本編1-2「能力を確認してみよう」
翌日になり、私は能力の確認をするべく泉へ向かう。
《想像》の能力を受け取ったものの、どの様なものなのか皆目見当も付かない。
実際に使って見るに際し、周りに迷惑が掛からなさそうな場所を考えると、泉周辺が適当そうだったのが理由だ。
泉に到着すると、近くに腰を落ち着けられそうな岩を見つけ、そこに腰を下ろす。
さて、《想像》という言葉から察するに、考えたことを実現させる能力のように思える。
――考えたことを実現させる――か。
私は試しに手の平を目の前に翳し、炎が点るのを念じて見る。
すると、手の平から三十センチほど離れた空間にボッと一瞬だけ火の玉が現れた。
その際、自分の体内から不思議な力が掌から流れ出るのも感じ取る。
どうやら、この力が“魔力”と呼ばれるもので良さそうだ。
次は同じ格好のまま、水を出現させてみる。
先程と同じように三十センチほど離れた場所で直径十センチ位の水の塊が現れ、地面へと落ちていった。
炎の時よりも、多くの魔力が使われたのを感じる。
炎は燃え続けなければ一瞬で掻き消えるが、水は一度出現してしまえば消滅することはないという理屈での、消費量の違いだろうと思われた。
自分の心臓の辺りに意識を集中させてみると、ぼんやりとだが魔力を感じることが出来た。
流れを辿ることで消費量と保有量とを較べた結果、まだまだ余裕はありそうだった。なので、このまま実験を続行する。
因みに、魔力の自己循環が出来るかどうか気になったので、魔力で水を生み出しそれを飲んで見たが、お腹は膨れたが魔力は回復しなかった。ま、当然か……。
話を戻そう。
そうだ、前の世界にあった物で、こっちの世界に無い物を出現させられるかやってみよう。
水を出現させた時に困ったので、コップを想像してみる。木のコップはあるので、硝子のコップだ。
結果は――失敗――。一瞬だけ出現したが、一秒と持たずに消滅してしまった。
魔力の量を増やしても結局変わらず、現存時間は延びたものの時間が経てば最後は霧散するように大気に吸い込まれていってしまった。
魔力で出現させている以上、留めて置くには常に魔力を補充し続ける必要がありそうだ。これでは使えない。
そこでふっと思いつく。
実在しない物を出現させるのに魔力を使って補完するのなら、実在する物ならばどうなのだろうと。
木のコップを出現させてみたが、結果はやはり失敗。
硝子の時よりかは時間が延び、消費魔力は軽減されたが、消滅という結末は変わらなかった。
、出現と消失を繰り返した所で、
「あれ? 私……、若しかして間違ってるんじゃね?」
重大且つ残念な勘違いに気付いてしまった。
そう、無いところから、在る物を実体化させようというのが間違っていたのだ。
今度は適等な木の棒を拾い上げ、それに魔力を注ぎながら念じる。
――コップになれ――と。
すると、なんと出来てしまった。
ドール用みたいな小さい木のコップが……。
これは……何だろう……。あれか? 質量保存の法則とやらだろうか? さっきの木の枝だと質量が少なくて、このような小さいコップになってしまったのだろか。
改めて、太めの木の枝を捜して再度念じてみる。
出来たのは、手の平に丁度収まる位のコップだった。
大成功である。
成程、想像とは変化を生むものであるとどこかで聞いた覚えがあるかも知れない。
ここで初日を終える。
尚、彼女の家に帰ると直ぐに要らない布を譲って貰い、この能力を使って早速寝巻きと下着、それと翌 日からの普段着を作ったのは言うまでも無い。
二日目は、昨日の推察が正しいかの検証と応用だ。
大きな木材を用意し、とある一つの物に変化させるべく想像する。
そう、RPGの主人公が冒険の最初に手にする武器、木の剣だ。
これは当然の如く成功。木材の質量に見合っただけの魔力を持っていかれたが、重量を据え置いたずっしりとした木の剣が手元に感じられた。
剣とくれば、次は盾だ。
再び魔力を流し、今度は盾に変化させる。
これも成功かと思われたが、肝心な部分が抜けていた。手に括り付ける部分だ。
ここはゴムや革を使って装着するのが基本だろうが、そこまで木で出来ていた。
そこで一旦お昼ご飯を兼ねてティアの家に戻り、要らない革を幾つか貰って再挑戦する。
お次は成功。
革紐を結ぶ形ではあったが、これで腕に装着出来るようになった。
これにより、複数の素材を使った想像にも成功したことになる。
ここまで来ると、今度は鉄が欲しくなる。
石を可能な限り掻き集め、石が鉄に変化する想像を加えてみるが、流石に錬金術は無理だった。
鉄の抽出には成功したものの、ほんの極僅かでとても使えた量では無く、使い道の無い石の剣や盾が無数に転がるという惨状を築き上げただけだった。
こうして二日目を終えることになる。
三日目では、完全なる想像の世界の確認ということで、想像上の武器“宝具”と呼ばれる物も試しに作ってみた。
嫌な予感がしたので、込める魔力を抑え目にしつつ、グングニルを想像する。
それでもごっそりと魔力を消費し、一本の槍が手の中に出現する。
私はそれを、近くの太い木に向かって投擲する。
すると、槍はいとも容易く木を貫通し、次の瞬間には手に戻っていた。
そしてこれまでと同じように掻き消えていった。
なんか、やってはいけない事をしてしまった気分になってきた。
しかし、もう一つ、これだけは確認せねばなるまい。
私はエクスカリバーを想像した。
ヤバイくらい魔力が減った。抑えたにも拘らず。
お陰でもうスッカラカンである。
手には、月の光を湛えた見事な一振りの剣。
あー、これはどう考えてもヤバいわ……。
私は理解しつつ、技名を叫びながら剣を振った。
「エクスカリバーーーーーー」
その瞬間、目の前が真っ白に輝き、次いで轟音。
それらが収まった後に目に飛び込んできた光景は、剣撃の直線上にあった木が十数本根元から消し飛んでいるという、とんでもないものだった。
木さん、ゴメンナサイ……。そう、心の奥で呟くしか出来なかった。
そうして実験を続けること7日目。
私は一つの変化に遭遇する。
泉の傍で遊ぶ4人の女の子と遭遇したのだ。