、これから宜しくね。ホムラ、スイ、フウ、ミコト」


 皆を名前で呼んでやると、4人の聖霊は嬉しそうに笑い、


「「「「こちらこそ宜しくね、クスハお姉ちゃん!」」」」


 元気な返事と共に、私の胸の辺りに吸い込まれていった。




 辺りはすっかり暗くなってしまっていたけど、特段気にはならなかった。

 彼女達、聖霊が魂に宿った直後から、以前とは比べようも無い程に魔力が増加しているのを感じ取れたし、月と星の明かりで夜道が照らされていた事で、足元に若干注意を払うだけで問題なく歩けたからだ。


 ティアの家の前まで辿り着くと、彼女が家の前に立っていた。

 どうやら、帰りが遅くて心配して待っていてくれたようだった。

 悪いことしたな……と思い、声を掛けるべく彼女に歩み寄る。


「ティア、帰りが遅くなって御免なさい。わざわざ待っていてくれたの?」


 その声に弾かれるように振り返ったティアは、こちらの顔を見た瞬間安堵した表情になり、しかし、その直後には驚きに目を開かせた。


 その驚いた顔も一瞬。

 普段の落ち着いた雰囲気を取り戻した彼女は、それなのに柔らかさを取り除いた凛とした態度で居住まいを正すと、直ぐ傍まで近づいた私に向かい、右手を左胸の上に置き片足を付いて跪いた。


「ようこそお帰りなさいました、勇者様」


 そのあまりにも予想外な状況に混乱していると、彼女は続けて、


「私は聖霊の巫女として、これより勇者様の手となり足となり、お傍に仕えさせて頂きたく存じ上げます。勇者様、何なりとご命令下さいませ」


 などと、またもや訳の解らない事を言ってきた。


「あ、あの~、ティアさん? どういうことなのか、説明して欲しいのだけど?」


 突然の豹変っぷりに困惑しながら私が言うと、


「畏まりました、勇者様。私達エルガレム家の者は、泉の管理の他にもう一つお役目が御座いまして、それは、聖霊の勇者様が御誕生なされた際には、その御身の守護とお世話をさせて頂くというもので御座います。それと、私めに敬称など不要で御座います」


 跪いた姿勢のまま、淡々と説明してくれるティア。

 私がその姿に面白く無さを感じていると、ふいに頭の中に声が響く。


《お姉ちゃん。人族にとって“勇者”がどのような存在なのか、いまいち理解出来てないみたいだねー》


 悪戯っぽい声から察するに、これはフウだろう。

 続いて、それを嗜めるような声が発せられる。


《コラ、フウ。その言い方は失礼でしょ! ごめんね、お姉ちゃん》


 と元気だが真面目な声色で言う。ホムラだ。

 いや、別に気にしてないよと返すと、


《私が説明するね。さっきも言ったけど、“勇者”というのは人族にとってとても偉大な存在で、神聖にして不可侵な、崇拝の対象にすらなり得るの。それこそ、王様よりも上位の存在として扱われる事もある程のね》


 それを聞いて、

 あれ? 若しかして私、さらりと決めちゃったけど、とんでもないものになってしまったんじゃ……と今更ながら後悔の念が頭を過ぎったが、その直後に4人からの心配そうな思念を感じ取り、即座に追い出す。


 成ってしまったものは仕方ない。なるようになれ、だ。

 寧ろ問題は、未だに頭を垂れ、跪いている彼女をどうするかだ。

 私は頭を軽く掻き、意を決して口を開く。


「ティア、私を“勇者”として扱うのは止めて貰えないかしら。貴女にその様な態度を取られると、とても悲しくなるわ」


 自分も片膝を付き、両手を肩に置いて語りかける。


「それに、貴女にこの様な接し方をされる位なら、私は勇者なんてならない方がマシだわ。だから、ね。顔を上げて頂戴。ティア」


 そこまで言うと、彼女は驚いた顔を上げ、こちらを見つめ返してくる。


「そんな! “勇者”を辞退するなど、とんでもない。これは大変名誉な事なのですよ!?」


 非難めいた目と悲痛な表情で伝えてくる。

 それに対し、私は、


「そんなに大層なものなの? “勇者”って」


 などと何気ない感じで聞くと、


「当たり前です! そもそも“勇者”とは、聖霊に愛され加護を得た者の事。誰もが成りたくて成れるものでも無いのです。それこそ、数百年に一人現れるかどうかというくらいに、です」


 次は少し憤慨した感情を込めて、やはり悲しそうに答える彼女。

 私はそれに溜息を一つ吐くと、最後の手段を使うことにする。


「貴女の考えは判ったわ、ティア。ならば、これは命令。私の事は、これまで通り“友達”として接しなさい」


 えぅ……と言葉に詰まるティア。

 とても困惑した表情を見ていると大変申し訳ない気持ちで一杯になるが、こればかりは譲れない。

 こちらの世界に来て、最初に出来た大事な友達なのだ。

 そんな彼女にこれから先、他人行儀な態度で接せられ続けるなんで、考えたくも無い。

 心からの叫びをそこまで考えたところで、ふとした疑問が浮かんできた。


「ところで、私が“勇者”である事は、どうやって分かったのかしら。何かしら後光や波動が洩れ出ていたりとか?」


 なんて独り言のように呟くと、


「?」


 疑問符を浮かべたティアが心底不思議そうな顔で私の顔を見つめてきた。


「あら? 私、何か変な事言った?」


 本気で判らない体で聞く私に対し、


「え……? だって、聖霊の加護を得たのですよ? 私は巫女なので魔力からそれを感じ取ることが出来ますが、他の方に対してはそれを宣言しないなんて、どうするんですか」


 と。


 私はそれに質問で返す。


「え? “勇者”って、自分で宣言するものなの?」


「当たり前じゃないですか。聖霊の加護を得た者の当然の権利ですよ」


 さも普通の事の様に言うティアに反し、再び私の頭は混乱に包まれる。


「え、それじゃあさ、他の人も“勇者”を名乗れたりするんじゃないの?」


 纏まらない思考を無理矢理落ち着かせながらなけなしの疑問を口にすると、


「何を言ってるんですか、クスハ。そんな恐ろしい事出来る訳ないでしょう。若しそんなことをしたら、聖霊様の逆鱗に触れて加護を失い、魔物になってしまいます」


 などと、衝撃的な答えが返ってきた。


 しかし、その答えによって、これまでの一連の遣り取りの違和感と、全ての疑問が解消された。

 私が思っていた以上に、“勇者”とは崇高な存在だったらしい。

 だが、それと同時に、現状を打開する解決策も提示された。

 私はその事をティアに伝える。


「成程、全て理解したわ、ティア。困らせるような事を色々言って御免なさい。それでね、私、決めたわ。“勇者”である事は“宣言”しない」


 何か言いかけた彼女を無視し、続けて、


「なので、私は“勇者”じゃない。だから、ティア。私の事は“勇者”としてではなく、“一人の友達”として接してくれると嬉しいな」


 確りと目を見据えて微笑みながら伝え終えると、彼女はポロポロと涙をこぼし始め、嗚咽まじりに気持ちを吐露してくれた。


「わたくし、こそ、御免なさい。クスハは、私の最初のお友達でしたのに、そんな貴女が、聖霊の勇者様だと知ってしまったら、もうこれまでのような関係では居られないと思ってしまった……。巫女は勇者に付き従う者。もうお友達では居られないと知ってしまったら、悲しくなって、その気持ちを押し隠す為に、貴女に冷たく接してしまいました。本当に御免なさい」


 涙でクシャクシャになった顔を両手で覆う彼女を、私は優しく抱きしめる。


「いいのよ、ありがとう。私の事をそこまで想ってくれてた事がとても嬉しいわ」


 そう言いながら、彼女が泣き止むまで背中を撫で続けるのだった。


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